10月31日【聖なるハロウィン】
人々が人間界へのゲートを通っていく。
皆は喜色満面といった感じだ。
リーリュはそんな人々を嬉しそうに眺めている。
このゲートの監視は魔界王の役目なのだ。
と、そんな時一人の子供がバスケットを落とした。
それは流れる人々に踏まれ、見るも無残な姿に形を変える。
その子はみるみるうちに涙を目に溜めた。けれど泣きださない。
「……ちょっといいかな」
「ん? んー」
セシルの空返事が答える。リーリュは無言でバスケットに向かって歩いていく。
「これ、少し貸して?」
「えっ? え、魔界王様!?」
戸惑う男の子の手を引いて、リーリュはルナティアの元へ戻った。
ルナティアの傍らにはタッカが胡散臭い笑顔で立っている。
「タッカ、これ直せる?」
「俺を便利屋扱いするな! ……ったく、しょうがねーなー。お前はお人好しすぎ」
「そう言って俺の頼みいつも聞いてくれる君もお人好し」
タッカはニヤニヤしているリーリュを殴った。それを男の子がおろおろして見上げる。お人好しはお互い様である。昔から仲は険悪だったが、なんだかんだここまで関係が繋いできた不思議な二人だ。
「ほらよ」
タッカの差し出したバスケットは、すっかり元に戻っていた。それどころか、少しグレードアップしたようにも思える。復元魔法は、タッカの得意魔法だった。
「……あり、がとうございます」
「まっ、感謝ならリルにしとけ。俺は何もしてねーよ」
「あー別に気にしないで? 人として当然のことしたまでだから。ほら、行きな」
リーリュに背中を押された男の子は、大きく礼を言ってから雑踏の中に消えていった。駆けていく背中は、希望とか夢とか、そういうものに満ち溢れている。
そういうものに満ち溢れる小さな子がいるのは、全てリーリュの世界改革の努力の甲斐あってだった。
それから一時間ほど経って、やっとゲートを最後の一人が通り抜けた。
やっとリーリュ達も人間界に行ける。魔界王の監視の役目は面倒くさい。
「うあー!! やぁっと行けるー!!」
「思えば、私がここにいる必要性って無いのよね。どうしてここまで待ってたのかしら。馬鹿みたい」
首をかしげながらルナティアが呟く。
それを尻目に、タッカがゲートを抜けていった。
「あっ、私を置いていくとか!」
慌てて追いかける妖精女王が人間界へ消えていく。
「俺らもいこっか」
「今年も楽しい一日になるといいなー」
うきうきしているのが目に見える。セシルの笑顔は、夢とか希望を持っている子供たちと同じものだった。……シルはそんなのと全然遠いところにいるけど。
とっくに夢も希望も失った。いや、奪われた。貴族に。変わる前のこの世界に。リーリュもセシルも、嫌というほど貴族の権力に殺されかけてきた。
現在の貴族の力だって、昔よりは小さくなったというものである。
「……楽しいといいね」
ぽつりと呟いた彼の心には、得体の知れない嫌な予感が渦巻いていた。
なにかが起こるような予感。昨日からずっと引っかかっているものは、自分が絶対に忘れてはいけない何かであるような気がしてならないのだ。
不穏な空気をまったく感じさせない朝が来る。
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