第14話 弥生賞―好敵手、初戦(後編)―
本来、1戦1勝馬が弥生賞に出走は困難だが、各陣営、アブソリュートを警戒し、弥生賞では珍しく出走予定馬が8頭しかおらず、アブソリュートの出走が可能になった。
―弥生賞当日。マスコミではこのレース次第でアブソリュートはクラシック3冠確実と言われるほどに注目を集め、1番人気1.2倍支持を集め、ディープインパクト再来と言われるほどになっていた。ちなみに、父フェイトはこのレースを1番人気3.5倍でハナ差で制している。
2番人気タリスユーロスター4.3倍。2歳王者であり、アブソと同じ父の仔でもあるので注目を集めていたが、タリスは納得していなかった。
「何でこんなに人気に差がついてんだよ!!おかしいだろ!!」
「多少はわかるけど…これはひどいな…。」と山下。
「どこにわかる要素があるんだよ!?
どこに納得する要素があるんだよ!!?」
「だって……アブソは新馬戦、15馬身差の大差で勝って、タリスは朝日杯の時は2馬身差で勝ったからじゃないかな?」
「それでもGⅠ勝ったんだよ!!あいつはまだ新馬戦しか勝ってねぇんだよ!!
それに併せ調教で何度も勝ったのにさ…!!」タリスのその発言に観客の耳がピクッと動いた。
「…え!?マジ!?」
「アブソリュートに勝った!?」
「…嘘でしょ!?」
「さすが2歳王者!」
「アブソリュートが負けたって本当!?」
この声にアブソは「本当だ。俺は、タリスユーロスターに何度も負けている。」と答え、会場中、タリスの馬券を買い始めた。
「…だが俺は、タリスユーロスターに何度も勝っている。」とアブソが言った瞬間、みんな手を止めた。
「だがこれは調教、練習だ。そして今回は本番………いや、クラシックレースの前哨戦だ。まずこの前哨戦を勝利し、日本最強馬、世界最強馬への道を歩むぞ!」とアブソは勝利宣言をした。
「ふざけんなよてめぇ…!練習だろうが前哨戦だろうが本番だろうが、勝つのは俺だ!ぶっ潰す…!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
最終的に1番人気アブソリュート1.4倍、2番人気タリスユーロスター3.9倍になった。
―さあ!間もなく中山競馬場第10レースGⅡ弥生賞の発走の時間です!
実況は私!杉川 清和!!
そして解説は!この作品の作者!ジャンゴでお届けします!!
「面白かったら、評価ポイント・レビュー・感想等をください!」
あなたは黙っていてください!
―各馬順調にゲート入りしております!
最後に8番『タリスユーロスター』が入り!
体勢完了!スタートしました!!
横一線に揃った綺麗なスタートを切りました!
先頭に立ったのは5番『アブソリュート』!いや!押し出されるようにして先頭に立ちました!
先頭はアブソリュート!
クビ差離れて内に3番『クリキントン』!外に6番『キタコレラース』!
半馬身離れて1番『ウィークデイズ』!2番『ギャラントス』!7番『フォースピーク』!1馬身離れて4番『スプリングサマー』!さらに1馬身離れて8番『タリスユーロスター』!
こんな感じで先頭から
もう一度先頭から見てみましょう!先頭はアブソリュートとクリキントンとキタコレラースが3頭並んで先頭です!
(いつ仕掛ける…!?)
(警戒は怠らない…!)とクリキントンとキタコレラースはアブソを警戒し、他の馬たちも警戒していた。
タリスだけは敵視していた。
各馬まもなく1000mを通過!1000m通過タイムは60秒3まずまずのペースです!
中団は半馬身離れてウィークデイズ!さらに半馬身離れてギャラントス!並んでスプリングサマー!外にフォースピーク!2馬身離れてタリスユーロスターが最後方!
「…おい小牧!もうすぐ仕掛けるタイミングだぞ!…大」
「……………………………………………………………大丈夫。」
小牧は朝日杯で会場中に喜ばれ、厩舎のみんなにも喜ばれたことを思い出していた。そして――
「小牧。お前さんは今まで、ビクビクして、オドオドして、成行きで騎手になった自分みたいのが勝つのは悪いことじゃと思っちょってたようじゃが、別に勝つことは悪いことじゃない。
だからといって、負けることが悪いことかというと別にそういうわけじゃない。
勝っても負けても悪いことじゃないんじゃったら、勝った方がええんじゃないか?」と朝日杯の祝勝会を行った
――残り800m。小牧は自分から鞭を入れた。
「いくぞ!100%!!」
「…え!?100!!?」
―――コンスタントスピード!!!
「まずい!!」と諏訪は椅子から立ち上がり、控室を出た。
「…え!?師匠!?」と山下は諏訪を追いかけた。
「どうしたんッスか師匠。そんなに慌てて…。」
「タリスが100%のコンスタントスピードを使った。」
(え!?俺、全然見えなかった。やっぱ、相馬眼すげー。)
「え!?100ッスか!?すごいじゃないッスか!」
「すごくない!!むしろまずいんじゃ!」
「ど、どういうことッスか…?」
「タリスは、全力…100%で走るとひどく疲弊するんじゃ!」
「…え!?今までそんな素振り見たことないッスよ!」
「お前はどこを見とったんじゃ!!
タリスとアブソが併せたのを忘れたんか!」
「???」山下が全然わからない表情をしていたので諏訪はブチ切れた。
「いいか!!タリスは最初はアブソと併せられたが、中盤くらいから急に疲れ切っていたのがわからんかったんか!!タリスが無理して併せていたことを!!」
「え!?いや…!?た、確かに疲れていたのはわかっていたッスけど、それはタリスが短距離馬で体力やスタミナがほかの馬よりも少ないからじゃあ………。」
「タリスとアブソの体力とスタミナはほとんど差が無いぞ。」
「え!?じゃあ何で!?」
「タリスはそういう体質の馬なのじゃ!
タリス以外にもそういう馬はたくさんいる!
じゃからわしは100%を出させない必殺技『コンスタントスピード』を教えたんじゃ!」
「……!!」
「そうならないように最初は60%で教え、朝日杯でレース中に80%まで出せるようになったんじゃ!
いずれ100%は出せるようになると思うが、今は体ができておらん!!
もしかすると必殺技の反動で一生走れなくなる体になるやもしれん!!」
「……!!!」
「そうなる前にゴールしたらすぐにクールダウンする!
急げ!!ゴールまで時間がない!!」
「は、はいッス!!」
(ぇ!?え!?ど、どうしよぅ……諏訪さんに100%のコンスタントスピードはやめるよう言われてたのに……。)と小牧は思った。
勝っても負けても悪いことじゃないんじゃったら、勝った方がええんじゃないか?
(…進もう、前に…。ここでやめたら負けてしまうから……。)小牧は無意識に引いていた手綱を緩めた。
タリスユーロスターに鞭が入って!!大外一気だぁあああぁああぁああああ!!!
(来たか!タリスユーロスター!!)アブソはタリスに併せて全力を出した。
だが、鞍上の周防は軽く手綱を引いた。
「…清二、何をする!?」
「だからいきなり全力を出すなよ!!ゆっくり加速しろ!」
「なぜだ!?」
「お前、あいつと併せ調教したの忘れたのかよ!
お前は誰も競り合っていない今よりも、誰かと競り合ったほうが強いんだよ!」
((俺らのこと眼中に無いのかよ!!))とアブソの両隣にいるクリキントンとキタコレラースは憤った。
アブソは周防の言うとおりにゆっくりと加速した。それに併せてクリキントンとキタコレラースは加速したが、アブソはタリスとゴールしか見ていなかった。
先頭はアブソリュート!!大外からタリスユーロスターが先頭に並ぶ勢い!!
先頭はタリスユーロスターに変わった!!先頭はタリスユーロスター!!だがアブソリュートも食い下がる!!
第4コーナーを曲がり最後の直線!!!3番手はキタコレラースだが!すでに4馬身5馬身と差がついている!!!
「清二!!鞭を入れろ!!」とアブソが叫んだ。
「…な!?お前!まだ全然必殺技ができてねぇだろ!!それなのに鞭を入れろってか!!?」
「今ここで習得する!!」
(…いや、一応アブソは「頭ではわかっている」って前に言ってたけど、言ってるのにもかかわらず習得してねぇんだよなぁ……。)と周防が鞭を入れるのをためらっているのを見計らってアブソは――
(…仕方ない……。)
―――フィジカルイン……
「ちょ!!待っ!!!」周防はアブソの歯茎が見えるくらい思いっきり手綱を引いた。それに伴ってタリスとアブソの差は1馬身半差になった。
「何をする!!清二!!」とアブソは憤った。
「お前!!忘れん坊にも程があるぞ!!
お前その技のせいでデビュー遅れたんだろうが!!!」
「……………ッ!」
「…大丈夫だ。
あいつは700mまでしかコンスタントスピードを維持できないのを知ってるだろ。奴は800ぐらいから仕掛けたから大丈夫だ。
(そう思いたいが、タリスはもうすぐ坂の頂上なのに全然落ちる気配が無い!
やっぱり一か八か鞭を入れるか!?)」と周防が思った瞬間――
「…くはぁっ……!!」タリスは息があがった。
それを見て周防は鞭を引っ込めてアブソを前に押した。
(…ちょっ……待て………俺はまだ…………負けてねぇぞ……………!)とタリスは思ったが時すでに遅し――
アブソリュートだ!!!アブソリュートが先頭!!!
――ゴールイン!!!!!
アブソリュート!!!クラシックに向けて視界が開けました!!!
「……くっ…はぁ…はぁ……。」タリスは息がたえたえながらに控室に行き、そこで諏訪と山下が待っていた。そして諏訪は、出会い頭にタリスを一発叩いた。
「何をしとるんじゃ!!100%は駄目じゃと言ったろうに!!」
「あいつとは何度も戦った……だからわかるんだ!!
あいつには80%でも90%でもなく、100%じゃないと勝てないって…!!」
「いいからこっち来い!すぐにクールダウンするぞ!」と諏訪は奥に行こうとしたがタリスは動かなかった。
「何をしちょる、タリス!?」
「…え……何か………動かないんだけど…?」ピキッ
「………?
痛たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!!!!
ぎゃあああぁああああぁああぁああああぁあああぁあああぁああああ!!!!!
何か痛いんだけどぉおおおぉおおぉおおおおぉおおぉおおおぉおおお!!!!!」
「まずい!山下!!医療班と救急車を呼べ!!!」
「は、はいッス!!」
小牧はすかさずタリスから降り「…ぁの……ぇっと………ぼ、僕は………?」と
「お前さんは次のレースに騎乗するじゃろ!!その準備をせい!!」
「…で、でも………。」
「でもじゃない!!
お前さんは
次のレースに騎乗する馬の厩舎や馬主に迷惑をかけるんじゃない!
ここはわしらに任せるんじゃ。」と諏訪は叱咤し、小牧は目に涙を溜めながら走り去った。
タリスは救急車に運ばれ、動物病院へ――
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