魔女リティ~誕生編

鵜川 龍史

魔女リティ~誕生編

〈登場人物〉

 アイドル志望の高校生 魔女リティになる(M)

 勉強を教えてくれる友人(F)


(Mの部屋で英語の勉強をする二人。

Fの方が頭がよく、Mは教えてもらう立場)

F:(DJ的ないい発音)Repeat after me.「minor」

M:マイナー。(語尾を上げる)

F:(首を傾げる)「minor」

M:マイナー契約。

F:勝手に足すなよ。アクセントの位置も違うし……。ま、いいや。スペルは?

M:M・A・I・N・A・R(ポーズでアルファベットを表現して)

F:なんだよ、その昭和のアイドルみたいな動きは。そもそも、全然違うし。こうだろ。(ノートに書く)

M:これじゃ、「みのる」になっちゃうだろ。

F:これで「マイナー」って読むんだよ。

M:これで「マイナー」なの? そっかー。じゃあ、俺がアイドルになる時には、「みのる」っていう芸名はやめとこう。

F:何、お前、アイドルになりたいの?

M:そう、新人アイドル。

F:ん? まあ、最初は誰でも新人だからな。目指すなら、新人アイドルだな。

M:違うって。いつまでも初心を忘れないアイドル。それこそ、万年新人アイドル。

F:うわー、消えそう。

M:そのためにも、英語はしっかりマスターしておきたいんだよ。

F:なんか、よくわかんないけど。とりあえず留年はしない方がいいだろうね。続き行くよ。「minority」

M:マイノリティ。

F:「minority」

M:マーイノーリティー。(歌うように)

F:意味は?

M:どうせ死ぬなら前のりでー。

F:それを言うなら「前のめりで」だろ。

M:そうか。意味は「どうせ死ぬなら前のめりで」。(ノートに書く)

F:そうじゃない! 「少数派」だって。

M:おっけー。(ノートに書く)「どうせ死ぬなら前のめりで、というのは少数派」と。

F:おいおい! 「minority」が「少数派」なの。

M:はっはーん。なるほど、分かってきたぞ。(ノートに書く)「どうせ死ぬなら前のめりで、というのは少数派」(間をおいて)「と言っているのは少数派」と。

F:もういいよ……。じゃ、次。その対義語だから「多数派」な。「major」

M:メジャー。

F:「major」

M:メジャー大リーグ。

F:勝手に足すなって。そんな言葉ないし。

M:え?

F:「メジャーリーグ」が「大リーグ」なんだよ。

M:じゃあ、「メジャー」の意味が「大」ってこと?

F:ああ、この場合はそうだな。

M:じゃあさ、ゴルフの「四大メジャー大会」ってあるじゃん。あれは、日本語で言うと「四大大大会」ってこと?

F:は?(Mの顔を見て、諦める)まあ、いいよ、それで。

M:おいー。ぞんざいぞー。あつかいが、ぞんざいぞー。

F:「ぞんざい」を知ってるのに、なんで「メジャー」でつまずくんだよ。まあ、いいや、続き行くぞ。「majority」

M:マジョリティ。(ちょっとだけいい発音)

F:お、いいじゃん。「majority」

M:マジョ・リティ。

F:あれ、なんでそこで切った?

M:意味は「多数派」?

F:そうだよ。なんだ、分かってんじゃん。

M:はっはーん。なるほどね。見えてきた見えてきた。

F:え? 何が何が?

M:俺の目指すべき、新時代のアイドル像がだよ。

F:あん?

M:その名も、「魔女リティ」!

F:魔女? お前、男だろ。

M:「魔女っ子」は変身キャラだからな、元が男でも構わないんだよ。

F:まあ、「魔女リティ」って響きは、ちょっとかわいいっぽくはあるな。

M:だろー。

F:性格はやっぱり、委員長タイプだな。すぐに、「多数決できめよーよ」って言いだす感じ。

M:それ、お前の好みだろ。マユちゃん。

F:正解、マユちゃん。(嬉しそうに照れながら)

M:こないだのホームルーム、お前の意見に一票も入らなかったけどな。

F:行けると思ったんだけどなあ。

M:いやいや。学園祭の出し物に、「逆居酒屋」はないだろ。

F:なんで、いいじゃん。店員がどんどん酔っぱらっていく居酒屋。

M:学園祭で酒出しちゃまずいだろ。

F:(ムキになって)出さないよ! こっちが飲むんだよ!

M:お前、頭はいいけど、基本的に残念な奴だよな。

F:俺は、マユちゃんが笑っててくれれば、それでいいんだよ。たとえそれが嘲笑でも。

M:まあ、そういうことで言えば、マユちゃんのキャラとはむしろ逆かな。

F:どういうことだよ。

M:「魔女リティ」は、数の暴力で戦う魔女っ子だぞ。ってことは、「多数決」をうまく利用しなきゃ。

F:利用って、どうするんだよ。

M:例えば、こないだのホームルーム、キックターゲットの得票数を減らすことは簡単だった。

F:そうなの?

M:だって、似たような体動かすアトラクション系のイベントを候補に挙げれば、票はそこで割れるわけじゃん。

F:おお。お前、頭いいな。

M:ちがうよ。魔女リティならどう動くだろう、って考えるんだ。俺の頭の中には、もう魔女っ子になった俺がいるのさ!

F:変身フォームは?

M:(右手にマイクを持って左手を広げて演説の身ぶり)私に清き一票を。私の命はみんなのために、みんなって誰なんて聞かないで。大衆の欲望の中心で、魔女リティ、チェーンジ!

F:決め台詞!

M:マイノリティは殲滅よ!(ウィンク)

F:完璧。

M:うーん。キャラが弱いな。マジョリティがマイノリティを倒すって、別に俺が立ちあがる必要、ないよな。

F:なるほど、確かに。……それだったら、マイノリティとして差別されている人々を助けるために立ち上がった、ってのはどうよ?

M:いいね。数の暴力にさらされている人々を助けるために、数のマジックを使って戦う。必殺技は、任意抽出統計調査! 誘導的インタビュー! メディア悪用印象操作!

F:自分で「悪用」って言っちゃダメだろ。

M:くらえ、「バーニング・ネットワーク」!

F:おお! 大炎上だ!

M:出でよ! 「サイレント・マジョリティ」!

F:これは、召喚かな?

M:そう。声なき声に耳を傾けるの。「ごめんね。こわらがらなくていいの。私は敵じゃないわ。ごめんね。許して、なんて言えないよね。ひどすぎるよね。」

F:ナウシカじゃん。

M:「やさしい子。私は大丈夫。今、みんなが迎えに来るからね。」

F:みんなって誰だよ。

M:一致団結したマイノリティのみんなだよ。そして我々は「魔女リティ」党を立ち上げるのだ!

F:結局政治になっちゃうのね。

M:ま、そうなっちゃうよなー。

F:だったらなおさら高校は留年せずに卒業しないとな。

M:ん? 何だっけ?

F:期末の勉強してたんだろ。

M:あーもー! 集中できないじゃないか!

F:俺は悪くないぞ。

M:じゃあさ、世界史やろ。今回の範囲は中国近現代史、か。

F:そういや、宮野内先生さ、クーロン城のこと、めっちゃ熱く語ってたよな。

M:(考え込む)……「クーロン城」って、かわいくね?

F:またかよ。

M:ひたすら机上の空論で男子を言いくるめる、ツンデレ系美少女「空論嬢」! みたいな。

M&F:(二人で天井を見上げて)あー、マユちゃん、やっぱいいよなー。

(幕)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女リティ~誕生編 鵜川 龍史 @julie_hanekawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ