第9話 スキルと必殺技
前走から一夜明け、タリスユーロスターは小牧騎手が第3コーナー下りで手綱を引いたことを思い出し、腹が立っていた。
「あいつ何なんだよ!!あの時止めなければヒャッハー野郎を差せたのに!!」
「まぁ、小牧さんも悪気があったわけじゃないから…。」と山下はタリスをなだめていた。
「悪気がなかったらあんなことするはずねぇだろ!!」とタリスは言い返した。
「…っていうかそれよりもあのヒャッハー野郎がウザい!!
今でもあのヒャッハーが頭に響いて頭痛が……。」とタリス。
「まぁあれはウザいけど…殴らないでね。」と山下は注意した。
―――その日の調教を馬なりですまし、次のレースのミーティングを行った。
「前走2着じゃったからよほどのことがない限り、朝日杯に出走できるな!」と諏訪調教師は期待した。
「2着で出走できるとか…何か、お情けでやってもらっている感じで少し気分悪いな…。」とタリス。
「最後に勝った者が勝者じゃ。
GⅡ、GⅢをどんなに勝とうが、GⅠ勝利には程遠い。
タリス。次のレース、勝つと信じとるぞ!!」と諏訪はタリスに期待を込めた。
「…あ、当たり前だろ!
次、ぜってぇ勝って!俺の野望に一歩近づける!!」
「フ……それじゃあ朝日杯に向けて、明日から調教を少し変えるぞ!
必殺技の習得じゃ!!」
「…必殺技?」
「この前、ジーニアスブレインが言ってたでしょ。スキル持ちだって。
スキルは生まれついて身についている技だけど、必殺技っていうのは、生まれた後に身につける技で、スキルの完全上位互換の技なんだよ。
ちなみに、スキルは常に発動して、使い勝手がいい時と悪い時がある技だけど、必殺技は騎手に鞭を入れて発動したり、…あ、鞭を入れないで発動する必殺技もあるけど、とにかく自分のタイミングで発動させることができる技なんだよ。
そういえば、ジーニアスブレインのスキルは『どんな坂でも平坦な道のように走ることができる』って言ってたけど、もしかすると、登り坂は平坦に感じているかもしれないけど、下り坂も平坦に感じているかもしれない。
もし仮にそうだとしたら、第3コーナーの上りを楽々上って、楽々下ったように見えたけど、常に平坦だとしたら、下り坂で加速できなかった…!?…いや、若干加速していたような………後で確認しよ。
とにかく、これがスキルの場合で、仮にこのスキルが必殺技だとしたら、第3コーナーの上りで発動して、下りでOFFにして加速してゴールに向かうこともできたんだよ。」と山下は早口でペラペラとタリスに言った。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(一時の間)。
なげぇよ!!!あと初めの時に教えろよ!!!」
「初めの時に教えなかったのは、まだ体ができてなかったからじゃ。
2歳馬に必殺技を教えるのはまだ早い気がするんじゃが、お前さんはわしの調教についてきてそれなりに体ができているから教えることにしたんじゃ。」と諏訪は言った。
「それで、どんな必殺技を教えるの?
あのヒャッハー野郎と似た技はやめてくれよ。」とタリスは聞いた。
「うむ………必殺技名は『コンスタントスピード』じゃ!」
「…えっと……師匠………ダサいッス……………。」と山下は答えてしまった。
「何じゃと!!」
「別に名前はどうでもいいよ。
…で、どんな必殺技なの?」とタリスは催促した。
「どうでもよくないじゃろ!!かっこいいじゃろ!?」と諏訪は返した。
「……いや、ダサいッス……………。」と山下は即否定した。
「なんじゃと!!とりあえず英語にすればかっこよく聞こえるじゃろ!?」
「その『とりあえず』感がかっこ悪いッス。
コンスタントスピード………えーっと、意味は………。」と山下はスマホを取り出し調べた。
「直訳すると『一定速度』という意味じゃ。」と諏訪は答えた。
それに対し、タリスは「ダサいかも」と思ってしまった。
「それでその効果じゃが、その名の通り、指定したスピードを体力が尽きるまで維持することができる!」
「何か聞いた感じだと、普通に聞こえるんだが………。」とタリスは少し不安になった。
「そんなことはない。
とにかく明日からその技を習得する調教をする!
このことを小牧に伝えてくれ。山下。」
「了解ッス!」と山下は敬礼のポーズをした。
(そういえば、小牧の奴いないなぁ…。)とタリスは辺りを見渡した。
―――翌日、調教開始。
「……………ぉは……ょぅご……「のぉおおおぉぉおおぉおおおぉおおおおぉおおぉおおおお!!!!!」
…ざぃ………ます……………。」
「またんかぁあああぁああぁああああぁぁあああぁあああぁああ!!!!!」
小牧がトレセンに来る前にすでに調教は始まっていた。
「何、全力疾走しとるんじゃあああ!!!
60%で走れと言っとるじゃろうがぁあああぁああぁああああ!!!!!」
「60%ってどれくらいだよ!!!
じいさんがそのペースまで落とせよ!!!」
「わしが落としたらお前がその隙に逃げるじゃろうが!!!お前が落とさんか!!!」
「俺が落としたらじいさんがその隙に手に持ってるその道具で俺の金玉を切るだろうが!!!」
「……………あれ?……僕、いる?」と小牧は思った。
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