第16話 青葉賞―波乱の予感―

―皐月賞から2週間前。さかえ動物病院にて―――


「本当によかったのか…?結局、全治3か月だったしさぁ…別に皐月賞出走してもよかったんじゃあないか…?」と栄医師は諏訪調教師に聞いた。


「…完治が優先じゃ。

 3週間もあれば皐月賞にギリギリ間に合えたかもしれんが、そんなに急がせると今回みたいなことにまたなるかもしれん。」と諏訪。


「それに…皐月賞みたいなクラシックレースは、半永久種付け・繁殖権をゲットできるけど……ダービーだけは永久種付け権をゲットできるんだよ!!」とタリスユーロスター。


「相変わらずその感性はわからないけど、目標はあくまでダービーか………。

 …俺に…夢を見させてくれよ………。」


「「おう!!」」タリスと諏訪。

「「はい!!」」小牧と山下。




―皐月賞当日。1番人気はアブソリュート1.3倍。

 2歳王者のタリスユーロスターと皐月賞のトライアルレース弥生賞と対をなすスプリングステークスの勝馬ジーニアスブレインの不在により、アブソリュートの勝利はより確実のものとなった。


―結果は、鞭無しでアブソリュートが3馬身保ったまま逃げ切り勝ち。


 この結果にジーニアスブレインは

「あぁあん?天才の俺が出走を回避したらこの結果になるのは当たり前だろぉぉ?

 じゃあ、なぜ回避したかってぇえ?俺は短距離専門の天才だからだぁああ!!

 芝2000m、別に走れないわけじゃぁないが、いくら天才でも得手不得手があるんだよ!!ヴァかが!!

 ……………?

 なぜ短距離専門の天才が芝1800mで行われる中距離のスプリングステークスに出走したかってぇえ?

 おそらくタリスユーロスターも同じ考えだと思うが、自分の限界を知りたかったんだよ、俺もあいつも。もし俺が芝2000mで行われる弥生賞に出走していたら、タリスユーロスターと同様に怪我をしたかもしれねぇぇ。そうなったら何週間も動けなくなる。

 『無事之名馬ぶじこれめいば』という言葉がある。能力が多少劣っていても、怪我なく無事に走り続ける馬は名馬であるという意味だ。

 つまり!天才の俺が無事であれば!!史上最高の名馬になれるということなんだよ!!!

 俺の次のレースはNHKマイルカップだぁぁ。楽しみにしておけ!

 ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」




―皐月賞から2週間後、日本ダービーのトライアルレース青葉賞、当日。


「タリス、わかっとると思うが……」


「わかってるよ…これも調整の一環だろ…?」


「ああ……アブソリュートより先に東京芝2400mを体験する!

 走って何か感じることがあるはずじゃ!

 たった1回かもしれんが…この1回の差は大きいはずじゃ!

 調整じゃからといって負けてもいいレースでは無いぞ!負けてもいいレースなど無い!!」


「ああ!!勝つさ!!」




「本当にでてきたよ…。」

「あいつ短距離馬なんだろ…?負け確じゃん…!」

「いや…弥生賞とほとんど体格変わってないのに、馬体重+22キロとかやばすぎだろ!ありえるよ!」

「それある~」


 タリスユーロスター1番人気1.4倍。全出走馬唯一の重賞馬であり、2歳王者がNHKマイルカップではなく、このレースに出走したことにより、期待と話題を呼んだ。

 他は重賞未勝利馬なので、有力馬はタリスだけ。2番人気は新馬戦→500万下と連勝している2戦2勝馬『アーカイブ』が10.4倍。


「なんだよ48.2倍って、もうちーとばかしワイを買うてもええんやないか?

 単勝・複勝でも何でもええ、ワイを買うて。」と現在16頭中9番人気48.2倍の尾花栗毛の『プレタポルテ』は良くも悪くも目立っていた。


「…えーっと、プレタポルテ……未勝利馬かよ!」

「いやでも…前走・前々走2着・3着で勢いはあるよ!」

「それないわ~」

「穴狙いだったらちょうどいいんじゃないか?」

「それある~。タリスユーロスター軸にして相手にプレタポルテ入れるわ!」


「まいど、おおきに!」


 そして、プレタポルテはタリスにも話しかけて来た。


「やぁやぁ、君がタリスユーロスターなん?ワイはプレタポルテっていおんやで。よろしゅうな。」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 タリスがあからさまに嫌そうな顔をし、プレタポルテは少し気まずくなった。


「(な、なんや。これが重賞1番人気のプレッシャーか!?)

 こ、怖いな~。お客はんも見とるわけだし、もうちーとばかし笑ったええんやないか?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「(ワ、ワイみたいな人気薄とは話したくないのかな?)

 …や、やあね、またね。」


牝馬おんなになって出直しな…!」


「んな無茶な!!」




―さあ!間もなく東京競馬場第11レースGⅡ青葉賞の発走の時間です!

 実況は私!杉川 清和!!


 そして解説は!この作品の作者!ジャンゴでお届けします!!


「面白かったら、評価ポイント・レビュー・感想等をください!(ネタ切れ)」


 あなたは黙っていてください!


―各馬順調にゲート入りしております!



 最後に16番『クッキードリーム』が入り!


 体勢完了!スタートしました!!

 8番『プレタポルテ』好スタートを切りました!

 先行争い!先頭はプレタポルテ!プレタポルテがグイグイいきます!2番手は3番『キタコレサンマ』!7番『ダルタニアン』!12番『フリースノー』!14番『ミリタリーパーツ』!

 1馬身離れて1番『ブラックタイガー』!並んで4番『アプリコット』!外には9番『サクセスストーリー』!と10番『チェンジオブペース』!これらが先団を形成しています!

 第2コーナーを曲がり!先頭はまだまだグイグイいくぞ!プレタポルテ!

 2番手はキタコレサンマ!並んでダルタニアン!後ろにはフリースノー!その内にミリタリーパーツ!半馬身離れてアプリコット!後ろにサクセスストーリーとチェンジオブペース!

 1馬身離れてブラックタイガー!5番『ブロックブレーカー』!外から15番『カヤノマイケル』が出てきて!

 1000m通過タイムは61秒1!まずまずのペースであります!

 1馬身離れて16番『クッキードリーム』!内に2番『カヤノティグル』!外に8番『スーパーミスト』!

 さらに1馬身半離れて並んでここにいます!!6番1番人気『タリスユーロスター』が後方待機!

 2馬身離れて11番『アーカイブ』が最後方にいます!!

 残り1000mを切りました!!


(大丈夫…大丈夫…)と小牧は心を落ち着かせていた。


「……………。」


(タリス君が何も言わない…。

 これはたぶん信頼の証……って何かの本に書いてあったはず……!

 …けど、もし……鞭を入れて何もなかったら………。

 いや!大丈夫なはず!あの時タリス君は、鞭を入れて嬉しかったって言ってたから………入れよう!鞭を!!)


 タリスが800mの標識を差し掛かった時、小牧は鞭を入れた。


―――80%コンスタントスピード!!!


(いった!よし!!)小牧の不安は自信と信頼に変わった。


タリスユーロスターに鞭が入ったぁああ!!!アーカイブが追いすがろうとするが届かない!!!


「何が80%だ!!俺の全力より速いじゃないか!!くそっ!!」とアーカイブ。


 アーカイブ陣営は「タリスユーロスターより後ろの競馬をし、足を溜め、タリスユーロスター以上のスピードとスタミナで差し切る」作戦だったがそれが叶いそうに思えずにいたが、それら以外の陣営の作戦は「タリスユーロスターより前の競馬をし、必殺技を使ってきたらできるだけ外に出る。」であった。こうすることでタリスは大外に出ざるを得なくなり、体力・スタミナを消費し、直線で失速させる作戦だった。

 これは個々の陣営が考えた作戦であったが、皆が同じ作戦だったため集団全体が外によれた。タリス陣営は仕方なく外に出たが、アーカイブ陣営は内が空いたことに気づき、すかさず内に入った。


 タリスユーロスターが大外!!アーカイブは内から一気に抜いていく!!!


「「「「「な…!しまった…!!」」」」」

「「「「「タリスユーロスターに気を取られすぎた!!」」」」」


 さあ!!!タリスユーロスターとアーカイブが同時に集団の先頭に立ったぁあああぁあああ!!!


「「――……!!!!!」」


!!!が!!!先頭のプレタポルテとの差は30馬身はあるぞぉおおおぉおおおおぉおお!!!!!これはセーフティーリードだぁあああ!!!!!


「…な!!う、嘘だろ!?!あんなに差がついてんのかよ!!!

 …ど、どうする小牧?!!100%…いや120%で届くかどうか…!?!」


「い…いや……それをやったら弥生賞の二の舞になる………。

 …ここは……2着を死守しよう………。」


「……ッ。」小牧もタリスも苦渋の表情をしていた。


(……まさかこないなに差がつくとは思わなかったな…。

 2歳戦はスピード・スピード・スピード…短距離がメインや。

 3歳になってもスピードを要求してくる。この間の皐月賞だって『最もはやい馬が勝つ』っていわれるくらいやし…

 ワイはスピードがない。ついていけず、勝ちきれなかった。けど、体力とスタミナには自信がある…!

 今回は2400m…長距離戦や!つまり、ここからは…ワイの領域や!!!)それでもプレタは2400mは初めてで息が多少あがっていて不慣れだったが――


――ゴールイン!!!!!

 タリスユーロスターがかなり差を縮めたが!!プレタポルテが15馬身差くらいで大逃げ炸裂!!!プレタポルテ初勝利!!!初勝利を重賞で飾ったぁあああぁああああぁあああぁああ!!!!!




―――このレースを厩舎で見ていたアブソリュート陣営は


「どうだった…?」と調教師の諏訪直樹はアブソに聞いた。


「大逃げを切っておきながら、1000mを平均ペースで通過したのは正直驚いた。他馬がタリスユーロスターに気を取られ、プレタポルテが穴馬で無警戒だったから大逃げが決まったというところか…

 次はダービーだろう…無警戒だったからこのような結果になったが、次はそうはいかない!!仮にこのような結果でなくとも、ダービーに出走するすべての者を警戒する!!」


 直樹は新聞紙を丸め始めた。


「タリスのほうは?」


「今回は仕方がないだろう……全馬から警戒され、展開が悪かった。

 仮に俺がタリスユーロスターの立場であったも勝てた自身は無い。」

 

「な・ん・で(ス・パ・コン)!どこ見てんだよ!もう一回レース見るか!?」と直樹はリプレイ再生した。―再生終了。


「なるほど…プレタポルテ鞍上の田村たむら騎手がちょくちょく指示を出しているな…。ペース配分を調整しているな。」


(スパコーン!)

「だからどこ見てんだよ!!タリスを見てないのか!?」


「……………。」アブソはそれ以上何があるのかわからなかった。


「…はぁ~~~。一緒に併せた仲じゃないか…。わかんないのかよ。

 いいか…タリスは80%のコンスタントスピードを使って。」


「―…!!!」


「そういうことだ!今年のダービーは荒れるぜ…!」

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