五千円物語

片桐バウムクーヘン

電気街の冥土喫茶

「お兄ちゃん、メイド喫茶どうですかぁ?」

 重苦しい曇天の下、メイド服を着た若々しい女の子が元気に私に呼びかけた。

「あ、すみません。人違いです」

 私はすかさずそう返す。



****************



 寒い日だった。私はこの日、小説を書くための刺激を得るため、近所の有名な電気街を散策していた。

 街に混在する書店や、電気屋やプラモデル店やフリマボックスに入ってはいろんなものを見て、思いついたことを相棒のノートに書く。

 そうやって、あてもなくアイディアを集める"アイディアの亡者"に成り果てた私は、まるで血肉を求めるゾンビが如くふらふらと歩き回っていた。

 次はどこへ行こうかなと電気屋を出てふと空を見上げる。電線やビルの背景に広がる空は嫌な雲に覆われていた。

 どこまでも重苦い鉛色に染まった空を眺めつつ『これは一雨来るな。帰るか』と心の中でつぶやき、視点を上から前に戻した。すると、ちょうど電気屋の前に立っていた若々しいメイドと目が合った。

 私と目が合ったそのメイドは獲物を見つけた捕食者のような笑みを浮かべ、冒頭のセリフ、「お兄ちゃん、メイド喫茶どうですかぁ?」を口走った。

 周囲には私しかほとんど人が見えない上、このメイドは私の目を見ている。

 この勧誘文句は、ほぼ間違いなく私に言ったのだが、あいにく私のメイド喫茶に対する偏見というか先入観は"とても値段が高い"というものだったので、断ろうと口を開く。

「あ、すみません。人違いです」

 当然だ。人違いだ。

 私にはこんな可愛らしい妹はいない。

 私にはメイドの妹はいない。

 というか元より、私には妹がいない。

 いたらいいなと思ったことは何度かある。否定しない。だが、残念ながら私には妹がいない。それが現実だ。

 弟ならいるが、こんなに女の子みたいな感じではない。

 あの弟の顔をどう化粧しても、整形でもしない限りはこうはならないはずだ。

 私より身長が高く、筋肉質な弟の身体を、あそこまで白く柔らかそうな華奢な身体に仕立て上げることは現代のテクノロジーを持ってしても難しいだろう。

 なので人違いだということは、ほぼ間違いないかと思われる。

 生き別れの妹という可能性も無きにしもあらずだが、そのメイドは私はもとより、父や母とも全く顔が似ていなかったので、その可能性は限りなく低いだろう。

 ということは、このメイドはメイド喫茶の従業員であると推測できる。

 なんかチラシ持ってるし、思い切り、『メイド喫茶どうですかぁ?』とか言ってたし。

 というか答え言ってるし、メイド喫茶の従業員でほぼ確定ではないか、このメイド。

 ……というか待て。ちょっと待て。このメイド……、このメイド、今"お兄ちゃん"とか言わなかったか。

 普通メイドという生物が発する二人称は"ご主人様"とか"お嬢様"などではないのか。

 なんだ、プロなのか? このメイドはまさかプロで本物のメイドなのか?

 私はメイド業界やメイド文化についての造詣は深くないが、プロメイド業界では"お兄ちゃん"とか"お姉ちゃん"というのが昨今の主流なのか?

 だとすると、私が二十年以上も抱いているメイドという存在定義が根底から覆されることになりかねない。

 出会って数秒もしないうちに遠慮無く固定概念をぶち壊しにくるとは恐ろしい。

 約二十三年生きてきた人間の中の常識を揺るがすとは、本当に恐ろしい人間だ。こんな得体のしれないものには関わらないでおこう。

 真に私が取るべき選択肢は完全なる無視だ。心苦しいものもある。が、ここは無視。無視が最良である。

 私の心は鬼。そう、真っ赤な鬼だ。さらば名も知らぬメイドよ。お前が良いご主人様に巡り会えるよう、私は祈っているぞ。

 そう思い祈り、歩き出そうとする私の左袖は掴まれた。


「ちょっとちょっと~、どこ行くんですかぁ?」

 甘えたような声で私に聞いてくるメイド。

 一体どこから出してるんだろうこの声……。

「いやどこって、雨降りそうなので帰るのですが」

 私はあからさまに呆れた声で言う。『メイド喫茶どうですかぁ?』の下りなどは当然無視。

 こんなものは罠だ。きっと法外な値段を請求してくる。ワンドリンクなんて二千円とかに決まっている。

 メイド喫茶には行ったことはないが、だいたいぼったくりだとか、ビンタされた上にお金を請求されるだとか、オムライスを提供する際に奇妙な儀式を始めるだとか、様々なヤバイ噂を聞いているからだ。

 確かに、メイド喫茶がどんなものか多少の興味はある。一度ぐらいは行ってみたいとも思うが、ワンドリンクに二千円も払うなら私は、そのお金で紅茶と茶菓子でも買って家でゆっくりとする。なんなら、小粋なジャズでも聞きながら紅茶と茶菓子を楽しむ。

 それになにより私はとっとと去りたいのだ。こんな寒い日に雨に打たれて帰るなど、死んでも嫌だから。

 よし、このメイド、顔はちょっと可愛いが私は絶対乗らないぞ。どんな甘い口上を垂れようとも私は絶対に行かない。

 さぁ来い、小娘。貴様は何歳だ? だいたい見た感じ十七歳か十八歳だろう。論破してやる。二十歳超えた大人に論破されるんだぞ。なかなか経験できないことだ。来い!

 そう思考を巡らせ、てこでも動かないぐらい強く固めた私の意志は無残にも、メイドの一声の一撃の元に完全粉砕されることとなる。

「それじゃあ、雨宿りも兼ねてメイド喫茶どうですかぁ~? ワンドリンク五百円で他店より安いんですよぉ~」

 再び甘えた声で言い、チラシを見せてくるメイド。

 チラシには



 ドリンク …………500円~

 アルコール…………900円~

 フード  …………600円~

 スイーツ …………700円~



 と、飲食物の価格と、店の名前や住所、電話番号などが、簡易地図とともにしっかりと書いてあった。

 ……ほう。ワンドリンク五百円か。

 どんなドリンクが出てくるにしろ、ワンドリンク五百円でおいしい小説や面白い話のネタになりそうなものがついてくると考えるとすごくお得だ。

 さっきまでの硬い意志はどこかへと消えてしまっていた。んん? 何? 論破? いやいやいや、なにそれ。超怖いんですけど。

「え? 本当に五百円なのですか?」

 私は興味深そうに聞く。本当ならばすごくおいしい。

「はい~そうですよ! お店の方は案内しますねぇ」

 メイドさんに袖を引っ張られ、案内される私。

 お店は電気街の前のT字路を奥に歩いて、曲がって少し歩きまわったところにあった。かなり近かった。

 案内されてる間は、メイドさんが逐一、何歳だとか、学生さんですかだとか、そういう他愛のない話を振ってきて、それに答える形の会話形式だった。ちなみに私は学生ではない。夢見るフリーターである。まだ芽は出ていない。


「つきました~」

 メイドさんが指指すのは雑居ビルの一階で青色の電飾が施された看板を扉の上に掲げたお店だった。

「さぁさ、入って入ってぇ~」

 扉が開けられ、私を迎え入れるメイド。

 店内は明るく、小さなバーのような感じだった。

 アニメグッズが満載されたバーカウンター、その横にはダーツ。

 バーカウンターにはいくつかの椅子が、バーカウンターの前の壁には二人がけの席が四つ、壁に沿うように並んでいた。

 店中の壁には指名料がどうとかいう張り紙やら、アニメのポスターやらが貼ってあり、店の入り口と反対側の壁に設置されたディスプレイからは、見覚えのあるアニメが放送されていた。

 他のメイドはいなかった。他のメイドはおろか従業員もいなかった。バーテンダーも他のご主人様もいなかった。

 メイド喫茶というものはこれが標準で、どこもこんな感じなのだろうか。


「お好きな席にどうぞ!」

 店の扉を閉ざし、席の選択を迫るメイド。私は奥から二番目の席を選び、席につく。

 そして、私が席につくなり、バーカウンターからメニューを持ってくるメイド。

 注意事項、禁止事項から始まり、ドリンク、フードなどの料金説明、メイド指名料は何円だの、五千円ぐらいでバーカウンターを三十分とか貸しきることができるだのなんとか言っていたが、私は最初からドリンク五百円を頼むつもりだったので、そんなことは心の底からどうでもよかった。

 説明が終わり、オーダー。私は炭酸系ドリンクを注文した。

「わかりましたぁ~! 少々お待ちを!」

 店の奥へと下がっていくメイド。取り残された私。

 私は店内の様子を伺う。

 入り口の隣のスペースは椅子が二つ並んでいて、その後ろに人気深夜アニメのぬいぐるみがたくさん並んでいた。

 バーカウンターの奥にはたくさんの酒瓶が並び、天井の赤色照明がそれらを照らしていた。

 店内は白系照明の光で満たされていて、壁の装飾や小物がさらに柔らかさを演出しているが、店内の床は少し汚れていて、小奇麗にまとめられてる店内からは少し浮いた感じがした。

 しかし静かだ。本当に他の人がいない。

 メイドがバーカウンターの奥で立てる物音と、不自然なまでに大きいアニメの音声が空間を満たしているだけだ。こんなのでやっていけているのかこのメイド喫茶は。

 そして、店内を観察し終えた私は、何気なく机上にあったメニューを見る。

 メニューの最初のページを開くと、注意事項が並んでいた。

 「お店では他のお客様の迷惑にならないこと!」

 「メイドさんに触れないこと!」

 「メイドさんが嫌がる話は避けること!」

 ごく当たり前のマナーが羅列されているだけでとくにめぼしいものはなかった。



 次のページを開く。さっき見たメニューだ。

 次のページを開く。そこにはなんと驚くべき内容が書かれていた。

 なんとこのメイド喫茶は入店料で+五百円を徴収する料金制度というのだ。

 つまり、ドリンク五百円を頼んだ私はこの時点で千円を失うことが確定してしまった。

 まさか二倍払うとは思いもしなかった。なんという罠。なんというトラップ。

 だが仕方ない。罠であってもなんであっても、かかった私が悪い。

 たかが二倍程度、授業料が少し高くついたと考えればいいことだ。

 私は次のページをめくる。"一時間に一オーダー"は絶対に頼まなければならないということが書かれている。

 その次を読もうとしたときに、

「はぁい、お待たせしましたぁ」

 メイドがドリンクを運んできた。

 味は普通だった。待たせた時間の割に、正直市販のと変わらない。

 私がドリンクを飲みながら、メイドから振られる会話(主に私のプライベートについて)に適当に答えていた。残念ながら私は女性と話すのが苦手だ。だから、当たり障りがなく何かが始まりも広がりもしない、ごく普通以下の返答しかできなかった。

 そんな中、唐突にメイドが、

「私も何か飲んでいいですかぁ?」

 と、一言。

 私の頭の中は「???」で満たされた。

 私の許可がいるのか? 勝手に飲めばいいないか。むしろ仕事中の飲食は店側に聞くべきだ。私はオーナーではない。

 私はメイド喫茶に初めてきた冴えない"ご主人様"だ。このメイド風に言うならば"お兄ちゃん"だ。

 なので私は、

「どうぞ、ご自由に」

 と言った。メイドはすぐに再びバーカウンターの奥へと向かって行った。

 なんだったんださっきのは。そして、私はメニューを開き、続きを見る。

 一時間一オーダーの下にメイドとお話三千円とか、メイドと相席千円とか、ゲームはいくらだとかが書いてあった。

 その隣のページは『メイドとお店でカラオケ☆ なんと一時間五千円~』みたいなことが書いてあった。

 次を開いても似たような内容だった。"肩たたき"はいくらだとか、"あーん"はいくらだとか、"チェキは一枚千円"だとかだった。

 その右のページは左のページをすべて頼み放題で三十分で価格一万五千円とかいうセットが書いてあった。

 その下には、小さく、「メイドさんにフードやドリンクをあげる場合は表記価格の二倍となります。」と書いてあった。




   ま    さ    か





 馬鹿な。ちょっとまて。本当ですか。マジですか。嘘だろオイ。

 今彼女聞いてきたのこれですか。おかしいとは思っていたのだ。

 なんで聞いてきたのか。ようやくわかった気がする。

 この料金、まさか私が払うのか……?

 いやまて、ちょっと待て。待って。ちょっと待って欲しい。

 まさか、まさかこれを請求する気ではあるまい。

 なぜなら私は事前説明は一切受けていない。

 今ここで見たのが初見だ。支払の義務などない。なので、あのメイドのドリンクは私の料金には含まれないはずだ。

 そして、メイドが帰ってきた。


 その手には大きめのマグカップを持ってある。

「色々ジュースをミックスしたんですよぉ~」

 俺の前に座るなり、

「これおいしいんですよぉ、はいあーん」

 そうのたまいながら、意味不明な行動をするメイド。

 ああ、ダメだ。ダメだこれ。ダメなやつだこれ。完全に罠だこれ。

 まちがいなくこれ受け取ったら料金上乗せコースだこれ。

 見て、ほら、この満面の笑み。すげぇ。すげぇ心の底から微笑んでるよこの人。

「い、いやいやいや、いいですいいです。間に合っています。私にはこれがあるので」

 私は全身全霊、全力で拒否。

 それを受け、頬をぷくりとふくらませながら、しぶしぶといった感じで引くメイド。うわぁ…、あざとい。実にあざとい。

 そして、なんか家が貧乏でお金がないとか、病気の母がなんとかとかの身の上話をしてくるメイド。

 しかしそんな話はそれ以上耳に入ってこない。

 なぜなら、先ほどの行動でわかったからだ。

 このメイドの分まで私が払うことになるということが。

 私が千円以上払うことはもはや確定している。

 それはいくらになるかはわからない。このメイドが飲んでるものが一体元はいくらなのか、検討がつかない。

 だが、このドリンクはさすがに加算されないはずだよな。

 ていうか今気づいたけれど、よく見たらちゃっかり相席してる。これでも追加料金か? いやいやさすがにそれはないか。ないよな。ないよね。ないと信じたい。

 なんにせよ、これ以上の長居はダメだ。この話だけでも料金が取られている可能性が高い。

 そもそも、ドリンクを持ってくるのが遅かったのも、時間超過による料金を私から巧妙に奪い取るためと推定できる。

 なんという罠だ。これではメイド喫茶ではなく冥土喫茶ではないか。


 そしてそんな思考を巡らせる私をよそにメイドは

「カラオケどう? 私自身あるんだよぉ、あとご主人様の歌も聞きたいなぁ~」

 と催促する。

 色々つっこみを入れたいがちょっと待て。おい、"お兄ちゃん"はどうした小娘。

「私は今日、五千円しか持ってきていないので勘弁してください」

 素直に所持金を言い、拒否。

 本当に五千円、それと小銭を少々しか持ってきていないのだ。通帳やカードは落とさないため、何より無駄遣いしないために家の貴重品入れに放り込んである。

 なので、これ以上課金行為をされると、帰りの電車賃がなくなる恐れが出てくる。

 私はもう家へ帰るぞ! こんな恐ろしいところに居られるか!

 被害額は甘く見て二千円ぐらいだろうと脳内にお花畑が広がっているとしか思えないような低い予想をし、私は一気飲みを強要されたわけでもないのにドリンクを豪快に飲み干す。炭酸がきつくてちょっと苦しい。

 だが、これ以上ここには居られない。なのでとっととお会計をしようと立ち上がる。


「えー! ひどーい!」

 メイドが鼻にかけた声でほざく。だからどこから出しているのだそのあざとい声は。

 そして、

「あ、ドリンクおかわりしていい~? 作りすぎちゃったの」

 とかなんとか聞いてくる。んなもん後で飲めばいいだろうが。

 私がすかさず、

「先にお会計、お願いしていいですか?」

 と聞くと、メイドはまた頬を膨らませ、

「もっと一緒にいたいのに~」

 とかヤバイことを言いながらレジへと向かう。


「はい、ではお会計は五千円ですぅ~」


 なん…だと…? 

 見た途端、世界の時が止まった。なんと、請求額は絶望の五千円。

 当初の十倍だ。どういうことだ。

 五百円と聞いてきたのにまさかの十倍。

 話は聞いていない。そんな話は一切聞いていない。

 知ったのは店内に入り、オーダーした後である。

 これはひどいぼったくりを見た。

 五千円、現在の所持金のおよそ九.九割だ。

 なぜこうもきっちり請求してくるのだ。

 悪質すぎる。悪徳すぎる。いいのかこれは完全にクロではないのか。こんなものはとても合法的とは思えない。

 だが、メイドの話によると、このメイド喫茶は少なくとも彼女が在籍している三年間以上は続いているらしい。

 あーダメだこれ。地元警察無能なパターンだこれ。

 もうその場で、意義を申し立てようかとも思ったがメイドは、

「とっとと払えやこのカス」

 とでも言いたげな無表情で、無言の圧力をかけてくる。

 さっきまでの可愛い表情はどうしたの? さっきまでの可愛いお顔が見たいぞ私は!

 そして私は財布の中を独占する五千円札を一瞥、そしてメイドを顔をもう一度見る。

 うわ、めっちゃ見てる。メイドめっちゃ見てる。

 しかもやっぱり冷たい目だ。すごい冷たい目してる。

 なんて眼力だ。正直これは怖い。泣きそう。いや、さっき一気飲みした炭酸も相まってもはや吐きそう。

 くそ、なんということだ。しかし、しかし、こんなところでグズグズしていると追加料金が発生しかねない。

 ネタでもなんでも、冗談でもなんでもなく、この店は平気でそんなえげつない行為をいともたやすく当たり前のように行うことができるオーラを醸し出している。

 もはや打つ手なし。私の強く言えない性格がこの悲劇を生んだというのか……。



 私は泣く泣く五千円を支払う。

 その瞬間、同時に私の徒歩帰宅コースが決定した。



「いってらっしゃいませぇ~ご主人様ぁ!」

 メイドが、いや冥界の土神、略して冥土が、楽しそうに手を振る。

 雨に打たれる私を見送る冥土。お帰りになられるご主人様への傘のサービスとかやってないの? ねえ?

 そんな気の利いたサービスはどうやら無いようで、

「また来てねぇ~!」

 そんなことを言い、尚も楽しそうに手を振り続ける。

 その言葉は私には悪魔が『ごちそうさまでした』と言ってるようにしか聞こえない。

 その手は大げさに振られているものの、心の中では手を合わせているに違いない。




 私は雨に打たれながら徒歩で帰路につく。

 その日の気温はとても低く、雨に打たれているのもあって、私の身体はただただ冷えるばかりだった。まるで私の懐のようだな! ワハハ! …とても笑えない。

 電車賃? そんなものはない。今しがた悪魔に捧げたばかりだ。

 幸いこの電気街は自宅からはそこまで離れておらず、徒歩でも一時間と少し程度で帰宅できた。


 だが、次の日に風邪を引いたのは言うまでもない。

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