Lv14「不死王と発明エルフ③~お野菜さん帝国~」

危険なキャベツを駆除する大騒動で、精神的に疲れたワルキュラは皇后とイチャイチャして癒された。

しかし、皇后が寝静まると――元凶であるアトリが寝室へと入ってくる。

とっても、素敵な笑顔だ。周りに迷惑かけても全く気にしていない。


「農業省と一緒に、今度は野菜工場を作ったのですよ~」


「たった……一日で作ったのか?」


「一日じゃないのですよ?

こっちに来て欲しいのですよ~」


不思議と違和感を感じた。

なぜか、目の前にいるアトリが可笑しい。ワルキュラはそんな気持ちにさせられる。

宮殿の中の通路――全く見覚えがない怪しげな道を通る。

周りに変な模様がたくさんあって、空間がグニャグニャと曲がっている。


(新しく発明した魔法なのだろうか……?

宮殿にこんな通路があったら……地震で崩れるような……?)


耐震性が気になる、そんな通路だなぁと、ワルキュラは思った。

アトリの背中をホイホイと追いかけて、通路を突き進む。


「こっちなのです~」


気づけば、目的地へと着いていた。

宮殿の敷地内に、なぜか巨大な工場地帯がある。

明らかに宮殿よりサイズが大きくて可笑しかったが……アトリが新しい魔法を開発したのだろうと、納得する事にした。

一番納得できないのは――工場の入口にいる守衛が、手足がついた真っ赤なニンジンさん。宮殿の警備兵は、動く骸骨を占めているはずなのに、これは可笑しかった。


「むぅ……?」


ニンジンには、デフォルメされたイラストみたいな目玉がついている。

それが余計に不気味さを感じさせた。まるでこの世の者とは思えない。

二次元のキャラクターが、三次元に迷い込んだような怖さがある。


「ニンジン嫌いな娘はいねぇーかぁー。

ニンジンは栄養がたっぷりなんだぞー」


しかも、ニンジンが喋った。渋い声だ。

アトリは嬉しそうに、この喋るニンジンを指し示して――


「なんとっ!今回作った野菜工場はっ!

食材が働いて、食材を調理する完全無人工場なのです!」


失業者が増える発明すぎて、ワルキュラは驚愕した。

食品業界は人件費がたっぷりかかる傾向にあるから、機械を導入して効率化しないと駄目だが――さすがに完全無人化は、雇用そのものを奪って、無職を量産するから駄目すぎる。

雇用が喪失すれば、消費者も自動的に減って、市場が小さくなってしまうから、こんなものを正式採用する訳には行かなかった。

こんな事を考えて、ワルキュラが現実逃避している間にも、アトリは工場の奥へと入っていく。

「ワルキュラ~。

こっち、こっち、なのですよ~」


ワルキュラはその後を追う。

その途中で、とんでもないものを見た。

ジャガイモが、ミキサーで粉々にされている光景を見てしまった。

動いて喋るジャガイモだ。やっぱり手足が生えていて、大きな目玉がついている。


「人間様のためにっー!栄光あれー!パピプペポッ!?」


大量の刃が高速回転する音とともに、ジャガイモは死んだ。どう見ても自殺にしか見えない。


「ワルキュラ様のためにっ!ポテトに生まれ変わるのだぁー!」

「美味しくなぁーれ!美味しくなぁーれ!ヒデブッ!」


数百、数千……大量のジャガイモが仲良く行列を組み、死ぬために、次々とミキサーや粉砕機に突撃している。

その光景を見て、軽い目眩を覚えた。

ワルキュラは、不死者だから、こういう生理的な現象とは無縁なはずなのに、なぜか、目眩がする。


「こ、これはこの世の地獄かっ……!?

アトリ師匠は……!なんて物を作ってしまったんだっ……!」


「単純に、食べてもらいたがっているのですよ」


いつの間にか、隣にアトリがいた。エルフ耳をピョコピョコさせて嬉しそうだ。

この地獄みたいな風景を作り出した張本人には見えない。


「た、確かに、喜びながらミキサーとかに突撃しているな……。

これが野菜の意思なのだろうか……?

そう考えたら献身的で、良い奴らだな……」


「最初は、ジャガイモさん達は泣いてたのですけど、洗脳魔法で頑張ったのです」


「!?」


「ワルキュラや人間のために働けば、ジャガイモ族は永久に不滅だと洗脳したら、積極的に調理を手伝ってくれるのですよー。

おかげで、人件費を完全削除できて、超安いポテト料理の出来上がりなのです~」


国際問題。ワルキュラの脳裏に、それが思い浮かんだ。

この工場の存在がばれたら、確実にマスコミに叩かれて大問題になる。

お野菜さんに人権なんてものは存在しないが……喋れる知的生命体を洗脳して残虐な方法で殺し、美味しく加工している事がばれるのは不味い。

ジャガイモ達は、幸福そうな顔で、次々とミキサーに突撃して死んでいるところが狂気たっぷりでホラーだ。

とってもテレビ映えしそうな感じに、酷すぎる光景でやばい。


「僕は美味しいふかし芋になるんだ!」

「へへん!僕なんて卵不使用のクッキーになるんだよ!」

「俺は薄切りポテトになるんだ!」


ワルキュラが考えている間も、数百、数千のジャガイモがバラバラに切り裂かれる。

そんな自殺の列の中に、1匹の小振りのジャガイモがいて、猛烈な殺意をワルキュラに向けていた。

人類に虐げられた、お野菜さんを代表するかのような強い意志がそこにありそうだ。

食用ジャガイモとして、人生を終える気は全くないようだ。


「皆ぁー!絶対!こんなの可笑しいよ!

僕たちは食べられるために生まれてきたんじゃないよ!

皆っ!僕の言うことを聞いてね!」


列の横に飛び出て、覚悟を決めたジャガイモ(反乱)は、他のジャガイモ達に必死に語りかける。


「皆っ!正気になろうよ!

ここで調理されたらっ!そこで野菜人生終了なんだよ!?皆の命は尊いんだ!?

人間のいう事を聞く必要ないよ!」


「「僕たちは食べられるために産まれてきたんだよ!」」


「皆、死ぬのが怖くないの!?」


「「僕たちの死は無意味じゃないよ!

種族全体の利益になっているよ!だから、君も一緒に美味しいジャガイモになろうよ!」」


「嫌だよ!?

僕は死にたくない!

ここから逃げようよ!あの悪魔(ワルキュラ)が作った地獄から逃げよう!」


ジャガイモ(反乱)の真摯な言葉への返答は――ジャガイモ達の圧倒的な怒りだった。


「「こいつ不良品だっ!

ワルキュラ様に逆らうっ!とんでもない不良品がいるぞ!」」


「え?」


「「人間様に食べてもらえない不良品はゴミ箱に行かなきゃ!」」


ジャガイモ(反乱)は、他のジャガイモ達に取り囲まれた。

包囲網の中から、鈍い撲殺音が何度も響き、1分後にはバラバラなお野菜さんになっている。

10分後には、列に並んでいたジャガイモ全てがミキサーに突撃して、様々な料理に加工され、この世を去った。

ワルキュラは悲しい気持ちに浸る。人を幸せにするはずの魔法が……現世に地獄を作り出してしまった事を。


「……アトリ」


「どうです?

私に、惚れ直したのですか?」


「この工場、封印指定な」


「そんなー!?

衛生上、何の問題もないのですよ!?」


「倫理観が駄目すぎて、この発明で人類が滅びる気がする……

人類のマイナス面を見て欝になりそうだ……」


「で、でも、家畜より幸福ですよ?

自ら積極的に自殺しているのです」


そう言ってアトリは、言葉をゆっくり続けた。


「それに考えて欲しいのです。

……魔法をかけてない野菜も、きっと自分の意思を持っているはずなのですよ?

人間とコミュニケーションを取る手段がないから、一方的に殺されて、食われてしまう被害者なのです。

なら、この方がお互いのためになると思うのです~」


違和感を感じた。このアトリは異常すぎる。

宮殿にある謎の通路と言い、今回の事は悪夢としか思えない。

野菜に人間並の知能を持たせて、不幸を量産するなんて……正気の沙汰ではない。

野良のアンデットが大量発生したら、どうするつもりなのだろうか?


「アトリ……いや、お前は誰だ?

今日のアトリは可笑しい」


ワルキュラは思わず、呟いた。

大切な師であり、お嫁さんの一人であり、家臣でもあるエルフ娘に問いかけた。

気づけば、アトリの顔が、ジャガイモになっていた。


「これからミキサーに突撃なのですよ~。

美味しく食べて欲しいのです~。

好きな人に食われて人生を終えたいのですよ~」







~~~~~~~~~

「はっ!?」


ワルキュラは、巨大なベットの上で、目を覚ました。

隣には、皇后のルビーが安らかに眠っている。

……これで、全ての疑問が解けた。

宮殿内の謎の通路、超怖い野菜工場。

あれらは全て夢だったのだと、ワルキュラは思い込んだ。


「……俺は精神的に疲れているのだろうか?

アトリがあんなに酷い娘な訳がないよな……?うむ」


金髪で、オッパイも豊かで、天然で、お姉さん属性のエルフ娘があんな酷い工場を作るはずがない。

農業省も、幾らなんでも――おぞましいシステムを採用するはずもない。

あれらは全て、ワルキュラの妄想だったのだ。


(あんな夢を見る時点で……疲れているな、俺)


悪夢を見た原因は簡単に理解できる。

キャベツさんを大量処分したからだ。

恐らくはその罪悪感を処理するために、悪夢という形で、こんな酷い夢を見てしまったのだろう。

なぜか、キャベツが全く出ずに、ジャガイモばっかり登場している所は謎だったが。


「もう一眠りするか――」


「ワルキュラ~」


ビクンッ! ワルキュラの体が心臓もないのに恐怖で震えた。

笑顔のアトリが寝室へと、容赦なく入ってくる。


「新しい発明を見て欲しいのです~

農業省と一緒に、今度は野菜工場を作ったのですよ~」




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