Lv23「不死王の世界征服⑥~偉大なる慈善事業~」

辛い会議を終え、港へとやってきたスターは、軽い疲労感を覚えた。

あの様子だと、商国は金儲けのためならば、独立すら売り渡しそうだし。

鬼族連は明らかに共産国を敵視して、私情をむき出しているにも程がある。

人類が団結しないと、帝国には勝てないのに絶望的だ。

幸い、帝国の兵器が手に入った。後はこれを無事に本国へと輸送して、徹底的に解析してコピー出来れば最高なのだが――


「スター同志!解析が完了しても、コピー作るのに50年くらいかかりそ――」


「良い!アンタ達!

この兵器を本国へと必ず持って帰るのよ!」


技術者の発言を無視して、スターはさっさと命令を下し、更なる言葉を続けた。


「無理とか、駄目とか、数十年かかるとか、家族がいるから生命だけは助けてとか、聞きたくないわ!

不可能と思わなれば何でも出来るの!

頑張って解析しなさい!

さぁ、返答は?」


「「イエッサー!」」


黒い軍服を着た軍人や、技術者たちは素早く敬礼した。

スターは小さい雪女である。

だが、人一倍、いや人の百倍ほど、人権を軽視し、恐怖政治に慣れていた。

今の所、平等に幸福を配る事に失敗して、平等に不幸をばら蒔いている現実がちょっと苦しい。辛すぎてベットの中で泣く事がある。


「任務に失敗したら、アナタ達は家族ごと開拓地(強制収容所の隠語)送りよ!

死んでも良いから任務を成功させなさい!

人類の興亡は、この一戦にありよ!」


「「イエッサー!」」


「さぁ!仕事を開始なさい!」


眠そうなスターの前で、兵士たちが、ヘリを輸送船へと積み込む作業を開始した。

一応、港には最新式のクレーン(木製)があったが、ヘリみたいな巨大な兵器を運ぶ事を想定していないので、下手したら事故りそうだ。


「……もう寝るわ。

今日は疲れた……」


「イエッサー!」


「影武者の娘達の準備は良い?」


「スター同志にそっくりの美少女だらけです!ご安心ください!」


「この前みたいに、影武者の娘に手を出して、他国へ駆け落ち亡命するなんていう事態が発生したら、全員開拓地送りよ?

分かったわね?」


「イ、イエッサー!」


護衛の兵士を引き連れて、スターはカーテン付きの馬車に乗る。

その馬車の近くに、似たような形の馬車が十台あり、スターそっくりの銀髪の女の子が中にいるはずだ。

ここは商国。

金を積めば、何でもやる亡者の巣。

こうやって影武者を十セットくらい用意しないと、スターは安心して宿にも止まれない。

共産国としての面子もあるから、庶民じゃ一生泊まれないような高級ホテルに宿泊しないといけないところも辛かった。


(宿代くらい、アンタらが払いなさいよ。

商人って本当にガメツイわね……)


商国のドケチさに、スターは嫌な気持ちになった。

気分転換をするために、窓の方を見る。

馬車が移動して、商国の町並みがカーテンの隙間から見えた。。

帝国から購入した自動車という機械が、少数だが街中を動き回っている。

立派な建物の一部は、看板の数々を見れば、帝国を拠点に持つ大企業だと分かった。


「こんな所まで……大魔王ワルキュラの魔の手が迫っているなんて……。

一体、商国は何を考えているのかしら?

お金を稼げても、未来がなければ意味がないのに……」


道行く人々は、裕福そうな連中を多く見かけた。そんな所がとっても気に入らない。

商売で成り立っている国だけあって、お金持ちが多いようだ。

だが、やはり資本主義の闇もそこに広がっている。

一瞬、路地裏が見えた。貧乏そうな身なりの人間や亜人達が、嫉妬心混じりに表道を睨んでいた。

彼らは資本主義の恩恵を受けられなかった負け組だ。

富を至上主義とする社会では、有意義な労働力を提供できない底辺層は買い叩かれて、何の価値もない。

無職になった時点で、家と投票する権利を失うから、政治家も動いてくれない。


「こんな社会、絶対、間違っているわ……。

きっと帝国のせいでこんな事に……え?」


馬車は表道を通り過ぎる。

一瞬、本当に一瞬だが、可笑しい光景が見えた気がした。


「おーい!ワルキュラ様からの配給だぁー!

美味しいシチューだぞー!

たっぷり飲めっー!」


「シチューはムダが少ない完璧な料理なんだぁー!」


数人の白い骸骨達が、大きな鍋を持ってホカホカなシチューを、路地裏の貧困層に配っているように見えた。

とっても優しそうで呑気な光景だった気がする。

スターは十分ほど思考停止した後に――戦慄した。


「な、なるほどっ……!

ああやって人間を懐柔して……最後に裏切って……!

絶望させる気ねっ……!

なんて悪辣な化物なのかしらっ……!

骸骨の癖に、こんな事までやるなんて……悪党にも程があるわよっ……!」


悪の帝王ワルキュラ。

実際に会った事はないが、外見が骸骨だから、きっと分かり合えるはずがない。

異なる価値観と価値観は衝突するのだから。


「商国にここまで化物が浸透しているなんて……人類はもう駄目かもしれない……」


--------------------------------------------------------------------------------




首相「食料支援は成功しておりまする、ワルキュラ様

(民衆を味方につけて、いずれ征服なさるための準備に違いない)」


ワルキュラ(イメージアップになったら良いなぁ……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る