第4話 2歳新馬ー牝馬ナンパ事件ー

―レース当日、タリスユーロスターは12頭中1番人気1.5倍に支持された。

 タリスユーロスターは、日本最強馬フェイトの初仔としての期待と、坂路調教でかなりいいタイムを出したことにより、この支持率になった。


 栗東 坂路コースの調教基準値(3歳・古馬)

       (1Fフィート=約200m)

   4F   3F   2F   1F

  53.5 39.0 25.8 12.9


 タリスユーロスター(2歳)の坂路タイム


   4F   3F   2F   1F

  51.1 37.9 25.4 12.6




―さあ!阪神競馬場第5レース芝1200mで行われる2歳新馬のパドックを見ていきましょう!

 実況は私!杉川すぎかわ 清和きよかず!!

 そして解説は!この作品の作者!ジャンゴジャンゴでお届けします!!


「あれ?なんで僕がいるんだ!?」


 あなたは黙っていてください!


「解説で呼ばれたのに!?」




タリスは初めてのパドックで少し緊張していた。


「うわぁ…めっちゃ人に見られてる…。どうせ見られるなら、牝馬おんなのこがよかったのに…。」


 隣にタリスと一緒にパドックを周回していた山下はその言動に慣れてしまって、「はいはい」と言った。

 パドックを歩いてから約5分、タリスは多くの人に見られるのに慣れてきた。

 そして、視界が広がったことにより後ろに牝馬が歩いていたのに気づき、その牝馬に話しかけた。


「ねぇねぇ。君なんて名前なの?」とまるでナンパだ!!


「え?私の名前は『クリオネアーチ』っていうよ。」


「じゃあクリオネちゃん。

 好きな食べ物って何?俺はりんごとか好きだよ。」


「うーん…。りんごも好きだけど、やっぱりにんじんかな?」


「じゃあ逆に嫌いな食べ物は?俺、牧草とか藁とか素朴な味で嫌いなんだけど…。」


「わかるぅー。大麦とか大豆とかほとんど味がしないから嫌いなんだよねぇー。

 食感が好きだから食べるんだけど…。」

 

「ああ確かに、あの食感がいいから、嫌々食べたりしないんだよなー。」


 とまーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーー


 この声掛けにタリスとクリオネはビクッと驚いた。


「何あいつ、邪魔すんなよ!」とタリス。


「まあまあ、今から騎手を乗せて周回する合図だから勘弁してやって。」と山下はタリスに説明をした。

 パドックに騎手たち来て、各騎乗する馬に乗り始めた。タリスユーロスターを除いて…。


「あれ?小牧は?」とタリスは周りを見渡して探した。

 パドックの入り口の前で小牧は「早く行ってください。」と職員に注意されていた。

 そして、小牧はタリスの所まで小走りで行き、その様子をパドックで見ていた人たちは「またかよw」と笑っていた。

「え?お前、いつものことなの?」とタリスは小牧に尋ねたが、小牧は顔を真っ赤にしてうつむいてた。

 結局、このままパドックの時間は過ぎ、全頭、本場馬へ向かった。タリスユーロスターを除いて…。


「てか、早く乗れよ!!もうクリオネちゃん行っちゃったじゃあないか!!」


 小牧はやむなくタリスに乗り、震えながら本場馬へ向かった。


…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…ガクブル…



「ちょっ!震えるのやめろよ!!

 さっきから背中がかゆいんだよ!!」


「ご…ごめんなさい……」


タリスは本場馬に入場し、返し馬(発走時刻までのウォーミングアップ)をした。

 …と、思わせておいてクリオネアーチに近づいた。


「ごめんねクリオネちゃん。話途中になって。」


「ううん、別に大丈夫よ。

 それよりもうすぐレースが始まるから集中しないと…お互いレース頑張ろうね!」


「ああ、行っちゃった…。

 そうだな!クリオネちゃんの言うとおりレースに集中しないと!」


―さあ!各馬順調にゲート入りしております!

 最後に12番『タカラサガシ』が入り!

 体勢完了!スタートしました!!

 まず揃った綺麗なスタートを切りました!!

 先頭は2番『アッシュフォード』!6番『キャットラッシュ』!9番『ロイヤルストレート』の3頭が前に行く形!

 1馬身離れて4番『ハローボーイ』!並んで11番『ランドピストル』!

 中団に5番『クリオネアーチ』!7番『タリスユーロスター』!8番『スペシャルセンター』!

 後方には1番『キラ』!11番『ロックメジャー』!

 3番『エイトビートワン』!と12番『タカラサガシ』!が集団からやや遅れぎみだ!

 最終コーナーを曲がり直線に入りました!!


 その頃、タリスユーロスターはクリオネアーチに見とれてた。


「はあ~クリオネちゃんかわいいなぁ~。

 頑張っている姿とかかわいいなぁ~。」


 その頃、クリオネアーチは息が絶え絶えだった。


(ヤバい…ハァ…1200mだから…ハァ…余裕で走れると思ったけど…ハァ…周りが私以外…ハァ…牡馬だから…ハァ…全然ペースが追いつかない…)


 タリスはクリオネの様子がおかしいのを察した。


「クリオネちゃん大丈夫?」


「もう無理…ハァ…は…走れない…」


「俺も一緒に同じペースで走るから…ほら、あと200mだからもう少し頑張ろう!

 あと100…あと50…」


――ゴールイン!!!

 先頭は9番ロイヤルストレート!!!

 2着に4番ハローボーイが入りました!!!


 クリオネアーチが9着、タリスユーロスターは10着に終わった。


「…ハァ…ハァ…よかったの?タリス…ハァ…ハァ…こんな着順で…ハァ…ハァ…

 …て、いうか…ハァ…あなた全然息切れていないじゃないの…ハァ…ハァ…」


「あぁ…いいよ勝負より苦しんでいるクリオネちゃんの方が大事だから。」


 タ~!!リ~!!ス~!!ユ~ロ!!スタ~ァアアァアアアァアァアアアァアアア!!!!!


 タリスの後ろから般若…ではなく、鬼の形相をしている諏訪調教師が近づいてきた。

 それを山下が力いっぱい押さえ込んでいた。


「何じゃ!!今の競馬は!!!

 やはり切るしかないようじゃなぁあああぁああああぁあああぁああぁあああ!!!!!」


「や、ヤバい…。逃げる!!!!!」


 タリスが逃げた瞬間、諏訪は山下を振り払って追いかけた。


「待たんかコラァアアアァアアァアアアアァアアア!!!!!

 やはりまだ走れるじゃないかぁあああぁああぁああああぁああぁあああ!!!!!」


「のぉおおぉおおおぉおおぉおおおお!!!!!」

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