Lv22「不死王の世界征服⑤~烏合の衆~」

「それでは国際会議を始めますにゃー」


海に浮かぶ、そこそこの大きな島。

そこに世界各国の首脳陣が、己の存在感をアピールするためにウヨウヨと蟻のように集まっている。

四大理事国の指導者である3人が、円盤状の会議室にある、中央の席に座っている。

その他の国々は、影響力が大きい順に、中央に近い席へと座り、外側の席であればあるほど、外交も弱い弱小国である事を意味していた。

この集まりは、汎人類大連合の国際会議。

大勢の国々が対処しないといけない事件や経済を議論し、対処するための集会……とされている。

だが、それは嘘だと、スター主席にはハッキリ分かっている。

連合の行動は、四大理事国の意志そのものであり、彼らの行動がほかの国々の方針となる。

主導権を握った国が、世界の半分の行く末を決めるのだ。

そう、この四大理事国。いや、三大理事国が。


①絶対王政の『人間王国』  保守派。   滅亡

②議会制の資本主義国家『ニャンコ商国』  中立派

③鬼の部族の集まり『鬼族連』保守派

④富を等しく平等しようとする『フリーザ共産国』改革派


共産国を率いる自分こそ、世界のリーダーに相応しい。そう、スターは思っている。

新しい時代には、新しいシステムがいる。

格差がない平等な社会を実現しようとする共産主義こそが、絶対の正義であり、それ以外は悪なのだ。


(さぁ、今日の会議は私の独壇場よ……)


スター主席は席から立ち上がり、場の注目を集めた。

他の国々の代表は、小さな女の子に過ぎない自分よりも背丈が随分と大きい。威圧感も歴戦の猛者を感じさせる。

だが、スターはもっと凄い。小さな背丈の雪女とはいえ、偉大なる共産主義を世界中に輸出しようと企む国家フリーザの最高指導者なのだ。

だから、有象無象の弱小国家の指導者どもに睨まれても、平気で居られた。

世界を覆う格差社会と、ワルキュラ大魔王を打破し、平等なる社会を建設するまでは歩みを止めるつもりはない。


「人間王国が併合されたのはっ!全てはワルキュラの陰謀だったのよ!」


「「な、なぁんだってー!?」」

「「一体、どういう事なんだぁー!?」」

「「さすがは主席様っー!美しいですだぁー!」」


スターの叫びに、弱小国家の皆が、事前に決められた通りの叫びを上げた。


「お主ら……なんでそんな分かりきった事を、今更言っておるんじゃ……?」

「いやー、大変ですにゃー」


四大理事国の人たちが、このスター達の酷いやり取りに、白けた目を向けてくるが気にしない。

演技だろうが何だろうが、利用できるものは全て利用するのがスターのやり方だ。

白けた視線を気にせずに、スターは言葉に熱を込めて続ける。


「スパイから報告があったの。

ワルキュラが、事の全てを操り、飢饉を演出していたってね。

人間王国の大飢饉は帝国の仕業だったのよ!」


「「や、やっぱり、悪の大魔王だった!?」」

「「な、なら、今回の首謀者であったと、宣伝すれば帝国も潰れるのではっ……?」」


この大根役者真っ青のやり取りに、三大理事国の一角を成す、ニャンコ商国の指導者ニキータがツッコミを入れた。


「さすがはスター主席ですにゃー。

国際会議で、平然とスパイ使っていると宣言するなんて、誰にでも出来る事じゃないですにゃー。

共産国はこれだから凄いにゃ、にゃ、にゃ」


丸太のように肥え太った猫人は褒めているように見せかけて、皮肉をスターに全力投擲していた。

そのやり方に、スターは、正直、アンタ、商売人として失格じゃないの?共産国ってそんなに市場としては美味しくないのと疑問に思ったが口には出さない。

いや、出す暇がなかった。四大理事国は、今では一国減って三大理事国になってしまったが、もう一国――鬼族連に重要人物がいるのだ。

その名を鬼姫。スターと同じく、何年生きているのか分からない不老種族の女性だ。


「いや、これを宣伝しても効果が薄いじゃろ……。

善人がやる悪行はインパクトがあるんじゃけど、悪人がやる悪行は宣伝効果が薄いしのう。

今まで、散々、帝国の悪い情報を流したようじゃが効果が薄いじゃろ?

帝国の勢力圏だけでも、大きな市場があるから、企業は海外進出しなくてもええしのう

それにスター主席殿、帝国が飢饉を演出した証拠はあるのかの?

無かったら赤っ恥じゃよ?」


その言葉の主である鬼姫は、巫女服がよく似合う鬼の女だ。透き通る黒髪から、鋭い角が生えている。

角のせいで頭が重くないのかしら?キスする時、相手に角が刺さったりしないの?とスターは思ったが、人種差別とか言われそうだから、質問に返答で返す事にした。


「証拠?そんなもの、幾らでもあるわよ?(捏造すれば良いし)」


「なら、それを提出して欲しいんじゃよ。

全世界が相手なら、さすがの帝国も、針の穴を通る程度くらいの譲歩はするはずじゃろ?

ほれ、提出するんじゃよ」


鬼姫が、場の主導権を握ろうとしている。

そう感じ取ったスターは不機嫌になった。


(ここで素直に証拠を出したら、私がこの胸だけが大きい、角女の手下みたいじゃない。

巫女服着ているのは、胸の大きさをアピールするためかしら?

ああ、やだやだ。

私みたいな小ぶりのサイズが丁度いいのにね)


そもそも、証拠の捏造はまだ完了していない。

整合性が取れるように捏造するのは時間がかかる。

帝国が人間王国を併合してから3日ほどしか経過していないから、捏造するのに時間が足りない。


「証拠を出せないのかのう?

共産国の得意分野は、証拠の捏造じゃろ?

はよ、証拠があるなら出さんのか?」


「証拠はここにないから後日持ってくるわ!

全くの矛盾がない証拠をね!」


「証拠があるのにこの場にないとか……スター主席殿は何を考えておるんじゃ?

これだから赤い大魔王は困るのう。

ひょっとして帝国と裏で繋がっていたりせんか?」


鬼姫の嫌がらせに、スターの憤怒が冷え切りながら燃え盛りそうだった。

国際会議の場で、面子を潰す行為そのものがありえない。

人類共通の敵ワルキュラがいるのに、どうしてこうまで内ゲバするのか謎すぎた。

過去に共産国が鬼族連に侵略して、首都の女性を兵士たちに給料代わりにプレゼントして、国土を半分ごっそり貰った記憶があるが、それはもう過去の事である。

共産国を今更、敵対視するなんて大人気ないにも程があった。


「にゃー、生者同士で争っている場合じゃないのにゃー」


商国のニキータが、争いの鎮圧に乗り出した。

この大きな猫も、場の主導権を握ろうとしている素振りを見せているからスター視点では、ムカツク猫である。


「吾輩達が争っても、得をするのは帝国だけですにゃ。

全員が団結しても、勝ち目は薄いのに勝率をわざわざ下げるのは良くないのにゃ」


「共産主義は人類史で唯一の絶対正義よ。

正義は勝つって、相場が決まっているの」


「にゃにゃっ。スター殿の考えは面白いですにゃー。

でも、この場に参加している国で、空軍を保有している国は何国ありますにゃ?

気球とか、空飛ぶ魔道士とか、飛行船じゃなくて、ヘリや戦闘機を保持している意味での空軍ですにゃー」


ニキータの残酷な問いかけ、挙手は当然――ゼロだった。


「この敗北主義者……」 スターは小さい声で呟いた。


「空を抑えられている以上、戦っても無謀ですにゃー。

まだまだ耐え忍んで、国力を増強させて頑張る時期なのにゃー。

吾輩も苦しいけど、歯を食いしばって美味い食べ物を我慢してますにゃー大変にゃー」


そう言って、ニキータは大きいなお腹を見せつけて笑った。

スターの青い目で、目の前の猫をどう見ても、肥え太った猫にしか見えない。

商売と技術力に優れた商国にとって、今の状況が一番儲かって嬉しいのだろう。

実際に戦いが起こらず、適度な緊張状態であるが故に、高い兵器を大量に売りさばけるのだから。


「ひたすら時を無駄に刻んでも、人類は絶滅するわよ?

四大理事国の一国(人間王国)は崩れ去り、とうとう三大理事国になってしまったわ」


離反する国々がたくさん出てくる。

その可能性は高かった。

特に帝国と隣接する事になった弱小国家群は、すぐに媚を売って骸骨の骨を舐めるだろう。


「でも、今、戦っても……勝ち目は皆無ですにゃ?」


「アナタ、さっきから何を言いたいの?」


「良い商談がありますにゃ。

帝国から医療ヘリ目的で購入したヘリがありますにゃ。

これを解析して量産すれば、勝ち目ってやつが出てくるに違いないですにゃー」


「へー、無料でくれるのかしら?」


「入手するのに大金がかかってますにゃ。

高い値段を付けてくれた国に売りますにゃー。とっても心苦しいにゃー。

大変にゃ、にゃ、にゃ」


スターは許せなかった。

目の前のブタ猫は、人類の存亡の危機なのに、お金を大量に集める事しか考えていない。

これだから資本主義者は、世界の癌細胞なのだ。

世界を腐らす枝であり、格差社会を作る悪魔だ。

ワルキュラを倒したら、お前たちをこの世からひとり残らず粛清してやる!そうスターは心の中で誓った。


(なんで富を公平に再分配する共産主義の素晴らしさが分からないのかしら!

富が一極に集中する社会なんて、利権が集中しすぎて腐るのは一瞬よ!)


憤怒しすぎて肌が荒れそうなスターが、歯ぎしりしている間に、鬼姫がニキータに話しかけた。


「そのヘリという道具。

わっちの国も欲しいのう。

どうじゃろ?100億マダンでええかの?」


「支払いはアヘン通貨でお願いしますにゃー。

帝国の兵器を次々と購入して解析するために、大量のアヘン通貨が要りますにゃー。

帝国を倒すために、帝国の通貨を集めるなんて苦しいですにゃー」


ニキータは笑顔のまま、スターの方をチラチラッと見てきた。

どう見ても、値段を釣り上げて、この場をオークション会場にするつもりだ。

絶対、このクソ猫ぶっ殺す。そう思いながらスターは大きな声を上げた。


「私は百億アヘン払うわ!」


「なら、わっちは、三百億」


「間違えたわ!五百億の間違いよ!」


「わっちは510億出すんじゃよ。

それにしても凄い大金じゃのう。

そんだけアヘン通貨がある時点で、帝国と仲が良い証拠じゃなぁ」


「一千億!」


値段の釣り上げをしながらスターの小さな身体を、おぞましい感情が襲った。

これではまるで、憎き資本主義者に自分がなったみたいではないか。

人民が納めた税金を、再分配せずに、高いヘリに費して、商人を儲けさせるなんて、金の亡者のような所業が恥ずかしい。

でも、鬼族連がヘリという兵器を解析して量産したら、軍事バランスが崩壊する。

帝国を倒したら、間違いなく、次の敵は鬼族連と商国だ。絶対に渡す訳にはいかない。


(自国の通貨より、帝国の通貨の方が流通している時点で、経済を牛耳られているような気がしてムカつく)


なんで、こんな国際会議の場で、帝国のアヘン通貨で取引をやっているのだろうと、スターは悲しくなった。

これでは市場を帝国に牛耳られたも同然。

戦争を始まる前から、完全に負けていた。

帝国がアヘン通貨の流通量を減らすと宣言しただけで、共産国は内部崩壊する自信がある。

アヘン通貨は偽造がほぼ不可能。

共産国の要人だって、アヘン通貨が一番信頼できるからと、金庫の中に蓄えている有様だ。


「他に値段を付ける国はないですかにゃー?

なら、共産国のお買い上げですにゃー。

これからも良い関係を結びたいですにゃー」


ニキータは、大量の金を儲けたから、この場でとっても調子が良さそうだった。





既に帝国に完全敗北している。

その事実から、スターは目をそらしたかった。

高い関税を設定しても、密輸商人が活躍して、勝手に国内に商品が入ってくるから最悪だ。


(世界征服が終了しているも同然の相手に……私は孤独だわ……)


人間王国が滅んだのは、もう、腐りすぎて市場として旨味がなくなったからだとしか思えない。

これから良い市場になれるように、調教されて飼いならされる事だろう。

悪の帝王ワルキュラは何処まで狡猾な悪魔なのだろうか?

圧倒的な軍事力があるにも関わらず、征服の速度は凄くゆっくりしている。

人間達をゆっくり甚振ってから殺す趣味があるのかもしれない。

そう思うと、スターの小さな胸がドキドキして辛かった。



自分が勝率0%の戦いに挑んでいると思いたくない。


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共産国(ヘリが飛ぶ機械なのか、魔法なのか、分からないけど、解析して何時か覇権を握ってみせるわ!)☚非リア充


鬼族連(帝国より、共産国潰したい)


商国(商業上の利権を握れるなら、人類がどうなっても良いのにゃー。

名目上の独立すら、高値をつけてくれるなら、売るのが商人って奴ですにゃー。

共産主義者は、商売上邪魔だから、帝国より先に潰したいにゃー)



帝国(ワルキュラ様と契約した発電所がないと、エネルギーが供給されなくて飛ばないガラクタだし、高値で売っちゃえ)



【内政チート】「ウンコを発酵させて肥料にする!! 」 軍事

http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_18.html

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