第21話 日本ダービー―コンスタントスピード―

「行くよタリス君!!1000m超ロングスパート!!!」


――80%コンスタントスピード!!!


「「17頭全員!!!ゴボウ抜きだぁあああぁああぁああああ!!!!!」」


 タリスユーロスターに鞭が入ったぁああああぁああぁあああぁああああ!!!

 早い!!!早過ぎるぞぉおおぉおおおおぉおおぉおおお!!!!!


「な!?ここで必殺技!?」

「嘘だろ!?」

「持つはずがない!」


 タリスユーロスター!!大外から一気に抜き去っていく!!!本当に80%かぁあああ!!速すぎる!!!


 青葉賞同様、タリスに併せて外に出て煽る馬はいるが、そんなの関係なしにタリスは動じず、抜き去った。


東京競馬場名物!大欅おおけやきに集団が通るころ!先頭のプレタポルテが第4コーナーを曲がり!最後の直線!!525.9m!!!


(…あれ?

 …東京の直線って…こないなに長かったっけ……?)プレタポルテは意識が朦朧としていた。


 アブソリュートだ!!アブソリュートがプレタポルテをかわして先頭に立ったぁあああぁあああぁああああぁああ!!!!!

 プレタポルテは一杯かぁああ!!!?

 無敗の2冠に夢が近づく!!!


 アブソはプレタをなんとかかわしたが「…ゼェ…ゼェ…」と息があがっていた。


 そうこうしてるうちにタリスユーロスターがやってきた!!!タリスユーロスターがやってきた!!!集団の先頭だ!!!前はあと2頭だけだ!!!


((あと2頭!!!))


 直線に入り!それでも10馬身差!いや!!!プレタポルテをかわしてすでに5馬身差まで縮まっている!!!


(…青葉賞この前は…15馬身差で勝ったのに……もう…追いつかれてしもうた……。)とプレタは悔しがっていた。


 先頭はアブソリュート!!タリスユーロスター!!タリスユーロスターが並んだ!!タリスユーロスターが先頭に立ったぁあああぁあああぁああああ!!!!!

 !!!が!!!止まったぁあああぁああぁああああぁあああぁあああ!!!!!

 タリスユーロスターが半馬身リード!!!!!残り300!!!!!


(え!?嘘!!?早すぎる!!!)


 コンスタントスピード―自身が指定したスピードを維持する必殺技。上り、下り、平坦、左右移動、いかなる場合もスピードを維持する。だが、出力を維持する必殺技ではない。

 朝日杯、上り坂でスピードを維持するために体力をいつも以上に消費し、ジーニアスブレインのスキル『登山下山アップ&ダウンザヒル』に対抗できた。本来ならタリスは1600mを走り切っても、バテるほど息はあがらないが、ゴール直前で息があがり失速したのはこのため。

 弥生賞、諏訪調教師が「今は体ができておらん!!」と言ったのは、自動車で例えるとタリスの体は4速までしか切り替えられない。自動車は平坦の場合、4速より5速の方が燃費がいい。逆に坂道の場合、4速の方が5速より燃費がいい。タリスは4速までなので、1段落として、5速の代わりに4速、4速の代わりに3速で

走れば体は対応できる。

 さらにコンスタントスピードはオートマチック、自動で体のギアを切り替えられるのだが、タリスの考えは「全力100%=全速(4速)」。タリスは手動マニュアルで無理やり4速のままにした。

 つまり弥生賞は、体のギアを変えずに燃費の悪い走りをし、最終的に体を壊してしまった。



(1000mを62秒7で通過したから?

 僕が震えたから?

 残り1000mからスパートをかけたから?

 大外を走らせたから?

 それも1つの要因かもしれない……。

 だけど……何、このプレッシャー…!!アブソリュート君が「俺はまだ走れる」と言わんばかりに放たれる殺気プレッシャー…!!)小牧は空気に飲み込まれた。


 現在、タリスの体は4.5速まで切り替えられ、燃費のいい走りをすでに学んだ。前走の青葉賞で2400mを体験し、走り切れることがわかったにもかかわらず、体力を消耗し切ったのはストレスが主な原因。GⅠ、ダービー、アブソとのリベンジ、永久種付け権、アブソから放たれる殺気、自身の殺気など、ストレスは体力を奪う。



(…怖い。

 …怖い!…怖い!…怖い!…怖い!!…怖い!!…怖い!!…怖い!!!…怖い!!!…怖い!!!…怖い!!!!…怖い!!!!…怖い!!!!…怖い!!!!!…怖い!!!!!…怖い!!!!!)


「どうした?震えているぞ?

 …ああ、あれか…?武者震いってやつか?

 互いに一杯になった馬どうし!騎手の腕の見せ所だからなあ!!小牧!!!」と周防が発破を掛けた。


「(あれ?おかしいな?武者震いはさっきしたはずなのにな…ハハ。)

 ……………ああ!そうだよ!!」と小牧が言い放った。


「やっと本気を出したな!!!この時をずっと待ってたぜ!!!!!」


(ここからが勝負だ!!)



 馬は体を縮めてのばし、縮めてのばしという動作を繰り返して走っていく。騎手が馬を追うとき、馬を「押す」という動作をしているわけではない。縮めてのばしの動作にうまくタイミングを合わせて手綱を引っ張ったり伸ばしたりして乗っている。そうしなければ、馬は走りづらく、スピードが出ず、スタミナもロスしてしまう。

 その動作を完璧にすれば―――。



(くそっ!!マジかよ!!半馬身ビハインドされていたのに、もう1馬身差までになっていやがる!!!)と周防は焦っていた。逆に小牧は冷静に完璧にタリスの動作に合わせた。さらに―――。


「タリス君……息を大きく吸って……」と小牧はタリスの耳元に近づき、そうささやいた。

 タリスは小牧の言っている意味はわからなかった、が、言うこと聞いた。


「…すぅぅぅううう……」「息を止めて!!!」と小牧は叫び、手綱を引いた。

 タリスはさっきまでと明らかに違う力の入れ方だとを悟り、それに応えるように馬銜はみを強く噛んだ。


 残り200!!!タリスユーロスターが先頭!!!半馬身のリードだったアブソリュートとの差がいつの間にか1馬身半離れているぞぉおおおぉおおおぉおおおおぉおお!!!!!


(マジかよ!!!まだ引き離すのか!!?!)と周防はさらに慌てた。


「……………くはっ……!

(え!?なんだ今の!!?確かに息を止めた方が力が出やすいけど、普通するか!?!?俺、一杯一杯だよ!!!!!)」とタリス。


(…コンスタントスピードは生命維持のため息があがったら失速する必殺技。

 けど、失速するといっても5%のコンスタントスピードになるだけ…!!)と小牧。


正確には体力のステータスがEになったら使用者の意志とは関係なく、強制的に5%のコンスタントスピードと体力の消費からスタミナの消費に切り替わる。


(そして!コンスタントスピードは自分の意志で減速はできないが加速はできる!!それは、朝日杯で60%から80%に切り替えられたことで証明している!!)


 朝日杯でタリスは残り800mから諏訪から教わった60%コンスタントスピードを発動、残り400mで成長し、教わっていない80%コンスタントスピードを使えるようになり、加速維持し、勝利した。


(もし…息を止めての加速が失敗したとしても、5%コンスタントスピードが保険になって減速しない!!そして成功した!!!

 ゴール板手前でもう一度する!!!!!)


「(おいおい……次やったら一杯どころか完全に潰れるぞ!!!俺!!!

 ……けど…そういうの……悪くねぇぜ……!!!)

 とるぜ!!!ダービー!!!!!」タリスは気合を入れた。

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