Lv19「不死王の世界征服②~人間王国~」

人間王国は、長い歴史がある古い国だ。

国王を頂点とする絶対王政という制度を敷いており、長く続きすぎたが故に――国としての平均寿命を当に通り越し、国を運営するシステムは老人のように老いている。

800年の時は、人間には長すぎた。

そう、頭が光っている、コルベール宰相は考える。

今回の大飢饉に対応しようにも、捻出できる予算は何処にもない。

むしろ、今まで借金しすぎて金が足りず、毎年、新しい借金をしないと国を運営できない。

飢饉になる前の時点で、農民は経費と税金で収入の9割が奪われて、まともに生活できない状態だ。これ以上の重税は反乱を呼び込む。

貴族に課税しようとすれば、歴代の宰相のように、己の首が物理的に空を飛んで旅行するだろう。

ワルキュラ帝国とかいう、不死者だらけの民主主義国家(?)から、定期的に食料が送られてくるが、貴族達が横領して、王都まで届くのは極わずか。

どう見ても、この国は詰んでいる。

特に、化物どもと国境を接しているのがやばい。

弱った国は、自力で立ち直らない限り、他者に飲み込まれるのだ。


(わ、私はどうすればっ……良い?)


コルベールは通路で苦悩する。

改革は、貴族や僧侶の利権に潰される。

財政は借金漬け。

農民は、今回の事で飢えて死ぬだろうから、激減して納税者が増える。

街中は、飢えた人間だらけで、死体が生ゴミのように転がっていて、殺人事件が幾つも発生していた。

もう、どうしようもない。

軍事クーデターでも起こして、貴族達を粛清する以外に生き残る道はないが、そんな事をすれば帝国の魔の手が押し寄せてくるだろう。


「宰相閣下ー!」


悩んでいると、若い騎士が大声を上げてやってきた。

きっと、飢饉関連の騒動なのだろうなぁと判断したコルベールは、すぐに問いただす。


「どうした、市民がまた暴動でも起こしたのか?

それとも平民の軍人が、クーデターでも起こ――」


「アンデットの大軍がっ!王都に攻め込んできましたぁー!」


「な、なんだってー!?」


悪い時には、悪い事が重なる。

国が傾いている最中に戦争になれば、例え勝利できても滅びの道を辿るしかない。

しかし、アンデットどもは何処からやってきたのだろうか?

王都は水運の要に位置しているとはいえ、大海からは遠い。

普通、港を攻略して、拠点を得てから王都を攻略するのが常識というものだ。

それに、王都の周りには要塞が幾つもある。

それらを全て無視して、やってくるのはありえない。

飲み食いしなくても戦える種族とはいえ、こんなに迅速に王都を突くのは不可能だ。


「ア、アンデットどもは……何処からやってきた?」


「空からですー!

化物どもはっー!空からやってきましたー!

こちらに来てくださいー!」


王宮の通路を、騎士が案内する。

その先にあるのは、閲覧式の際に使われる広いテラスだ。

大きな広場と、街を見下ろす事ができる絶景スポット。

この国の王妃が、敵国出身だから、人民が罵声を浴びせまくったのは記憶に新しい。

テラスに到達したコルベールの目には――数百のヘリコプターが空を飛び交い、次々と物資を落としていく光景が見えた。

まるで空飛ぶカラス、いや、空中要塞だ。


「ば、馬鹿なっ……!

ヘリの航続距離はもっと短いはずだっ……!

ここに来れるはずがないっ……!

化物どもめっ!公表するデータに虚偽を混ぜたな!」


ヘリという乗り物は、同じ場所で滞空する時間が長い代わりに、エネルギーを大量に浪費するはずだ。

そのせいでヘリの航続距離は恐ろしく短い、帝国からの説明では、そうなっていたはずだ。


「いや、嘘はついてないですぜ。

航続距離ってのは、エネルギーを途中で供給すれば、幾らでも伸ばせるから誤魔化しが効くって事を知らないのかね?

あの中の一機が、発電所をそのまんま搭載しているんでさぁ」


その無礼な発言をしたのは、先ほどの騎士だった。若造の分際で、大国の宰相にタメ口をしている。

さすがに温厚なコルベールといえど許せない。


「なんだ!貴様はっ!知識自慢でもしたいのか!?

騎士の分際で、宰相とタメ口とは恥を知れ!」


「いやいや、俺は騎士じゃないぜ。

ほぉら、よく見るんだ。

俺の目を見るんだぁ」


すぐに、騎士の姿が銀色のスライムへと移り変わった。そして、つい先ほどまでは若い青年だったのに――今は、コルベールそっくりのハゲ頭の男になっている。

服装も、顔も、全てが全く同じ。まるで鏡のようだ。

このような事ができる化物に、心当たりがある。

変身魔法を効率よく行うために特化したアンデットにして、帝国最悪のものまね士と言われる――


「ド、ドッペルゲンガー!?」


「そうだ。

俺はドッペルゲンガーだ。

しかし、アンタの身体は、ストレスで結構ボロボロだな?

無能な王様に仕える苦しさって奴かねぇ?」


そう言って、ドッペルゲンガーはくくくくくっと、忍び笑いをして言葉を続けた。


「そうだ、こんな雑談に費やす時間はなかった。

首相閣下から、アンタ達に最後の通告だ。

すぐに降伏せよ、さもなければ――どうなるかは、想像にお任せします、だってさ。

碌でもない最後になるって事だけは、責任を持って言えるぜ」


「ん?首相閣下?

こ、今回の事は、ワ、ワルキュラ殿は無関係なのか?

だとしたら抗議するぞ!ワルキュラ殿に!」


「いやいや、ワルキュラ様も認めてますぜぇ。

俺たちがこっそりと、侵略の準備をしていた事すら、見破っていたみたいでね。

さすがは偉大なる死の支配者。

あと、ワルキュラ殿じゃなくて、ワルキュラ『さま』な。

これからアンタらの飼い主になるんだ。言葉遣いには注意する事だな」


「くっ……!」


「さぁ?

どうするんだ?

降伏しないなら、アンタを殺して、俺が成り代わって降伏するだけだぜ?

さっき、俺が化けていた騎士みたいになぁ。

俺は政治家やった事がないから、きっと碌でもない圧政になる自信があるぜぇ。

例えば、そうだな――アンタが憎む馬鹿貴族みたいな政治をやるだろうなぁ」


「ま、まさかっ!?」


コルベールの脳裏に、恐ろしい想像が迸った。

この国が腐ったのは、貴族達が腐敗したのが原因じゃなくて――目の前のドッペルゲンガーが殺して成り代わって、わざと悪政をした。そう考えれば、全ての矛盾が解決する。

そう思い込みたかった。


「おや?お前らの腐敗を、俺らのせいにするのか?

そりゃないぜ?責任逃れはよくないって、ワルキュラ様も言ってるぜ?

この国が傾く原因を作ったのは、2代前の戦争王が、戦争しすぎたせいだろう?

まぁ、俺たちは長生きだから、その頃から暗躍する事は可能といえば可能なんだがな」


「くっ……!こ、降伏の条件は!?」


「帝国の衛星国になる、ただそれだけだ。

もちろん、オタクらの王様の地位は弱体化させるが、国の象徴として残しておいてやるよ。

長く続いた王朝ってのは良いねぇ。

頂点を抑えれば、人民は家畜みたいに支配しやすい。

国がこれだけ腐敗しても、潰れないのは伝統のおかげだったりするのかねぇ?」


人間王国の歴史を終わらせる訳には行かなかった。

王朝が存続するなら、まだチャンスはある。

それに、帝国に従属するメリットがあった。

既得権益の解体。そして、借金を全て帳消しにできる。

一時的に、国の信用は皆無になってしまうが、この末期的な状態が続くよりは遥かにマシだ。

問題点があるとすれば――ワルキュラが何を考えているのか?その一点だけがコルベールには恐ろしい。

国は損得で動く。あの化物もきっと、この国を通じて利益を出そうと企んでいるに違いなかった。

それに選択肢は残されていない。全ての可能性を削り取られて、一本の道しか見えない。


「わかった、遺憾ながら降伏しよう……。

名誉ある扱いを頼む」


「良い判断だ。

きっと首相閣下は、良い地位を約束してくださるぜ。

国を売り渡した売国宰相ほど、価値がある駒はないからな。

アンタは国民を守るために、国民に恨まれるんだ。

成功しても、失敗しても、民衆の怨嗟はアンタに向かう事になる」


その言葉に、コルベールは歯を強く噛み締めて耐えた。

今までは、国民が支持してくれたから、辛い宰相生活を乗り切れた。

だが、肝心の国民を敵に回して、政治家をやるのは――とんでもない地獄だ。

今までの真っ当な人生を全て否定するような、そんなイバラの道が待ち受けているに違いない。


「激怒した人民とかに暗殺されたら、陛下の力でアンデットにしてやるから安心しろよ?

お互いに末永く、幸せにやろうじゃないか。

アッハハハハハハハハハハ!」


この日、長い時を刻んだ大国は、歴史の裏舞台へと消えた。






ワルキュラ(人道支援の準備を事前にやるなんて、首相は良い奴だなぁ)


首相官邸(征服の準備をしていた事がばれた、さすがは陛下……。

部下の行動すら、全て把握しておられるっ……。)



【内政チート】「記者クラブを作って、マスコミを操ってチートする! 」

http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_20.html

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