Lv28「不死王の世界征服11~反乱終了のお知らせ②~」

真っ暗闇な空間は、サムソンを不安にさせる。

太陽の光が全くないという事は、視覚が完全に封じられ、残りの五感に頼るしかない。

だが、今、自分が何処にいるのかすら……サムソンには分からなかった。

左には何があるのだろう。

前には何があるのだろう。

後ろには誰がいるのだろう。

周りにいる人間は生きているのだろうか?


「ええーい!灯りをともさんかぁー!」


オレルアン公爵の声が、よく響く。

でも、どうにもならない。真っ暗闇の中で行動できるのは、最初から視覚を失っている人間くらいだ。

このまま、この空間にいれば、時間の流れすら遥か彼方に置き去りにして、精神が狂ってしまいそうだ。

明かり。明かりさえあれば、人間の世界へ帰って来れるのに――


「おお!明かりだぁー!」

「天空から明かりがやってくるぞー!」


一つの光の奔流が、遥か上空から都市と人々を貫いた。

優しい青色の光。地平線の彼方すら越えて、向こうまで照らしていそうだ。

サムソンは救われた気持ちになり、天空を見上げる。

青い光が降り注いで、まるで光の滝だ。

これはひょっとしたら、悪の帝王を倒すためにやってきた天の御使いの御技なのかもしれない、そうサムソンが思ったら――ヘリのローターが回転する音が煩く響いた。

青い光の外、真っ暗闇が広がる空間に、恐らくヘリが複数、飛んでいるのだろう。

しかし何故か青い光の中に、ヘリは入ってこない。

暗闇の中に滞空し続けて、拡声器で呼びかけてくるだけだ。


「反乱軍どもぉー!今から言う事をよく聞けぇー!

反乱に加担するものは、その光の中に留まれ!

加担しないものは、光の中から出ろぉー!

30分以内に、そこから退避しろぉー!後で後悔しても知らんぞー!」


青い光から出れば助かる。

とっても甘い餌だ。真っ暗な空間とヘリには、きっとアンデットな骸骨どもが居るのだろう。

だが、オレルアン公爵は抗う道を選んだ。どっちみち、首謀者だから降伏しても生存の道はない。

いつものように行き当たりばったりでやってきた機転を活かして叫んだ。


「これはアンデットどもの策略だ!」


「な、なんだってぇー!?」

「公爵様!あいつらは何を考えているんですか!」


いや、その公爵は何も考えてないぞと、サムソンは言いたくなったが、この場でそれを言えば裏切り者の烙印を押されて殺される。だから黙って、公爵の次の言葉を待つ。


「アンデットどもは、この青い光の中に入ってこようとしない!

つまり、この青い光は……とっても神聖すぎる光だいう事を意味する!

不浄なるアンデットどもは入ってこれないのだ!」


「さすが公爵様だ!」

「確かに、アンデットどもが入ってこない!」

「盟主は智謀すら優れているというのか!」


公爵の言う通り、青い光の中は安全地帯だと仮定してみよう。

公爵の話では、兵士の数は60万人いる。

それだけ大勢の兵士を食わせていく食料が、都市にあるのだろうか?

光すら届かぬ、暗黒空間に包囲されれば、飢えて全滅するだけだ。そうサムソンは判断し、冷や汗を流す。

この青い光、最初は優しい光だと思った。だが、人体の構造上、それはありえない事だ。

青い光は――人体にとっても有害な光。目が悪くなる。

恐らく――この青い光は――悪の帝王ワルキュラによる――何らかの攻撃の前触れだ。


「故に、この光の中に留まり続ければ、我らは無敵!

決して、光の外に出てはならぬ!

闇の世界は奴らのテリトリーぞ!

闇に入ってはならぬ!」


「やーい!アンデットの馬鹿どもぉー!悔しかったらこの中に入ってこいよー!」

「俺らを殺したいなら、さっさと近づいてこいー!」


貧乏そうな兵士達が、下町根性で罵った。返事は返ってこない。

どうにかして、場から抜け出す言い訳を考えないと駄目だ。

サムソンが普通に逃げたら、脱走兵だと判断されて、騎兵に追撃される。

青い光の中も、暗闇の中も、危険はそんなに変わらないはず。

光の中では、確実な死という未来が。

暗闇という未来には、死と生の運命が重なり合っているように、サムソンの青い目には見えた。

そうだ、勇敢な貴族を演じて、暗闇が広がる方向へ向けて突撃すれば良い。

この統制の欠片も取れていない軍勢も、一緒に付いてきて、自分の始末どころではないはずだ。

真っ暗闇な世界で精神が崩壊するかもしれないが、餓死よりはマシだ。

サムソンは空気を大量に吸い、肺に溜め込み、大声を上げる。


「神のご加護は我にありー!

加護があるなら闇に突撃しても勝てるはずだぁー!」


叫んでサムソンは走る。

近くに居た馬を奪って乗って、真っ暗闇が広がる空間へと向けて突き進む。

見知らぬ馬だから、全く言う事を聞いてくれない。ほとんど暴れ馬だ。


「サムソン卿っー!

何を考えておるのだぁー!」


知り合いの貴族の一人が、後ろから声をかけてきた。

サムソンは頭の中で考えた言い訳を反射的に叫ぶ。


「アンデットどもを解剖してきますー!

俺はっ!あの骸骨どもをバラバラにしてっ!調べたいんですー!」


「処刑人の癖に、主導権を握るつもりか!

ええい!我らの部隊も続けぇー!

処刑人風情に遅れを取るなぁー!」


サムソンの背後から、大量の足音が――しなかった。

どうやら、兵士たちは闇を恐れて、足が竦んでいるようだ。

おかげで、勝手に行動するサムソンを殺そうとする騎兵も居ない。

一人で砂漠にいるような孤独を感じる。青い光の空間を風のように駆け抜ける。

暴れ馬が激しく動きすぎるせいで、落馬しそうだ。

自分が向かう先が、安全地帯なのか、危険地帯なのかは分からない。

でも、餓死するよりは遥かにマシな結末が待っているとサムソンは思う。

真っ暗闇のエリアまで、後100mという所まで来た。

50、40、30、20、10、0。

サムソンの視界は完全な暗闇へと包まれ、何も見えなくなり、大暴れする馬から放り出された。

身体が硬い地面を打つ。

全身に大量の擦り傷を負い――ここで意識を失った。

最後に聞こえたのは――


「残りの制限時間は25分だ!」


ヘリに乗る骸骨の熱い声だった。



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ボツネタ


サムソン(よく考えたら、アンデットってどうやって動いているんだ……?

解剖して調べたい……)


サムソンは父親の言葉を思い出した。

『え?死体が好きかって?

知的好奇心を満たしてくれてワクワクするだろう?

ほら、お前も俺の子供だから、きっとこの気持ちを理解できると思う』


【内政チート】 「安定した税収が欲しい?塩を一定量、強制的に買わせればいいんじゃよ!」 軍事

http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_9.html

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