“何もない”が存在する世界

風見☆渚

第1話 出会い

(プロローグ)

世の中は、5秒前に創造され出来上がっているという考え方がある。

それは、自分という存在を認識する為の時間である。

しかし、自分という存在を認識出来たとしても、世の中には自分と同じ人間が3人いると言われている。

ここは、その“2人目”とされる人間がいる、そういう世界。

この世界に迷い込んだ者は、自分と全く同じ『人間』と出会ってしまい、自分が誰でどこから来たのか、時がたつにつれてわからなくなってしまう者もいるらしい。

中には自分を試してみたり、自分という存在に悩み苦しみ、そしてあがいて生きている。

人の数だけ考え方や生き方がある。

ここは、そんな世界。


この世界で住んでいる住人は、皆空白の書の持ち主。

だから、みんな自分の想うように自然体で生きている。

時々、自分の持っている空白の書に己が行ってきた事象を記憶の変わりに書き残す者もいる。その形は様々で、文章のみの者もいれば、中に絵を描き情景ごと残す者もいる。

全ての住民が空白の書を持ち主なのだから、もちろん個々に役目を与えられているわけがない。

自分の事は自分で考えて生きていかなければならない。

だからこそ、人生の離脱者とされてしまう者も出てくる場合もある・・・

自分は何をやりたいのか?

そして何が出来るのか・・・

そんな事を考えて、皆生きている。

・・・・ここは、そんな世界。








第1話 出会い


いつものように霧に包まれ、次の想区へ移動している調律の巫女一行。

今回は、珍しく霧の中で分岐路を発見。


「・・・・?

こんな事初めてだわ。」


レイナはタオやシェインよりも前から色々な想区を移動し旅してきたが、沈黙の霧の中で分岐点が別れているという現象は初めての経験だった。

迷っているレイナにシェインが、


「これは・・・どっちの行きましょうか姉御。

調律の巫女として、ここはズバッと決めちゃってください。」


とレイナの直感に頼った。

悩んだあげく、レイナは先頭を歩き出し、


「きっとこっちよ!」


と自信満々に突き進んでいった。

それを見た他の面々は、


「じゃぁ、こっちで正解だな。」


とタオの声に反応し、皆納得したようにレイナとは逆方向に迷いなく歩き出した。

迷子のお姫様が自信満々で進んでいくのだから、問題なく逆方向に進みたくなるのはしょうがない事だろうと思う。


「ちょっと!

あんた達!どこに行くのよ!?

私がこっちって言ってるんだからこっちに来なさいよ!!」


怒ったレイナは、手近にいたエクスの首もとを引っ張り、そのまま強引に自分の選んだ道へ進んでいった。

強引に引きずられているエクスが可哀想に思い、シェインがまるで子供のだだっ子をなだめるように、


「しょうがないですね・・・

タオ兄・・・姉御の言う方に進んであげましょう。」

「そうだな・・・このままじゃエクスが苦しそうだ・・・」


ということで、シェインとタオも諦め、レイナの進む方向に進んでいった。


この選択が、正解なのか間違いなのか・・・

それは、後々の彼らが選ぶのだろう。


沈黙の霧を抜け、新しい想区に到着した一行。

辺りを見渡すと、一人の少女が歩いているのが見えた。

まずは、ここがどういう想区なのかを確かめるべく、道行く少女に声をかけた。


「ちょっとそこのお嬢さん。

これからどちらに行くのですか?」


シェインの呼びかけに振り返る少女。

振り返った少女の顔を見た一行は驚いた。

なぜなら、その少女がレイナそっくりの顔をしていたからだ。


「・・・誰?」


呼びかけに振り返ったレイナそっくりの少女は、怯えた様子で応えた。

しかし、振り返った後、少女はジリジリと後ずさりしながら段々と一行との距離を広げている。


「俺たち、怪しいもんじゃないんだが、ここら辺で村とかあるかな?」


とタオが近づくと、


「きゃーーーー!

誰か助けてーーー!!」


と叫びながら、少女は遙か彼方へ逃げ去ってしまった。

これにはさすがのタオも、知っている顔から突然の拒絶に、がっくりと肩を落とし落ち込んでいる様子。

さっきの驚きから固まったままのレイナが、ハッと我に返ったが、まだ混乱の中にいるようだ。


「あの子・・・誰?・・・私?」


シェインも不思議そうな顔をし、逃げる少女の背を眺めていた。

何もない平原に、ポツンと残されるような感じになった一行ではあったが、このままここで立ち往生していてもしょうがない。


「とりあえず、彼女の行った方向に村があるのかもしれない。

行ってみよう。」


エクスの声に、我を失ったレイナと、思いの外落ち込んでいるタオがうなずき、少女の逃げ去った方向へ向かう事にした。

どこまでも続く平原を歩いていると、また人影を見かけたのでシェインはもう一度声をかける事にした。


「あの~・・・ここを進むと、村があるのでしょうか?」


呼びかけに応え、背を向けていた青年が振り返り、一行の方に顔を向けた。

青年の顔を見た一行は、開いた口がふさがらないといった表情で驚いている。

なぜなら、その青年はタオそのものだったからだ。

この可笑しな状況に、タオは気が動転しているのか、


「俺はタオだ。

俺にそっくりなおまえはいったい誰だ?」


タオの質問に、その青年は、


「俺がタオだ!

おまえこそいったいどこの誰だ?!」


と怒った口調で返してきた。


俺が俺がを繰り返す二人のタオ。

レイナはもちろん、シェインとエクスも、タオが二人いるという異様な光景をただただ見守る事しか出来なかった。

その俺が俺がを繰り返すタオ達だったが、片方が突然、


「あれはなんだ?!

ば、バケモノ!!」


と言って驚き、尻もちをついた。

青年の指さす方向を見ると、クルル・・・クルル・・・とこちらを睨みつけるヴィランがいた。


「タオのことは後にして、まずはこいつらをなんとかするわよ!!」


とレイナが皆に指示を出し、空白の書を手に光りに包まれヒーローを呼び出した。

一行の慣れた戦いぶりを、タオに似た青年は信じられないといった顔で見ている。

突然の出現ではあったが、毎度の慣れた戦闘を終わらせ、尻もちをつたままのタオにこの想区の事を尋ねようとタオが声をかけるた。


「さっきは突然悪かったな。

大丈夫か?」


手を伸ばし、青年の手を引き立ち上がらせた。

青年は、タオの手を取り立ち上がると、


「いや~おまえ達凄いな!!

あんなバケモノに勝っちまうなんて。」


青年がタオと肩を組み、尊敬の眼差しで一行を見ている。

そんな、尊敬の眼差しにさっきまで落ち込んでいたタオは自身を取り戻したのか、青年と意気投合したように語り出した。

さっきまで、俺が俺がと言い争っていたのは何だったのだろうかと思わせるくらいの仲良し見えてくる。

青年は仲良くなった流れで、このまま自分が暮らす村に案内してくれるという。

一行はその青年の住む村に案内された。

平原を抜けると、程なくして村が見えてきた。

ここが青年の住む村のようだ。

道中“ここまでタオに似ている人間がいるなんて”と思ったが、到着した村は特に変わった様子もない。

村に入り青年の自宅らしき家に着くと、自分の弟だと言って一人の少年を紹介してくれた。

しかし、そこにいるのは、どうみても紛れもなくエクスそのものだった。

エクスとその少年は、お互いを見合い、そして、同じ格好で悩んだ表情を浮かべている。

同じ顔で同じ名前の人間が3人もいるなんて・・・・

ここはいったいどんな想区なのだろうか。

青年と少年が暮らす家の前で困惑している一行。

そこに、


「エクス。

これ、今日の分だから置いてくわよ。」


といって、畑で採れたのだろうか、たくさんの野菜を手に少女が現れた。

その少女は、エクスのいた想区で出会ったシンデレラそのものだった。

少年は小さな声で、


「あ、ありがとう。」


とお礼を言うと、シンデレラに似た少女が笑顔を返し帰って行った。

そのやりとりを見ていたシェインは、どうやらこの少年はシンデレラに似た少女に恋心を抱いているようだと感づき、


「顔も似ると、女性の好みも一緒なんでしょうかね。」


と、ニヤけた表情でエクスと少年の顔をのぞき込んだ。

少女からもたらった野菜を片付けてくると言って、顔を赤く染めた少年は家の中へ足早に入っていった。

少年の背を見送った青年が、近所のやつにも似た顔をいるから紹介したいと言って隣の家に一行を案内した。

もしかしてと、何かを感じ取ったシェイン。


「・・・まさか」


と言った後、隣の家から出てきた人物は、予想通りさっき草原で出会ったレイナそっくりな少女とシェインそっくりの少女だった。

レイナそっくりの少女が一行を指差し、


「あなた達はさっきの変質者!!

誰か!!誰かーーー!!!」


と突然叫びだした。

しかし、横にいたシェインそっくりの少女が、


「やめてください姉御。

タオが連れてきたということは、少なくともそこまで怪しい訳はないと思いますよ。

だから、その恥ずかしいまでの被害妄想と迷子癖をなんとかしてください。」

「今、迷子は関係ないでしょ!!」


レイナの慌てぶりをなだめてくれた。

シェインそっくりの少女からすると、タオ似の青年は信頼出来る存在にあるようだ。

タオそっくりな青年に尋ねると、隣に住む少女達は姉妹で、昔からのつきあいらしい。

何かと縁があり、昔から仲良く暮らしているそうだ。

ただ、ここまで似た人間が、全員揃うという事が珍しく、少し話を聞かして欲しいと言ってきた。

一行も、ここがどんな想区なのかを知るために、詳しい話を聞きたかったので、一先ず青年の自宅へ行くことしにした。


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