10月30日【サミット】

ここは魔界の中で一番大きく、魔界にとって重大な意味を持つ建物。

人間界でいうところの国会議事堂に近いものだ。である。

荘厳な扉、最高級の白色魔鉱石、闇を象徴する漆黒の絨毯。

それらはすべて、この建物がいかに重要な場所なのかを表している。

その中を駆け抜ける影が二つ。


「遅れるー!!」


セシルとリーリュであった。

二人の羽織るマントが、速度によって生み出された風ではためく。

彼らのマントの色は絨毯じゅうたんと同じだ。

「曲がり角ッ」

「バカッ、ぶつかる!」

曲がりきれずに壁と事故を起こす寸前のセシルを、思いっきり引っ張る。

そのまま騒がしく魔界総司堂を走っていく。

何回か階段を駆け上ったら、やっと目的地に着いた。

「時間」

「セーフだよ!」

扉を開け放ち、安堵した笑顔を浮かべ、さらにハイタッチをする二人。

そんな彼らを微笑で迎える一人の女性がいた。


「……どこがセーフなのかしらぁ?」


げっ、と思わず声を出したのはリーリュだ。

「あんたは何度遅刻すれば気が済むのよ! もう皆が慣れ始めたわ!」

「遅刻なんてしてないじゃん! 間に合ったよ!」

「どーこーがーだー!!」

情けない弁明をするリーリュの頭を、力の限り叩く女性。

彼女の名は、ルナティア・アルカディア。現妖精女王だ。


この世界にはたくさんの種族が住んでいる。

妖精族、女神族、魔術師、精霊族、巨人族、小人族などなど。

これらは代表的な種族であり、他にも彼らの下等種族や、少数種族が共生している。彼らは互いに干渉しない。仲良くはするが、深くは立ち入らない。

一種族につき一人の王。その王のもとで、各種族は生活しているのだ。

しかし。

不干渉というルールで生きている彼らをまとめる存在はある。


それが魔界王―その時の魔界最強の存在が務める、絶対権力者。


魔界王を務める種族が変わったことはない。

どの時代でも、魔界王はある種族の長が務めていた。

その種族は誰より強く、誰より冷徹で、誰より秀でている。


「あんたがイブサミットに遅れてどうするのよ!」


吸血鬼。それが魔界王を務める唯一の種族だ。


「分かった、分かった! 降参だよ、妖精女王。俺が悪かったって。君たちも、待たせて悪かった」

「貴方様の遅刻癖にはもう慣れていますよ」

巨人族の王がため息をついた。それでも、嫌われているような険のあるため息ではない。むしろ、出来の悪い息子をやれやれと受け入れる親のようなため息だ。

嫌われないのは、彼の性格などに起因するのだろう。


「皆揃っているな。では、今年もハロウィン・イブサミットを始める」


魔界王、リーリュ・ヴァンディアの一声で議場の空気は引き締まった。




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