Lv21「不死王の世界征服④~飢饉はワルキュラ様の陰謀だったんだよ!~」


宮殿の広場で、デスキングの馬鹿話をやるのは不味いと判断したワルキュラ。

彼は大臣や首相を引き連れて、地下にある会議室へと移動した。

ここならマスコミの姿はないから、安心して、与太話の続きをやる事ができる。

大臣達も、帝国の最高機密(デスキングの妄想)とやらに触れて満足してくれる事だろう。


「最初に言っておこう。

デスキングの話す内容は信じるな。

例え、俺が肯定したとしても、噂話程度の物に過ぎぬと思い込むのだ」


「「なるほど!機密だからですね!わかりましたワルキュラ様!」」


大臣達がそれぞれの言葉で返答した。

密談の雰囲気を出すために、デスキングが会議室の電気を全て消し、1本のロウソクを持ってきて、魔法で火を灯す。

虚ろな光が場にいるアンデット達を照らしていた。骸骨、吸血鬼、ゴースト系アンデットが大半を占めている。

一度、デスキングは場にいる、全員の顔をゆっくり見渡した後に――


「それでは私が推理した内容を語ろうっ……!

恐らく人間王国が滅亡した原因そのものがっ……!

全てワルキュラ様の用意周到な策略の結果に過ぎぬのだっ……!」


「な、なんだってー!?」

「この騒動には、まだまだ裏があるという事ですか!?デスキング殿!」

「ワルキュラ様は何重の策を同時に発動しておられるのだ!」


大臣達の驚愕っぷりに、調子を良くしたデスキングはワルキュラに語りかける。


「ワルキュラ様、この続きを話しても良いでしょうか!?」


「……ふ、さすが、だな。デスキング。

俺の策謀の一部とはいえ、気づくとは――恐ろしい奴め。

もちろん、許可するぞ。

所詮、この場だけの与太話なのだからな(お前の頭で、スイカ割りして良いか?)」 


「ははぁっ!ありがとうございます!なんたる光栄なのでしょうか!」


一度、デスキングは咳払いをして、口調を変え、妄想を口から吐き出した。


「許可を貰ったから話そうっ……!

我々は勘違いしていたのだっ……!

ワルキュラ様は飢饉という偶然の天災を利用したのではないっ……!

最初から全てを仕組まれておられたのだっ……!

私が何を言いたいかと言うとっ……!大飢饉そのものを演出した黒幕がワルキュラ様だと言いたいのだっ……!」


「「な、なにぃー!?

今回の大飢饉がワルキュラ様のせいだってー!」」

「「一体、どういう事なんだぁー!?」」


大臣の驚きとは別に、ワルキュラの頭は溶岩をいれた火山のように熱くなっていた。。

本当、どういう頭脳しているんだ、デスキング。

長年、君主と家臣をやってきたのに、なんで、俺の事を大飢饉を演出する鬼畜王だと思い込んでいるのだ。

これが帝王の孤独なのだろうか?人と人が分かり合うのが難しいとワルキュラの精神は嘆いた。

最古参メンバーとも言えるデスキングですら、この有様だ。


「いいかっ……?

まずは思い出してほしいっ……!

キャベツが大豊作すぎて、問題になった時の事をっ……!

あの時……陛下は、キャベツを畑で潰して、キャベツ相場を安定させるという苦肉の策を取られたっ……!

だが、これは……遠回りな人間王国への攻撃だったのではないだろうかっ……?」


「「た、確かにっ……キャベツを大量に潰して相場を調整すれば、他の野菜の値段が上がって、人間王国の飢饉は更にひどくなる……?」」

「ま、まさかっ……!?そんな裏があったなんてっ…!?」

「陛下の残虐なる戦争計画の一端だったのか!?」


大臣達が、仕える君主の非情さに、恐怖を覚えたようだ。

チラッチラッ!とワルキュラの骸骨顔を覗いている。

ワルキュラは言いたかった。賞味期限が超短いキャベツを、海外に輸送して売りさばく手間暇考えろと。

そもそも人間王国と帝国は敵対関係。関税率は恐ろしく高く、王国の消費者にキャベツが届く頃には、原価の50倍ほど高い価格になっているはずだ。

そんな超高級キャベツ、誰が買うのだろうか?

値段が高くなれば、需要がその分だけ劇的に減るのは、経済の素人だって分かる。


(それ以前に、あんなクリーチャーなキャベツを、他人に食べさせるのは不味い……。

自分で肥料を捕まえて、野生動物を撃退するキャベツとか、どんな副作用があるのか分からなくて怖い……)


ワルキュラが、一人で考え事をしている間にも、デスキングの妄想は続いた。


「そうだっ……!偉大なる陛下はっ……!

キャベツを大量に潰す事で、人間王国の食料相場を上げさせて、民衆の生活にトドメを刺したのだっ……!

陛下が本当に助ける気があるなら、キャベツを潰さずに送っていたはずっ……!

だが、現実はっ……!キャベツを一つも送らなかったっ……!」


「た、確かに!その通りだ!」

「やはりデスキング殿が言っているように、全ては陛下の策略だった!?」


(あばばばばばっ……!)

いつの間にか、大悪党にされている現実に、ワルキュラは戦慄した。

骸骨顔なおかげで、激しく動揺しても周りに全く悟られない。

心臓がないから身体が震える事もない。


「しかもっ…民衆は自分たちの生活を守ってくれる指導者に従うっ……!

今回のワルキュラ様の人道支援でっ……!民衆はワルキュラ様を絶大に支持するという事だっ……!

これが飢饉を演出する事で得られるっ……!帝国の利益の一つだと思われるっ……!

さらにっ!まだ疑問があるっ……!

人間王国が容易く降伏した事実っ……!

普通の国なら戦争になるはずだっ……!

これにも、きっと深い意味があるはずっ……!」


「「ま、まだ、今回の話に奥があると!?」」

「「そ、それ以上は駄目だ!口封じされてしまう!そんな気がする!デスキング殿!」」


「私も確信できないが思い出してもらいたいっ……!

陛下はっ……!この世界に降臨した時に言った事をっ……!

太陽殿を手下にしているという現実をっ……!

今回の飢饉は、何が原因だったか知っているはずだっ……!」


「「た、確か、局地的な温度上昇による異常気象!?

そ、そうか!陛下は人間王国だけを限定してっ!

太陽殿を使って、作物を枯らしたのか!」」

「「太陽殿をそんな事に使うなんて!なんて贅沢な策略なんだ!」」

「一部地域だけをピンポイントに飢饉にできるなんてっ!さすがは偉大なる死の支配者っ!」


黒歴史を掘り返されたワルキュラの心が軋んだ。

近くにいる愛するルビーを見て、癒されて現実逃避している。

ルビーは、デスキングの話に夢中で、こちらを見ていないようだ。


「そうだっ……!

後はっ……!内部工作も行って、人間王国の政府組織そのものを、ワルキュラ様の手下にしてしまったのだろう……!

それが今回の迅速な征服に繋がったのだっ……!

民衆と政府を無傷で手に入れるとは……!

真に恐るべきはっ……!

ワルキュラ様の頭脳っ……!

私たちの知恵では、見通す事ができないっ……!

神の頭脳の持ち主なのだっ……!

正直言うと……!私にはこれ以上の予想ができないっ……!

一体、これから先、どういう計画をワルキュラ様が立てているのかっ……!全くの不明だっ……!」


「な、なんたる智謀!?実行する事すら不可能に思えてくる計略だ!」

「ワルキュラ様の頭脳は、天地の理すら超えているというのか!?」

「どこまで先を見ているのだ!我らの皇帝陛下は!!」


「人間どもの頭脳などっ……!幾ら束になってもワルキュラ様に叶うはずがないのだっ……!

くっかかかかかかかっ……!

さすがは、偉大なる死の支配者にしてっ……!全ての生命の支配者っ……!

知の神という異名こそが、陛下にふさわしいっ……!

大国をたった1日で陥落させる手腕はっ……!想像を絶しすぎて過程が全く理解できないほどに神業だっ……!」


「……え?」


「どうしました?」 


ワルキュラの呟きは、小さい声だったから、近くにいたルビーにだけ聞こえていたようだ。

大切な女の子に、こんな内心を悟らせる訳にもいかず、ワルキュラは誤魔化した。


「い、や、ルビーは今日も可愛いなぁと思っただけだ。

惚れ直したぞ。さすがは俺が選んだ女だ」


「ほ、褒められた!」


ルビーが顔を真っ赤にして嬉しがっている。

そんな反応を余所に、ワルキュラは今回の事を考えた。

人間王国へ、迅速に人道支援に行ける軍隊は?

海兵隊、海軍、空軍の三択。

で、そいつらを指揮する権限は誰が持ってる?

首相と俺。

じゃ、侵略の準備をしたのは首相が作った内閣府?

ワルキュラは、諸悪の権化をジロリッと睨んだ。

そうすると、首相は無表情のまま敬礼してきた。


「全ては陛下の計画通りに進んでおりまする」


「う、む……?」


「私めも、デスキング殿と同様に、陛下の考えの一部を理解できます。

しかも、陛下は私めの行動を読みきった上で、行動してくださった。

さすがは偉大なるお方です」


「そ、うか。

これからも帝国の運営を任せたぞ、ホネポ首相」


「真にありがたき幸せ」


どこをどう勘違いしたら、隣国を征服するという展開になるんだよ!とワルキュラは思ったが、口から言えなかった。

皆の頂点に立つ皇帝が、嫁達とイチャイチャしたい、そんな甘ったるい事を考えているなんて知られる訳にはいかない。

どんなシステムも、時間が経過すれば古くなって時代に合わなくなる。

アンデットに寿命はない以上、ホネポやデスキングのような、有能な奴らの働きは必要だった。


(俺はどうしてこうなった……!)


上司と部下のコミュニケーションの取り方って奴を、どこかで学びたくなった。ワルキュラだった。


「陛下、これを受け取りください」


困った事に状況は動く。ホネポ首相が一枚の紙を渡してきた。

ワルキュラが、首を傾げる。

こんな時に、なんでこんな紙を渡すのか、謎だった。


【人類王国の道路建設計画】


(誰か教えてくれ。

首相は何を考えているんだ?

俺にはさっぱり分からん)





【内政チート】「働いた先に何も希望がなかったら、頑張れない」


http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_58.html

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