Lv20「不死王の世界征服③~人口が増えたよ、やったね~」

帝国の宮殿の中央広場、普段は静かな雰囲気が保たている場所だったが――数百人にも及ぶ人間が倒れていた。

片手に骸骨を象った小さな勲章を持ち、意識を失っている。

これらの無残すぎる光景を見て――ワルキュラは悲しそうに愚痴った。


「なぜ……こうなった……」


倒れているのは、文化に貢献した偉人達。

盛大に、その功績を祝福してやろうと、勲章を授与したら、次々と絶叫して倒れた。

意味が分からない。なぜか、近くにいるデスキングが大笑いしている所が謎だ。左遷したい。


「さすがは偉大なる陛下っ……!

オーラを抑えているにもかかわらずっ……!

その威厳で人間どもを倒すとはっ……!まさに圧倒的なカリスマ……!

陛下の威厳には誰も勝てはしないのだっ……!」


威厳で国民を倒してどうする、とワルキュラは思ったが口には出さなかった。

もう、毎年、起きている出来事だ。

きっと、国民側も慣れているだろう。

大国でも征服しない限り、マスコミも大騒ぎしないはず――


「陛下」


そう言って、無表情なホネポ首相が、ワルキュラの所へと歩いてきた。

ホネポという名前で、知らない人に誤解されやすいが、骸骨型のアンデットではない。

顔が不健康な感じに、真っ青な吸血鬼の青年だ。

いつも何を考えているのか分からない所が不気味だが、帝国を見事に運営しているのだから有能な男なのだろうなぁと、ワルキュラは判断している。


「予定通り、人間王国が従属を求めてきました」


「ん?どういう事だ?ホネポ?」


「申し訳ありませぬ、複数の解釈が出来る言い方でした。

正確には、王国が国家主権を放棄し、帝国の衛星国の一つになりたいと言っております。

全てはワルキュラ様の計画通り――という事です」


ワルキュラには、何が計画通りなのか、さっぱり意味が分からなかった。

人道支援したら、感謝されすぎて、属国になった展開なのだろうか?

現実は何でもありな世界だと、さすがに理解しているが――国家主権を放棄し、従属してくるオチになるとは、全く想像していなかった。


(つまり……人間王国の経営が、それだけ末期的だったという事なのだろうか?

まぁ、800年くらい続いた国だから、それだけ腐っていたんだろうなぁ)


面倒を見る国が増えるのは、全く好ましくない。

しかも、人間王国と言えば、汎人類大連合の一角を成す大国だ。

人口は2億人ほど居たはず。

そんな国が主権を放棄したら――非常に凄く厄介だ。

首相や大臣達に、ほとんどの仕事を放り投げているとはいえ、それだけ大きな国を支配し、運用するのは労力がかかる。

ワルキュラに胃はないけど、胃があれば溶けて痛くなりそうだ。

この時ばかりはアンデットになって良かったと、皮肉ながら痛感するしかない。


「さすがは陛下だっ……!

たった一日で、東の大国を征服なされたっ……!

だが、これは大いなる計画の一端に過ぎないのだろうっ……!陛下の智謀が恐ろしいっ……!」


感動するデスキングの物言いが、さらにワルキュラの精神を苦しめる。

人道支援で、他国を征服って、幾らなんでも迷惑すぎるだろと。


「「ど、どういう事ですか!デスキング殿!」」場にいる大臣達が、現状に納得しようと声を上げた。


「くくくくっ……!無知な貴様らに陛下の企みを教えてやっても良いがっ……!

さすがに内容が内容だっ……!

陛下の許可が無ければ話せぬっ……!

最重要国家機密に相当する内容になるであろうっ……!」


デスキングが、真っ赤に光る目をワルキュラに向けた。

何も企んでいないワルキュラだったが、隣で可愛いルビーが目をキラキラっ輝かせて、興味深そうにしているから――


「う、む。デスキング、説明を許可する。

大臣達に分かるように説明してやれ。

あ、国営テレビはカメラをストップするように。

ここでの記録を残すは一切、許さぬ」


嫁さんに格好良い所を見せたくて、迂闊にも許可してしまった。


「陛下から許しが出たから話そうっ……!

偉大なる死の支配者の策略をなっ……!

まず、人間王国は、周辺の国を全て巻き込んだ汎人類大連合っ……!

その主導権を握る四大理事国の一角を担っている事は知っているなっ……?」


大臣達が無言で頷くと、デスキングは気分を高揚させて、話を続けた。


「奴らは恐れ多くもっ……!

偉大なるワルキュラ様に対してっ……!

反旗を翻す愚か者達の共同体の長っ……!

ワルキュラ様は奴らの結束を崩壊させるためにっ……!

今回の人道支援(物理)とやらを行ったのであろうっ……!」


「「な、なんだってー!?」」

「「す、すごく壮大な計画が発動していた!?」」


大臣達は、陰謀の気配がして盛り上がっている素振りを見せていた。

ただ一人、ワルキュラは思う。

国をこれ以上、大きくしてどうするんだよ、と。

大きくなりすぎた国は、その自重で滅び去るのが歴史の常だ。

宇宙人がたまにやってくるから、いずれ巨大星間国家を作らないといけない気がするが、そういう展開はまだまだ先のはずだ。


(俺はルビーやアトリ達とイチャイチャして、平和に生活できればそれで良いのにっ……どうしてこうなった……!

俺の人生の9割くらいが、どうしてこうなった……!で構成されている気がするっ……!)


勘違いしまくるデスキングを左遷してやりたい気分になったが、左遷しても、すぐに戻ってくるだろうから、本当にどうしようもない。


「お前たちも思い出すのだっ……!

昔、陛下が作った万能小売店――コンビニを作った時の事を思い出せっ……!

今回の策はっ……!アレの応用ぞっ……!」


「た、確か、現地の商店街連合を潰すために……その中の数店舗と同盟を組んだ、あの商戦……?」

「商店街を丸ごと滅ぼした……伝説のコンビニ戦争……?」


ワルキュラの精神が、首を絞められたかのように苦しんだ。

コンビニ戦争。それはワルキュラの酷い黒歴史。

支配者が、国民の雇用を丸ごと潰してどうするんだよと、後で大後悔して深海を一週間ほど歩いて、全身ワカメだらけになった――最悪すぎる戦いだ。


(欝だ、死のう……。

いや、アンデットだから、とっくの昔に死んでいるな……俺)


「連合や同盟という言葉は美しいがっ……!その結束は脆いものだっ……!

一部の参加勢力が寝返るだけでっ……!

一気に商店街連合全体の結束は崩壊しっ……!

疑心暗鬼となり、それぞれの商店の経営が悪化っ……!ワルキュラ様のコンビニが圧勝した……!

今回は、そのコンビニ戦略の応用に違いない……!さすがはワルキュラ様だっ……!

恐らくはっ……!こういう時のためにっ……!

コンビニを使って練習を兼ねていたのだろうっ……!

無駄に商店街を潰して雇用を減らした意味がっ……!今なら理解できるっ……!」


「つ、つまりっ!

人間王国が、帝国の衛星国になる事で、汎人類大連合が内部崩壊するという事ですか!?」

「へ、陛下は、どこまで予想して行動しておられるのだっ!」

「なるほどっ!当時の陛下の行動が可笑しいと思ったらっ!そんな裏があったのか!」


大臣の驚愕の声に、デスキングはますます元気になって、骨の喉を震わせて言葉を続けた。


「そうだっ……!そういう事なのだっ……!

陛下は人道支援をやるついでに、最小限の犠牲で人間王国を降伏させ、汎人類大連合を内部崩壊させようと企んでおるのだっ……!

という内容で良いですよね!ワルキュラ様!」


デスキングが口調を変え、ワルキュラに問いかけた。

ワルキュラは焦る、苦悩し、心の悲鳴を上げる。

帝国は、ワルキュラの威信で持っている以上、肯定せざる負えない。自分が皇帝なだけに。


「さ、す、が、だな。

俺の考えた策を、こうも容易く看破するとは――未だにお前の智謀も衰えていないらしい。

最終決戦の日を思い出すな……」 


ワルキュラは昔の事を思い出す。最終決戦のあの日――水爆でデスキング即死したから、全く役にたってねぇーと。


「ふっははははははっ……!

ワルキュラ様は、恐らくっ……!

私が推理した内容以上の事を考えおられるはずだっ……!

つまりっ……!ワルキュラ様が、この星の覇者になる日は近いっ……!」


デスキングとワルキュラのやり取りに、納得した大臣達は喝采の声を上げた。


「さすがはワルキュラ様だっ!」

「情報をここまで秘匿して、成功させる智謀に万歳ー!」

「偉大なる死の支配者に栄光あれぇー!」


拍手と喝采に、右手を上げて応えながら、ワルキュラは願う。

汎人類大連合、絶対、崩壊するなよと。

敵対勢力の弱体化は、帝国から緊張感を抜き、内部崩壊を招く。そんな未来が容易く想像できた。

折角、頑張って、無駄な衝突を避けて、日常を過ごしているのに、このままだと台無しだった。


「さ、さすがはワルキュラ様です!

僕、皇后になっても未だに、策とか理解できないけど、なんかすごいです!」


純粋で無邪気なルビー皇后を不幸にしたくない。

この身体が朽ちる、その日まで幸せに暮らしたかった。


(これで総人口は……単純計算で50億人を突破したな。

国の屋台骨が腐り落ちる前に……この人口の多さで倒壊するのではないだろうか?)


未来は、ドーント、暗い。そんな気がした。



【内政チート】「ウンコゴーレムを作って細菌無双する!」

http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_80.html

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