Lv17「不死王とシャセイ大会」

とうとう、安息の日がやってきた。

その名を休日。仕事を休んで、日々のストレスを発散してゆっくりできる日。

学生寮を出たキーニャンは、満面の笑みとともに、軽く背伸びする。

そして、頭上で輝く太陽さんに――


「もっふふー!」


ワルキュラと会わない今日という一日を祝福した。

だが、家でダラダラ過ごすのも退屈だ。

アルバイトついでに、社会経験ができる仕事をやるべきだ。

そう、写生大会のモデルとか、可憐な狐娘にはピッタリだろう。芸術の勉強にもなるし。


「もっふふ、写生大会のモデルは美味しい仕事。

お金も貰えて、新鮮なミルク一年分を飲み放題とか……なんて幸せなんだろう。

地道に、モデルのアルバイトもやっていて良かった……」


「しゃ、射精大会だと……?

一体、それはどんな白濁な大会なのだ……!?」


後ろから、邪悪な声が聞こえた。そんな気がした。

恐る恐る、キーニャンは背後の空間を振り返る。すると、そこには――


「も、もっふぅっ……!?

ワ、ワルキュラ様……?

あれ……?今日は休日じゃっ……!?」


世界を恐怖させる、悪の帝王がいた。

巨人と言っても良いくらいに、大きくて動く骸骨だ。

全く容赦しないワルキュラが、動揺して黄金色の尻尾を超高速フリフリしているキーニャンに詰め寄って、話しかけてくる。


「おいっ!キーニャンっ!

射精大会とは……どういう事だ?

説明しろ!」


逆らったら、殺されると思ったキーニャンは、口からペラペラと情報を漏らした。


「え、えと、そのですね。

しゃ、写生大会の絵のモデルになると――し、新鮮なミルクが、たくさん飲み放題なんです」


「射精大会のエロのモデルだと!?」


「は、はい、そうです」


「ふ、服を脱いだりするのか!?」


「テ、テーマが、は、裸の場合は、は、はい、そうです」


「ま、まさか、マフィアから借金でもしているのか!?

キーニャンは射精大会で、新鮮なミルク?を浴びるほど飲んだ事があるのか!?」


「いえ、その、写生大会のモデルになると、ア、アルバイト料を貰えて、ミルクも飲めて、モッフフーなんです」


「そこまでして、濃厚な新鮮ミルクとやらが飲みたいのか!?キーニャン!」


「も、もっふぅ……!?」


キーニャンは、ワルキュラに説教されている理由が分からなかった。

牧場の乳牛から取れたミルクは美味しい。だから、たくさんミルクをゴクンッゴクンッするのは当たり前なのに、何故か自分が非難されている。

ひょっとしたら、目の前の骸骨は牛乳が大嫌いなのかもしれない。カルシウムたっぷりの骨なのに――


「黙るなっ!キーニャン!

白濁なっ!新鮮なミルクがっ!そんなに好きなのかとっ!聞いているのだ!」


「は、はい、大好きです……。

毎日、飲みたいくらい……ミルクが好きです……もっふぅ……」


「俺は見損なったぞ!キーニャン!

まさかっ!そんな下品な大会に出て、ミルクを飲むのが好きとはなっ!

今まで、何回くらい飲んだのだ!?」


「か、数え切れないくらい……ミルクを飲みました、すいません……」


「そ、そんなにミルクをゴックンしたのか!?」


「も、もっふぅ……はい、申し訳ありませぇん……」


「射精大会に出る事を禁ずる!

友として、上司として、そんな下品な大会にっ!二度と出る事は許さない!

わかったな!キーニャン!

大会に出たら解雇するぞ!」


「は、はい……?

わかりました……?」


ワルキュラの電光石火のような怒りに、キーニャンの体が恐怖で震えて寒くなった。

きつね耳が下に垂れて、元気を失う。

なぜ、怒られているのか、さっぱり理解できなかった。

やはり死者と生者の間には、埋められない溝がありそうだ。ミルク一つで、こんな大問題になるなんて信じられない。


「もっふぅ……もっ……ふぅ……」


落ち込む狐娘の両肩に、ワルキュラの骨の両手が触れた。

先ほどの態度とは違って、とっても優しい触り方だ。

だが、キーニャンの体は反射的に恐怖でビクンッ!と動き、尻尾が逆立って、今までにない命の危機を感じる。


「こ、殺されないでっ……!

ミルクを飲んですいません……!」


「何を言っているのだ、キーニャン。

この程度の事で、俺が殺す訳ないだろう」


「も、もっふぅ……?」


「いいか、キーニャンはまだ若いのだ。

その若さと身体を金銭で売る必要はない。

どれだけ貧しくても、教養があれば良い職につけるはずだ。

もっと自分を信じろ……キーニャン。

二度と新鮮なミルクを飲むな。

ミルクを飲んでも良いのは、相思相愛のカップルだけだ」


相思相愛のカップルだけが、ミルクを飲んでも良い?

つまり、これは――上司によるセクシャル・ハラスメントを意味する。

ワルキュラとエッチィ夜を過ごさないと、新鮮な牧場ミルクを飲む事が許されない。

相手は超大国の独裁者だ。キーニャンには絶対、逆らう事ができない悪の帝王なのだ。


(もっふぅ……!?

ミルクを飲むことすら禁ずるなんて……!?

やっぱり、悪の帝王だった……!?)


キーニャンは、生者を代表する一人として覚悟を決めた。

殺されたくない。

だが、一方的に体と意思を踏みにじられるのは嫌だ。

だから――狐娘は――


「ミルクはもう……二度と飲み……ません……」


永遠の、美味しいミルクとの決別を選択した。

そんな残酷すぎる選択を強要したワルキュラは、とってもご機嫌だ。


「そうか、分かってくれたか、キーニャン。

今日から正々堂々と、胸を張って生きると良い。

ミルクを飲むような家畜人生からは、サヨナラするのだ」


明日からは、美味しいコーヒーミルクを飲もう。

そう、キーニャンは心の中で代用品の名前を、そっと、呟いた。




「兵士達を、自然な感じを装って追い込まないと士気が崩壊する」 軍事

http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_54.html

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