Lv3「不死王、新聞を読む」

自室で、キーニャンは両手を重ね、豊かな食生活に祈りと感謝を捧げる。

腐っていない甘い牛乳さん、ありがとう。

カビが生えていない食パンさん、私に食べられるために、産まれたんだね?

ウェルカム ツー 豊か食生活。

狐娘は、容赦なく牛乳さん達を食べ、朝食しない生活に別れを告げた。


「朝から食事とか、贅沢すぎます、もっふふ」


瞬く間に、全てを食べきった狐娘。

膨れたお腹を撫でて、笑みを浮かべ、朝食はもっとゆっくり味わった方がいいかなぁ?と貧乏人っぽい感想を抱いた。

幸福な満腹感とともに、自室を出て、キーニャンは学生寮のロビーへと歩く。

広々としたロビー。学生寮の皆が利用する寛ぎスペース。

そこに巨大な骸骨がいた。しかも、両手に、安っぽい紙質の新聞を持っている。


(ワルキュラ様のおかげで、豊かな食生活がGETできました。私、頑張ります、もっふふ。

……あれ?)


そして、狐娘は非常事態に気づく。

今、ワルキュラが、手にして読んでいるのは――ミンメイ新聞だ。

反ワルキュラを掲げ、徹底的に批判しまくる庶民の味方すぎる新聞だ。

そんなものを、ワルキュラが読めば、頭蓋骨を真っ赤に激怒させて、この国は今日中に消滅するだろう。


「むぅ!なんだ!この新聞はっ!」


しかも、ワルキュラの驚愕の悲鳴が上がった。それだけで、もう全て終わったと、狐娘は実感するしかない。


(オワター!

私の仕事オワター!

国と皆の人生もオワター!

きっと、私、国賊扱いされて、オークにプレゼントされて、けしからん事をされちゃうんだー!)


僅かな時間、キーニャンの脳裏に、走馬灯のように、今までの人生が映像として思い浮かび、通り過ぎる。

そんな彼女の目の前まで、ワルキュラは近づき、新聞の一面を掲げて、話しかけてきた。


「見ろ!キーニャン!」


「ゆ、許してください!

この国を滅ぼさないで!

ミンメイ新聞は悪い新聞です!はい!」


「……ん?

何を言っているのだ?」


「もっふぅ?」


疑問の声をあげる狐娘。すぐにワルキュラが、新聞の安い紙を指で何度も叩いて、満足そうに――


「この新聞はすごいな!

穴が開いてないから読みやすいぞ!

手で持っても、崩れない!」


「え?どういう事ですか?」


「俺の宮殿で取っている新聞は、どれもこれも、なぜか穴が開いているのだ!

おかげでページをめくるのが面倒なのだっ!」


噂に聞く、検閲だぁー!?

この人、本当に世間で言われている大魔王ワルキュラですかー!?

言論の自由を認めているはずなのに、なんで宮殿で取る新聞を検閲しているんですー!?

民衆を弾圧する側が、検閲の犠牲者になっているって、どういう事なの!?

アナタ、本当に最高指導者なんですか!?

と、キーニャンは瞬時に思った。幸い、口からは内容は漏れていない。

そうやって狐娘が頭の中でウジウジ悩んでいる間、ワルキュラは感心した口調で、メイリン新聞を褒め称える。


「それにしても、素晴らしい新聞だ……。

俺の国の新聞社も、これを真似すれば良いのに……」


「そ、そうですね、ワルキュラ様!」


「ところで、なんだ?」


ワルキュラが、新聞の一面を指差して


「この美少女を城に閉じ込めて、陵辱する大魔王という記事は。

こんな大悪党の話は初めて聞いた……なぜ、俺の軍は、こんな奴を放置しているのだっ……?」


それ、アナタの事ですよー!?

この国では、大魔王はワルキュラ様を示す隠語なんですー!

と狐娘はツッコミを入れそうになったが、心の声を口に出す努力を強制停止させる。

今やるべき事は、彼女には分かっている。

今日中に、学生寮のメイリン新聞を全て燃やすゴミに送り、ワルキュラを褒め称えるホネホネ新聞を取る。

それ以外の方法で、キーニャンが生き残る道はなかった。


「それにしても、酷い大悪党だ。

国を一つ魔法で消し飛ばしたとか、民衆を恐怖で支配しているとか書いてあるな……。

さっさと死ねば良いのに……」

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嫁「ワルキュラ様を批判する記事は、切り取ってポイッです!」



骸骨達「「言論の自由に甘えた出版社どもめっ……!

こんな記事を載せるとはっ……!

全部、購入して切り取ってやるっ……!」」



ワルキュラ(雑誌と新聞に、全部、穴が開いている……。

読み辛い……なんて俺は不幸なんだっ……)

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