二章 人間王国編

Lv18「不死王の世界征服①~大飢饉~」

帝国の宮殿は、夜中が一番騒がしい。

公務員の大半が、アンデットと呼ばれる不死者で構成されているせいで昼夜が逆転している。

ワルキュラは昼も夜も好きだったが、皇后のルビーが吸血姫で、夜が大好き。

必然的に、宮殿での生活は夜だった。


「ワルキュラ様」


その愛らしい声に、ワルキュラは振り返った。

居間に、小さな銀髪の女の子が入ってくる。高そうな黒いドレスを着た、ルビーだ。

左手に穴が開いて、萎れている新聞を持っている。


「今日は凄い大ニュースっぽいです、東の人間王国が水不足による大飢饉とか、局地的に温度があがって、湖が干上がって、作物が枯れたとか書いてました」


そう言って、ルビーはワルキュラに新聞を渡す。

新聞紙に穴が空きすぎて、骨の手で掴むのも大変だったが苦労して、ページを一枚一枚めくり、隣国の状況を知る。

こういう情報は、スクープを掴むために、日夜頑張っている民間の報道機関が早くて便利だ。


「うむ……飢饉か」


新聞には、人間王国の飢饉で、数百万の人間が餓死する可能性があると書かれていた。

帝国と人間王国は、とっても外交関係が悪いせいで、食料を低価格で輸出する事ができない。

このまま状況を放置すれば、新聞が書いてある通りの大惨事を迎えるだろう。


(餓死か、それは最悪な死に方だな)


骸骨の体になったせいで、飢えて苦しむという感覚を忘れてしまったが、人間は飢えれば自我が崩壊して獣になってしまうと聞く。

草木すら食べ、子供すら殺して調理して食べるダーク・ファンタジーな光景がそこら中に広がると思うと、可哀想だった。


「ところでワルキュラ様……学校生活どうなってます?」


「不幸な事故があってな……未だに休校中だ。

それよりも、この大飢饉は大変だ。

このままでは大勢の人間が死ぬと……書いてあるな」


「ワルキュラ様を馬鹿にしている国の人間ですし、何人死んでも良いと思います」


「そう言うな。困った時はお互い様だ。

政府同士の関係が悪くても、民草には関係のない話だぞ、ルビー」


「さすがはワルキュラ様です!

人間の悪意なんて、そよ風に過ぎないって事ですよね!」


「う、うむ……蟻がやる事を一々、怒っていたら切りがないだろう?」


そう言って、ワルキュラは衛星携帯電話を異次元から取り出した。

番号を押して、ポチッとな。

電話がプルプルと震えた後、相手先の電話へと繋がった。


『もしもし、こちらは首相官邸です』


「その声はホネポ首相だな?

俺だ、ワルキュラだ。

東の人間王国が大飢饉になっている事は知っているか?」


『はい、存じております』


「人道支援とやらは出来ないだろうか?」


『既に軍の準備はできております。

ありとあらゆる【障害】を踏み潰す、圧倒的な人道支援を、海軍、海兵隊とともに何時でも実行できる状態で待機させております』


「う、む?……さすがはホネポ首相だな、準備が良い。

予算が足りなくなったら、タコ型宇宙人から貰った財宝を、オークションにかけてでも良いから捻出するのだ。

なに、あの宇宙人も、人道支援なら納得してくれるだろう(たぶん)」 


「陛下の声を聞けるのは感謝の極――」


首相が言い切る前に、ワルキュラは通話を切ってしまった。

あ、やべぇ、今のは失礼な対応だったなと少し後悔したが、後の祭りである。

簡単なようで重大な仕事を終えたワルキュラを見て、ルビーが微笑んできた。


「人間にも、お優しいですね、ワルキュラ様」


「これが王者の王道と言うものだ。

これで帝国のイメージがアップして、未来は明るくなるな」


首相が言っていた『圧倒的な人道支援』という内容が気になったが、上が一々、口を挟む事ではないと判断する。

帝国は巨大なシステムだ。

ワルキュラ一人で全ての事を知ろうと思ったら、こうやって好きな女の子と一緒に過ごせる時間がなくなってしまって本末転倒すぎる。

折角、同格の化物達と、次々と戦う日々を終え、この日まで運良く生き延びて来られたのだから。

公務は忙しいが、ワルキュラは24時間活動可能なアンデット。

夜はルビーと一緒に働き、昼間は属国でのんびりゆっくり過ごせるから全く問題がない。


「ワルキュラ様。

今日のスケジュールは、僕と一緒に文化勲章の授与式です。

勲章百個は既に用意してあるから、功労者を一人一人労って、勲章を渡すだけで良いそうですよ?」


「ああ、あれか……。

毎回半分くらい、文化功労者が気絶したり、失禁するのは何故だろうか……?」


「さぁ?なんででしょう?

僕なら大喜びして、骨を舐めるのに……」


「きっと、文化に貢献しすぎて身体が病んでいるのだろう……。

普通の仕事と違って、金を稼ぐのが大変な人気商売だからな……」




--------------------------------------------------------------------------------


文化功労者「「ワルキュラを悪役にした映画を作ったら、勲章授与式に呼ばれた!?処刑する気か!?」」



文化功労者「「モモタ・ロ・ウで、ワルキュラを殺害したのに、文化功労者に選ばれた!?」」


【内政チート】「現地で物資を調達すれば、相手国の経済を破壊できる」軍事

http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_55.html

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る