第3話 デビュー前

 タリスユーロスターは逃げた!!―6月

 タリスユーロスターは逃げた!!―7月

      以下同文      ―8月


 タリスユーロスターは諏訪厩舎に入厩してからひたすら諏訪調教師から逃げた。

 トレセンで逃げている道中、牝馬と通りすがったものの、声をかける余裕が無くとにかく逃げた。


―アレを守るために


 諏訪隆博は追いかけた!!―6月

 諏訪隆博は追いかけた!!―7月

     以下同文    ―8月


 諏訪隆博調教師はタリスユーロスターが諏訪厩舎に入厩してからひたすら追いかけた。

 アレを切るための道具を持ちながら追いかけ、その姿に周りがドン引きしつつも、ひたすら追いかけた。


―タリスユーロスターを世界最強馬にするために


―9月。いつものように調教していた。


「―のぉおおぉおおおぉおお!!!

 なんでだ!!?俺はここに来てから約3か月!強くなったと実感しているのに…!!

 なんでじいさんとの差は広がらないんだぁあああぁああぁあああ!!!!!」


「お前がまだまだ貧弱だからじゃああぁああぁあああ!!!!!」



 本来、調教師は調教助手に調教させるが、諏訪は毎日のようにタリスを追いか……調教してしまうので、山下は少し暇を持て余していた。

 諏訪とタリスが離れ、隙を見つけるとポケットから携帯電話を取り出しゲームをした。


「おっ!ダービー勝った。」


 そして、デビュー1週間前、9月の4週目に行われる、阪神競馬場の2歳新馬(芝1200m)でデビューする予定のタリスユーロスターのデビュー前の調整を行われていた。


「―のぉおおぉぉおおおおぉお!!!

 レース前の調教って、軽めに済ませるんじゃないのぉおおぉおおおおぉおお!?!?!」


「今回は!!一杯に追っているだけじゃあぁあああぁぁああぁあああ!!!!!」


その調教を物陰からひっそりと見ていた人がいた。


―その日の調教が終わり、諏訪はみんなを集めてデビュー戦の話をした。


「それじゃあタリス、お前の背中を預ける騎手を紹介する。」


 タリスはキョロキョロと見渡した。


「…で、そいつはどこにいるの?」


 諏訪もキョロキョロと見渡し、「小牧の奴どこ行ったぁああああぁああぁあああ!!!」と叫んだ。

 その声を聞きつけ、山下は嫌がる小牧を無理矢理連れてきた。


「コホン…では改めて、お前の背中を預ける小牧こまき 大希だいき騎手じゃ。」


「…え、えっと、僕の名前は小牧大希…といいます。よろしくお願いします。」と、小牧は震えながら小声で言った。


 それを見たタリスは「大丈夫かよ……。」と心配になった。


「まあ大丈夫じゃろう。人見知りな性格じゃが、実力はあるから心配するな。」


「え!?俺…馬なのに人見知りするの?」


「じゃあ、馬見知りじゃな。」


 何とも言えない空気になった。

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