第23話 日本ダービー―競馬に絶対は無い―

「ここで頑張らなかったら…かっこ悪いやろが!!!!!」



――ペガサス・ザ・ゴールド!!!



「な!!この土壇場で覚醒した!!!

もしかしたらもしかするかも!!!」と菊池調教師は期待が高まった。

その隣で結は「がんばれ」と無意識に叫んだ後、我に返り、身を隠すようにうずくまり、プレタの勝利を祈った。


覚醒―ある馬が急激に気持ちが高ぶった際、稀に必殺技が発現すること。いかなる場合でも覚醒するが、ほとんどレース中に覚醒することが多い。覚醒した必殺技は鞭無しの必殺技しか発現しない。


 必殺技は鞭無しよりも鞭ありの方が強力。


ペガサス・ザ・ゴールド―自身のスピードのステータスを1段階下げ、体力を20%回復する(ステータス2段階UPではない)。いかなる場合もスピードのステータスを上げたり、加速することはできない。


 プレタポルテの現在のステータスは以下の通り。


 適正距離 →2600m~3000m

  脚質  → 逃げ(大逃げではない)

 芝・ダート→ B・C

  体力  →  A

 スピード →  C

 スタミナ →  A

  坂   →  D

  道悪  →  D

  瞬発力 →  D

 スタート →  C


 プレタのスピードはDになるが、ほぼ一杯の馬2頭を捕らえるには十分だ。



 タリスユーロスター!!タリスユーロスターが先頭!!!残り200!!!

 !!!!!と!!!!!後ろからプレタポルテ!!!プレタポルテだ!!!一杯になったはずのプレタポルテが怒涛の追い上げ!!!

 !!!残り100!!!プレタポルテがアブソリュートを捕らえにかかる!!!プレタポルテ!!!並んだ!並んだぁあああ!!!!!プレタポルテがアブソリュートを捕らえた!!!!!

 !!!!!残り50!!!!!



「(よし!ここだ!!)

 タリス君!!息をお―――」小牧がタリスに息を吸って止める指示を出した瞬間、このレースを見ているすべての者がアブソリュートの勝利を確信した。


 観客のテンションは最高潮に達し―

 山下は絶望し―

 田辺は大きくガッツポーズをし―

 直樹は満面のドヤ顔をし― 

 結はうずくまったまま勝利を祈り―

 菊池は唇を強く噛みしめ―

 巽氏と諏訪は特に反応はなかった―ように見えた―

 それでも小牧とタリスは諦めず―

 田村とプレタも諦めず―

 周防は鞭を振り上げていた。



(「騎手の腕の見せ所」とか「全力だせ」とか言って全然太刀打ちできなかった。

 俺の負けだ…小牧。

 だがな!レースの勝利だけは譲れねえ!!!)周防は鞭を振り下ろした。


(清二は小牧騎手の全力の見たさに、最初から、俺に鞭を入れないつもりだった。

 俺もそうだ。俺も俺自身、鞭無しでどこまでやれるのか知りたかった。

 ……1馬身半か………。俺もまだまだだな………。

 だからだ!!!だからこそそれを教えてくれた好敵手ライバル、タリスユーロスターとプレタポルテに出会えたことを…誇りに思う…!!

 そして、その誇りと共に…日本最強馬ではない!!!世界最強馬に…俺はなる!!!!!)アブソリュートの目はいつもよりもギラついていた。



――ジ・アブソリュートグローリー!!!


 効果―自身のステータスをすべて1段階上げる。ただし、ステータスAの場合、Sに到達せず、Sに近いAとなる。


 アブソリュートに!!!鞭が!!!入ったぁああああぁあああぁああぁああああぁああぁああああぁあああぁああぁああああぁああぁあああぁああああぁああぁあああぁああああぁああぁああああぉあああぁああああぁああああ!!!!!

 アブソリュートがかわし!!先頭に立った!!!!!

 先頭はアブソリュート!!!先頭はアブソリュート!!!!!

 これが!!!これが絶対の強さかぁあああぁああああぁあああ!!!!!

――ゴールイン!!!!!

 アブソリュート!無敗の2冠達成―――!!!!!

 次の舞台は菊か!!あるいは世界か!!!


アブソ!!アブソ!!アブソ!!アブソ!!アブソ!!アブソ!!アブソ!!アブソ!!アブソ!!アブソ!!―と会場中にアブソコールが沸き起こった。


 1着 アブソリュート   (2.22.9 レースレコード)

 2着 プレタポルテ    (3/4差)

 3着 タリスユーロスター (1/2差)



 アブソリュートがウイニングランをしている頃―


「くそっっ!!永久種付け権が!!」とタリスはかなり悔しがっていた。


「くそっ…。

(くそっ…だなんて……初めて言った……。)」小牧はタリスの上で泣き崩れた。



「結…!」プレタは結と再会した。


「…プレタ……今まで会わなくてごめんね…。

 かっこよかったよ…。」と結は涙目になりながらプレタに寄り添った。


(ああ…

 こんなこと言わせるなんて…かっこ悪いなぁ…。)



「―――それでは!勝利ジョッキーインタビューをいたします!

 周防騎手おめでとうございます!」


「ハァ…あ…ハァ…ありがとう…ハァ…ござい…ます…ハァ…ハァ…」周防はかなり息があがっていた。


「周防騎手は2度目のダービー制覇となりました!その感想を聞かせてください!」


「ハァ…ハァ…ハァ…え?…ぁの?…ハァ…何ですか…?ハァ…ハァ…」


「え?…あ!

 ダービーを勝った感想を聞かせてください。」内藤アナはゆっくり聞こえるように言った。


「…うれしいです!はい…!」と周防はそう言った途端、崩れるように膝に手をつけた。

「アアアァァ……ハァ…ハァ…

(くっそ!マジかよ!!ここまで体力切れてるの初めてだよ!!

 普通、多少の息切れはあっても、膝に手をつけることなんてねえよ!!

 ……………。

 …そうか…小牧に全力出せなんて言ったけど、俺も…全力を出してなかったんだな……。)ハァ…ハァ…」


「あの…えっと……医務室に連れていきましょうか?」と心配そうに内藤アナは尋ねた。


「…あの……マイク……ハァ…渡して…くれませんか……ハァ…ハァ…」


「は…はい!どうぞ!」


「ハァ…ハァ…すぅぅうう……

 ……………。

 !!!!!アブソリュートが世界をとる!!!!!」周防がそう叫ぶと会場中静かになった。

「!!!!!だから!!!!!…ゲホッゲホッ…

 ……………。

 ……………ッ!」周防は内藤アナにマイクを押し付け返し、自分で医務室に行った。


「……………。ハッ!

 えっと…!い、以上!勝利ジョッキーインタビューでした…。」


アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!アブソ!!周防!!―と会場中にアブソと周防コールが入り交じって先ほど以上に沸き起こった。


 その後、周防は第11レースと第12レースも騎乗予定だったが他の騎手との乗り替わりとなった。

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