第7話「ギャンギング! 」
「次は硬化について説明するわね。コツは体を硬くさせるイメージを思い描くこと。要するに出す時は体を弛緩させ、硬化させる時は逆に緊張させるイメージね。ほら見て。これが——」
そう言って彼女は腕を見せた。
「
ピシッと音がして金属片たちが固まった。
「その名の通り彼らを集結して硬軟両面を併せ持つ金属に作り変えるテクニックよ」
陽の光を受けて彼女の腕は煌めいていた。
「硬いのに柔らかいのか? 」
「そう。硬さの欠点を軟らかさが補い、軟らかさの欠点を硬さが補うの。ほら、硬い物って曲がりにくいけど割れ易くもあるでしょ。一方で軟らかい物は曲がり易いけど割れにくい。そのいいとこ取りをしてるのよ」
「器用な奴だな」
褒められたのが分かったのか群状金属たちは震えていた。
「ふふ、紙谷くんよりは器用かもね」
早速真似してみると俺の手の中で無数の黒い粒が一瞬で固くなった。
「そうそう、上手いわね」
「でもまた引っ込んじゃったぞ」
「とにかく出来るだけ長く広く出すのを目標にトレーニングしていきましょ。心配しなくても大丈夫。私も通った道なんだから」
そう言ったロキシーの顔は明らかに得意げだった。
後で分かったことだが、このロキシーの一連の説明には実は不備があった。というよりわざとそう説明しなかったと言ったほうが適切か。
一言で言えば群状金属とはパワードスーツを目指して作られた技術だった。
パワードスーツと群状金属、似ても似つかぬ代物だが、目指したのは部分ではなくあの全身を金属で覆われた戦士の姿だった。
しかしそれは不可能だった。何故か?
要するにこれは不完全な代物だった。いや、技術や理論が悪いのではなく、人間そのものに限界があったのだ。
全身くまなくこいつで覆い尽くしなおかつ一戦交える間持続させれば、確かにそれはパワードスーツと言っても過言ではない。でもその為には自分と群状金属の体や心のコンディション、相性などが複雑に絡み合い、事実上不可能な代物だった。
「昔ね、
後にロキシーはそんな話をしてくれた。
「坐禅を組んで穏やかに瞑想し、見事体中をこいつで覆い尽くしてみせたことがあるの。彼は四分ほどその状態をキープしてみせたわ。でも実験は失敗だった。何でか分かる? 一歩でも歩くと引っ込んじゃうのよ。動けなければ意味ないしそれじゃただの銅像よ。正直認めたくはないけど私たちの科学力ではこれが限界なのかもね」
その時のロキシーの顔はなんだか寂しげであった。
◇ ◇ ◇
さて、俺はこの後一週間ほどこいつを出現させるトレーニングに勤しんだ。一秒ほどは出せるようになったが、そこから先が非常に困難だった。
「ここに壁があるのよ。引き続きトレーニングをしつつ、群状金属とコミュニケーションをとることね」
要するにこいつはペットみたいなものだった。俺が主人でこいつが飼われていることは確かだが、必ずしも主人の言うことを聞くとは限らない。
悔しいのがこいつは俺の命綱だということ。それさえなければすぐにでも山に捨ててくるというのに。
最後に俺はこいつを円滑に決まった場所に出す訓練をした。
「ゲームをしましょう。私があなたの体に触ろうとするから、触られる前にその場所にギプスをあててね」
ギプスとは硬化した群状金属のことである。
手で防いでもいいと言われたが、その際は必ず接触する部分にギプスをあてろとも付け加えられた。
この訓練は正直楽しかった。想像してみてほしいが、これははたから見たらただ女の子とイチャイチャしているだけであった。やっていて思わず笑いたくなるのを必死で堪えた。
「ニヤニヤしないの」
その言葉を百回くらい聞いた。実戦もこれだけ楽しければいいのだが。
一通り訓練が終わるとロキシーはテストをすると言い出した。
俺としてはもう少しこの楽しい遊びを続けたかったが無下にも却下され、渋々現実に引き戻されることとなった。
それは想像した以上に過酷な世界だった。
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