番外編 スプリングステークス―天才の証明(前編)―
※俺の名はジーニアスブレイン。その名のとおり天才である。
俺は生まれた時から天才としての加護を受けている。
―スキル。日本で1000頭に1頭しかいない、生まれながらに持っている才能のこと。俺のスキルは『
初の敗北は、俺が入厩して2ヵ月経った頃、併せ調教の相手として併せた1つ年上の『スピアーノ』だった。他にも年上の馬と併せたことがあるが俺が先着している。だが、スピアーノだけには勝てなかった。それもそのはず、スピアーノはGⅢ毎日杯の勝者だった。重賞馬はこんなにも強いのかと思った。デビュー前にまずはこいつを倒す!!
1日目敗北。2日目敗北。3日目敗北。
「いや…併せ調教ってそんなんじゃないよ。」そんなの関係無しに挑み続けた。
1週間敗北。2週間敗北。3週間敗北。
と連戦連敗だった。
そして、4週目に倒した!確実に!
デビュー前のこの俺が!!重賞馬を完封した!!
―束の間の喜び。
―だが、上には上がいる。
『グランディオール』―俺が入厩した時点の成績が、12戦6勝、勝率50%、連対率100%を誇る現役日本最強スプリンター。同厩舎の5歳馬。
当面の目標はこいつを倒すことだ!
日本最強馬止まりのこいつを倒し、最終的に俺は!!世界最強馬になる!!!※
「―お断りだ。
なぜお前みたいなのと併せないといけないんだ?
そもそも俺と併せられないだろ?」とグラディオ。
「いいやできるね!
俺はスピアーノを完封できるほどの実力がある!!」
「それがどうした?
スピアーノと併せられるからといって、俺と併せることができるわけじゃないぞ?」
「…はっ!
併せられるという次元じゃない!完封できるんだ!!
つまり!!あんたと併せられる実力があるんだぜぇぇ!!」
「言葉遣いに気を付けろ。そしてお断りだ。
言葉遣いが理由じゃない。俺とお前の実力が違いすぎるからだ。」
「あぁあん?
やってもいないのに何知ったかぶってるんだぁああ?俺は―」
「スピアーノとの戦いは知っている。」とグラディオは口をはさみ、ジニブレは少し驚いた。
「一月もやっているんだ。気にならなくても目に入る。お前の実力はだいたいわかっている。
もし俺とお前が併せたら…お前は、絶望するぞ。」グラディオは脅し気味にそういった。
「はっ!!
『お前は、絶望するぞ。』何かっこいいこと言ってんだぁあ?俺は―」
「俺はした。」とグラディオはまたしても口をはさんだ。
「お前くらいの頃に『ブリアレオース』という馬と併せたことがある。
ブリアレオース―10戦7勝、連対率70%。当時、日本スプリント界に旋風を巻き起こした名馬。1~3戦目は掲示板に入ることさえなかったが、4戦目に覚醒し、デュランダル(実在馬)を彷彿させる末脚で快勝。GⅠ3勝を含む7連勝を飾り、勝利時の着差はすべて3馬身差以上。最大は7馬身差。ほとんどハナ差から頭差で決まるスプリント戦は2着に2馬身引き離すだけでもすごいとされる。
「その時俺は思った。
『この馬には絶対に勝てない!!』とな…。
その後、2度レースで戦ったが…全く歯が立たなかった。俺はブリアレオースを超えるために鮮烈な努力をした!だが、そうこうしているうちにブリアレオースは引退した。」
ちなみに、ブリアレオースはレース中に骨折をし、3馬身差で勝利。その後サイレンススズカ(実在馬)ほどまでいかなかったが、全治8か月と診断され、そのまま引退した。
「その後は海外遠征は負け越しているが、国内では無敵だった。そして今の地位に立っている!
けれども、現役日本最強馬と言われてる今でさえも!その当時のブリアレオースに勝っているとは思えない!!
俺は2度、絶望している。」
「……………。」ジニブレは黙っていた。
「俺は身体が衰え始めている。もうすぐ引退するだろう。
もし今、俺と併せたら、俺と同じ道を歩むかもしれない。お前にはまだ…未来がある。俺は…ジーニアスブレインという芽を…摘みたくないんだ……。」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(一時の間)。
ヒャァアアッッッハアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
お前とは違い俺は天才だぁあああ!!!
俺はお前と同じ道を歩まない!!!
俺はお前の道のその先の!!!世界最強馬の道を歩む!!!!!
俺はお前と併せたい。」
「……………。」
…忠告を無視するか……。そこまで言うならば条件をつける。」
「…条件んん?」
「俺は一度しか併せない。それ以上したかったらレースで戦おう。これが条件だ。」
「いいぜぇぇ!!一度あれば十分だぁぁ!!」
「最後に一つだけ聞く!
絶望する覚悟はあるか!!!!!」グラディオはタリスとアブソがダービーで見せた殺気を…いや、それ以上の現役日本最強馬の凄まじい気迫をジニブレにぶつけた。
「絶望?
お前とは違うというところを見せやるぜぇえええ!!!」
「そうか。
俺は次に安田記念に出走する。
せめて…俺の二連覇への糧となれ!!!!!」
※―結果、惨敗。
まあ、当然だ。現役日本最強馬に勝てるとは思っていなかったし、ましてや、同等に併せられるとは思っていなかったさ。おこがましい。
……………。ハハッ!
こいつには絶対に勝てない!!!………おっと危ない!『今は』。
グランディオールが引退する前に勝ってやる!!!!!
―そして、デビュー、圧勝。
まあ当然だな!同世代には負ける気がしない!
GⅢ新潟2歳ステークス、圧勝。
ヒャッハアアアアアアアアアア!!!俺は天才だあああああ!!!!!
―束の間の喜び。
GⅡデイリー杯2歳ステークス。
……?俺の単勝オッズ2.2倍??デビュー1.1倍、GⅢ1.6倍と来て2.2倍ィイイイ???
(…チラッ)
お前かああ!!タリスユーロスターアア!!
前走、たまたま圧勝したからって、いい気になってんじゃあねえぞ!!
俺がいる時点で、お前の負けは確定してしてるんだ!!!
お前は黙って負けておけ!
ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
そう、こいつ、タリスユーロスター。デビュー戦をヴァかやって、前走の未勝利戦を圧勝した馬。しかも走破タイムが天才の俺よりも速い!!なんだこいつは!!
結果は、ハナ差ギリギリ勝った!
ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
―束の間の喜び。
次やったら負ける!!
そう思い、早くも必殺技の習得に励んだ。だが、次のGⅠ朝日杯までの一カ月間では付け焼き刃程度の習得しかできなかった。
GⅠ朝日杯フューチュリティステークス。残り800m過ぎ。
―――コンスタントスピード!!!
必殺技だと!!いいや…俺と同じ付け焼き刃の必殺技だろう。
だが、付け焼き刃使うということは、それは諸刃の剣と化す!!賭けにでたのだ!!
俺も使うか?いいや…使って体力を消費しては元も子もない!
それに、俺にはスキルがある!!中山競馬場の最後の直線で、約40%の勾配の坂で俺以外は必ず潰れる!!
「ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
……………。
…………は。
はぁああ!!!?
(なぜだ!!!なぜ奴は減速しないんだ!!なぜ加速もしてないんだ!!わからない!!!)
ば、ヴァかな!!!
あ、ありえない!俺は天才なんだ!!!こんなところで負けるはずがないんだ!!!
ありえない!!ありえない!!!ありえない!!!!!」
「いや、知らねぇよ。
お前の理論だと、こんなところで負けるお前は天才じゃなかったってことじゃねぇの?」とタリスは答えた。
「――……!!!!!」俺は……負けた。
そりゃあ悔しいさ。同世代に負けたことがなかったからな。
……………。
…まずい!!!俺は今!絶望している!!!グランディオールに惨敗した時でさえ思わなかったのに……!!!こんなことは初めてだ!!!
―と、思ったのは一日だけだった。
当然だ。俺は天才だからな!!こんな逆境跳ね除けてみせる!!!
すかさず必殺技を習得し、3歳の初戦はGⅡニュージーランドトロフィーだ。おそらくタリスユーロスターもこのレースに出走するだろう。もし違ったとしてもGⅠNHKマイルカップで確実にねじ伏せ、リベンジする!!!そう思っていた―
―だが、タリスユーロスターはクラシックレースの皐月賞の前哨戦GⅡ弥生賞に出走した。
ヴァかな!!弥生賞だと!!まさか短距離路線ではなくクラシック路線に行くのか???いいや…奴はどう見ても短距離向きの体をしている。それは俺の厩舎の
ならなぜ、出走するのだ??……自分の限界を知るためか?それなら納得する。
ならば俺も!!
GⅡスプリングステークス。このレースは弥生賞と対をなすレースである。
1800mと弥生賞より200m短いがそれでもクラシック路線の登竜門。このレースで自分の限界を知る!!
……………?アブソリュート?
弥生賞はアブソリュートが勝ったか。幼少期に俺がフルボッコにした、あの?
…フ!強くなったな。
…で、肝心のタリスユーロスターは………2着か……。だが、100%コンスタントスピードだとぉぉ!!こいつも強くなっている!
……………?故障発生か?
…結局、その必殺技はいまだに諸刃の剣だということか……。※
―スタートしました!!おおっとぉお!!ジーニアスブレインが大きく出遅れ!!!
(な!!しまった!!!)
ジーニアスブレインが今スタートしました!!後続から10馬身はあるぞぉおおお!!!
「うっっっわ!ないわ!」
「1.6倍なのにマジかよ……。」
「それないわ~」
会場はどよめいた。
「大丈夫でしょ!天才さん!」と腑抜けた感じで、ジニブレ騎乗の
「…ああ…。」
※この藤宮という男は鈍才である。それをこの男は自覚している。
何をやるにも雰囲気でやっている。邪魔をしてはいけないときは何もしないし、鞭が欲しいときは雰囲気で鞭を入れる。
そんな鈍才の声掛けは妙に落ち着く。凡才ならこの声掛けはイラつくかもしれないが、俺は天才だ。才がかけ離れていると笑止である。※
1000m通過タイムは1.00.3!と平均的!
「天才さん、そろそろいいかい?」と藤宮。
「ああ。」とジニブレは答えた。
「ほーい。」
―――クライム・スティープ・ヒル!!!
(((((必殺技!!!)))))全馬、ジニブレを警戒した。
「タリスユーロスターのコンスタントスピードのような必殺技か!!?」とモブ馬1。
(((((は、速い!!!)))))
ジーニアスブレインが後続を捕らえた!!
「さっきてめぇ…変なこと言ったなぁぁ。『タリスユーロスターのコンスタントスピードのような必殺技か!!?』ってなぁぁ。」
(何であの距離で聞こえたんだ!?)
「あいつと一緒にするな!!!
俺の必殺技『クライム・スティープ・ヒル』は発動してから600m間、全馬の走る体感を登り坂にする!!」
(((((わ、訳がわからねぇ…。)))))
「な、なぜ登り坂にする!?」とモブ馬12。
「あぁあん?俺のスキルを知らねぇなぁぁ?
俺のスキルは『
「つまり、俺たちは登り坂だが自分だけ平坦を走る、そういうことか!!」とモブ馬7。
「だが、さっきから登り坂を走っているように感じないぞ!?」とモブ馬3。
「それはお前がヴァかだからだ!!クライム・スティープ・ヒルを受けて何も感じない奴は
ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
さあ!最後の直線!!ジーニアスブレインが先頭を捕らえる勢いだ!!!
(まずい!平坦だからといって距離が長い!出遅れのツケがまわってきた!!い、息が……!!
……………。
なぁ~ぁあんてね!)
―――リカバーグラウンド!!!
(まだ鞭無しだが、今は十分だ!
リカバーグラウンドは体力を10%回復する必殺技!)
「ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
ジーニアスブレイン!!!ジーニアスブレイン!!!もうすぐ先頭だ!!!
!!!が!!!中山競馬場名物の急坂!!!
を難なくクリア!!!
――ゴールイン!!!!!
ジーニアスブレイン!!あの絶望的な出遅れからの逆転!!!
強い!!!強すぎるぞぉおおおぉおおおぉおおぉおおおお!!!!!
「ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
※束の間の喜び※
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