Lv35「不死王、贅沢する」

異次元(ドリームランド)の黒々とした野原に寝転がる若い少年が居た。

黒髪、黒目の東洋系の優しい顔――生前のワルキュラの姿だ。彼は星空を見上げていて、隣には、小さな銀髪の吸血姫ルビーが抱きついている。


「ワルキュラ様、夜空が美しいですね」


「そうだな……野原でゆっくりするのは最高の贅沢だ……」


現実でも、夢の世界でも、好きな人と一緒に過ごせるのは幸福だった。

ここには、煩いマスコミはいない。

仕事もない、命を狙ってくる共産主義者も居ない。

勘違いして世界征服を企む部下も居ない――と言いたい所だが、現実で眠るか、死ぬかすれば、ドリームランドに来れるから、残念な事に、奴らもこの世界に何処かにいるはずだ。


「僕、ワルキュラ様と一緒に居るだけで幸せです……」


「うむ……俺もだ……。

今まで頑張ってきたのは、このような時間を共有するためだった……そんな気がするな」


「ドリームランドって素敵ですよね……公務がないから、ゆっくり過ごせます……」


ルビーが寝転がりながら、優しく微笑んできた。

そんな素晴らしきリアル嫁を見て、ワルキュラは思う――現実世界の肉体の方が起きていて、仕事したり、アトリとイチャイチャしたり、狐娘の可愛さを見に属国に行ってるなんて、とてもルビーに言えない。

夢の世界にいるワルキュラと、現実世界にいるワルキュラは記憶を共有する同一人物だが、夢の世界の自分は、ただのニートみたいなものだ。

一応、仕事を分担するために、携帯電話の類は持たされているが、滅多に掛かってこな――


『プルルルルゥー!夢の世界のワルキュラ様ー!電話ですー!』


ズボンに入れていた携帯電話が鳴り響く、着信音はルビーの声だ。

どうやら、現実世界にいるワルキュラは――着信拒否して、何処かに行っているらしい。

そうじゃなかったら、夢の世界のワルキュラに電話がかかってくるはずもない。

携帯電話は便利な道具だが、良い時間を邪魔されて、とっても不満だ。

でも、この世界の自分は、普段は仕事しないから、たまには仕事も良いだろう。

通信ボタンを右手でポチッとな。


「俺だ」このセリフが言える俺格好いいと、ワルキュラ思った。


「陛下、ホネポです。

共産国の暗殺者の件もあるのですが……その話は置いといて贅沢に興味はありませんか?」 


ドリームランドでは、創造主であるワルキュラの願い事は、ほとんど叶うから、贅沢と言われても困った。

強いて言えば――


「俺は最大限、贅沢しているぞ。

今、ドリームランドの野原に寝転がって、綺麗な星空を見て最高だが何か?」


「いえ、そういう贅沢ではなく、金銭を思う存分に使う贅沢です」


現実世界にいるワルキュラなら、どう答えるか悩みながら返答する。


「ホネポ……俺は、世界一の金持ちになって思ったのだがな。

金はたくさんあればあるほど、人生を縛り付けてくる。

金を更に増やすために働かされて、人の自由を奪ってしまう厄介な代物なのだ。

だから……運用は全て銀行に任せてある。金は好きな時に少し使えば良いだろう」


ワルキュラは自分で言いながら、ドリームランドなら生活費ゼロだなぁと思った。

夢の世界では、ほぼ全ての施設がゴースト系アンデットのおかげで、無料で使用できる。

だが、ホネポは夢の世界に……現実の話を持ち込んで話を続けてきた。


「金持ちが金を使わないと経済が回りませぬ。

陛下が質素な暮らしをしているおかげで、大勢のアンデット達が最小限の贅沢しかしない質素な生活をしております」


「ふむ……?」


「金が循環しなければ、庶民の給料も下がり、国の豊かさが減じます。

どうか、帝室収入をもっと使ってくださると有難いのですが……」


「では、寄付しよう。

どこが適当な慈善団体はないか?

人間王国への人道支援はどうだ?」


「いえ、陛下が贅沢をしてくださると、消費が活発になって経済が好調になるという話でして……」


「ふむ、そうだな……」


金を使う最大限の贅沢。

それは現実世界の自分の仕事だ。

夢の世界のワルキュラだと、どうにも実感が湧かない。

こうやって、好きな娘と夜空を見上げてイチャイチャする以上の贅沢があるのだろうか?

ふと、隣にいる銀髪ロリを見ると――ニコニコと微笑んでいるルビーの真っ赤な目が、自分の黒い目を覗き込んできた。


「どうしました?ワルキュラ様?」


「……何かほしい物はあるか?何でも買ってあげよう」


ワルキュラは、目の前の可愛すぎる生物に問いかけた。

一分ほど、ルビーが考えた後に首を傾げて――


「ほしい物は……ワルキュラ様の愛?」


この合法ロリを嫁にして良かった。

夢の世界のワルキュラは、心の底からそう思えた。現実世界のワルキュラも、きっとそうだ。






……翌日、ルビーの食後のデザートが、高級プリン1個から2個に増えた。



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パルメ「体が複数あれば、ハーレムなんて容易い!」



分身ワルキュラ「実は本体を倒しても、分身は残り続けるぞー!」


パルメ「なにそれ、こわい」


ワルキュラ(帝室収入はよく考えたら……税金ではなく、エネルギー利権だったな……。

俺が税金で生活していると思っているのは勘違いだったのでは……?

なんで俺は、メリットもないのに、帝国を経営しているのだろうか……?

いや、帝国が無かったら、この利権も存在してない……?

おお、皇帝やっている意味があるぞ、良かった)

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