Lv29「不死王の世界征服12~反乱終了のお知らせ終~」

「残り1分!カウントを開始する!」


次にサムソンが意識を取り戻した時、やはり、何も見えない真っ暗な空間だった。

音と、手足の感覚だけが、生きているという実感を与えてくれる。


「50!40!30!」


拡声器で拡張された骸骨の声が、起きたばかりの脳みそに、激しい振動を与えてきて気持ち悪い。

落馬した時に出来た傷のせいで、膝を強く擦りむいていた。見えないが、恐らく膝(ひざ)から血が出ているだろう。


「20、10、0っー!」


骸骨のカウントゼロの言葉とともに、真っ暗闇な空間が一気に晴れた。

光に溢れた人間の世界が戻ってきて、サムソンは一息つく。

東の青い空には数十機のヘリが、煩い羽音を鳴らして滞空している。

後ろから、一瞬、ジッ!何かが焼けた音がした。それと同時に軽い痛みを感じる。


(あれ……?

なんで後ろが熱いんだ……?)


サムソンは嫌な予感を感じながら、ゆっくりと――背後の空間を確認した。

そこには、石造りの大都市が――半分ほど綺麗に消滅して、残された現場に、熱されて融解したガラスの谷が出来上がっている。

大きな谷だ。太い谷だ。とても長い谷だ。その谷は地平線の彼方まで続いている。

サムソンには理解できた。

これは――大魔王ワルキュラによる大虐殺だと。

オレルアン公爵も、都市の住民も、兵士の皆も、貴族のオマケどもも全員が蒸発して、あの世へと旅立ったのだと理解できてしまった。

身体が恐怖で震える。

こんな事ができる化物が恐ろしかった。人間が蟻を潰すのど何ら変わらない感覚での虐殺だ。

どうやって、このような大虐殺を実行したのか、視認すらできないから、余計に妄想が膨らんで、目から涙が出てくる。

人間の矮小さ、ワルキュラの壮大さを比較し、惨めな気持ちなってくる。

しばらくそうやって震えていると、遥か遠くから地鳴りが聞こえた。

この音は、地平線の遥か北から、何度も何度もドシーン、ドシーンと響いているようだ。

このガラスの谷が何処までも続いているのだとしたら――北の大山脈も消滅させてしまったのかもしれない。

なら、先ほどの地鳴りは、山脈が崩壊する音なのだろうか?

だとしたら、これは人の所業ではない。邪神の邪悪なる奇跡だ。


「お、俺たちは、なんて、ひどい化物と戦おうとしたんだ……」


実際に虐殺現場を目撃するまでは、ワルキュラの情報は、ただの噂や嘘だと思っていた。

新聞に書いていた事は本当だったのだ。

タコ型宇宙人とHANASIAIをしたとか、小さな女の子が大好きなロリコンとか、ドリーム・ワールドを作った張本人がワルキュラとか、骨なのにハーレムやっているとか、実は積極的すぎる平和主義者とか、そういう胡散臭いゴシップの類もきっと真実なのだろう。

それよりも今、重要なのは――


「こんな大虐殺ができる奴が、新しい支配者っ……?」


都市を住民ごと消し飛ばす。そんな事を苦もなく、害虫駆除感覚でやってしまう怪物が新しい君主。

どんな暗黒時代が始まるのか、想像もできない。

どう見ても、人間を虫けらとしか思っていないような気がする。

都市を潰した事すら、蟻の巣に溶けた鉛を流して遊んだ感覚だったら、やばい。人類の存続そのものが危うい。

遊び半分でなぶり殺しにされて絶滅しそうだ。


「ワルキュラ様が第二射を撃つぞー!

そこの人間!もっと離れろー!」


また、上空から骸骨の声が聞こえた。サムソンの手足は、反射的にガラス谷から離れる。

全速力で場を去ろうと駆け抜ける。あまり鍛えていない手足なのに、なぜか上手く動いた。

擦り傷だらけで激痛を感じるが、そんな痛みに構っている場合じゃない。

グズグズしたら、謎の攻撃に巻き込まれて殺される。

そして、昼間なのに真っ暗闇の空間が到来する。何も見えない空間を走り続ける。

身体のすぐ近くを、膨大な熱が通過するのを感じる。

一瞬の出来事だったが、サムソンの着ている獣の毛皮を使った衣服に、火が付くには十分だ。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


すぐに地面に寝転がって、土で火を消そうと足掻く。

おかげで、火は無事に鎮火し、光が溢れた世界が再び帰って来た。

だが、半壊した都市の方はそうはいかなかった。

都市の周辺は、壁で覆われているが、金持ち以外の家は木造建築が多い。

すぐに大炎上して、遠くから生き残った人間の悲鳴が聞こえる。

全身火ダルマになりながら、高層アパートから飛び降りる人影が一瞬だが見えた。


「い、生きたまま焼き殺しているんだっ……!」


ワルキュラの意図、サムソンには手に取るように実感できる。

人間を都市ごと焼き殺す事で、見せしめにしているんだ。

『俺に逆らったらこうなるぞ』という未来を見せつけるために――不必要なレベルで人間を苦しめて殺しているのだ。

やはり、血も涙もない。不死者どもの帝王だ。

こんな怪物に、人類の未来を委ねる訳にはいかない。

王国は終盤になってから、平民達を奴隷のように酷使してきたが、ワルキュラの圧政に耐えられるとは到底思えない。

何時か、ワルキュラを倒す機会を得られる、その日までに抵抗軍を作り、それを維持しなければ、人類の命運は絶たれる。

サムソンは、遥か遠い地にいる悪の帝王を倒すべく、決意するのだった。


「化物どもぉー!この世界から!駆逐してやるー!」


「第三射がくるぞー!逃げろぉー!そこの人間ー!」






第三射で、衣服が燃えて、サムソンは裸になり、彼は無職へとクラスチェンジを果たし、逃げた。

一瞬で、抵抗の意思がポッキリと折れてしまった。

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ワルキュラ「第一斉射で山脈ごとぶっ壊して水路作りー」


ワルキュラ「第二射で、瓦礫を除去。

あとは、山脈の瓦礫が全部消えて無くなるまで、連射ー」


ワルキュラ「はい、工事おしまい」


デスキング(さ、さすがは陛下だ……!

帝国に居ながら、超長距離砲撃をなさっておられるっ……!)



【内政チート】「俺は心理学を悪用してっ!カルト宗教団体を作って無双する!」

http://suliruku.blogspot.jp/2016/08/blog-post_84.html

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