桃太郎
川沿いの集落に住んでいた老夫婦。川で拾った仙桃を食べて若返る。
妖と呼ばれ集落から追い出され、はずれのあばら家に住まう。
見張りを付けられ集落には戻れなくなったが、ある一家だけがこっそりと夫婦を助けていた。
集落ではかねてから海を渡り来る鬼による被害が相次いでいた。
若返った夫婦は子を授かり、桃太郎と名付けた。
それから数年。
夫婦を助けていた一家のひとり娘が殺された。
集落の長の子が「桃太郎の仕業だ」と騒ぎ立て、疑念の目を向けられる。
しかし見張りの者が桃太郎の潔白を証言する。
では鬼の仕業だと長の子はまた騒ぎ、妖には妖をと桃太郎に白羽の矢が立つ。
殺された娘が好きだった桃太郎だが、鬼に挑む勇気はない。
拒否するが、ではやはりお前ではないか、見張りもグルではないかと疑われる。
潔白を証言してくれた見張りの人に申し訳ない。
あの子を殺した鬼も許せない。
桃太郎は出立を決意する。
共に向かう友はいない。
与えられたのは一振りの刀と母が拵えたきび団子だけ。
それでも桃太郎は旅に出る。
それを見兼ねた仏が三匹の鳥獣を遣わせた。
桃太郎は鳥獣達を連れ、鬼が島を目指す。
真夜中、桃太郎達は鬼が島に辿り着いた。
洞窟の中から声が聞こえ、灯りが見える。鬼達は酒を飲み宴を開いていた。
桃太郎は驚愕した。鬼達は人と同じ言葉で話していた。
鋭いツノを生やし、巨大な鬼達を見て桃太郎は怯む。
人の言葉を話す妖というなら自分だって同じようなものだ。
酔っている今ならこれ以上の機会はない。
しかし、本当に殺めるべきなのか。
命ある者を殺めていいのか。刀を握る手が震える。桃太郎は葛藤する。
鬼を殺さなければ自分への疑いも晴れない。
何より、死んだあの子が報われない。
桃太郎は心を鬼にした。鳥獣達と一気呵成、酔った鬼達を襲撃した。
襲撃は成功し、桃太郎は刀を突きつけ最後の鬼に尋ねる。
どうしてあの子を殺した。
ツノの折れた鬼は「知らない」と答えた。
酒や食料を盗む事はあったが、人を殺した事はないと言った。
叫び、桃太郎は最後の鬼を斬った。
集落に戻った明け方、長に鬼の首を見せた。
長は喜び、謝罪し、家族も集落で暮らしていいと言った。
しかし長の子はそれに異を唱えた。
桃太郎は鬼を殺すほどの恐ろしい妖であると。
夫婦も桃太郎も、殺してしまうべきであると。
心中の鬼が騒ぐのを鎮め、桃太郎は長の子に尋ねる。
鬼はあの子を殺していないと言った。
では一体、誰があの子を殺したのか。
鎮め切れない心中の鬼、その気迫に長の子は震え、白状した。
結婚しろと言ったのに、あの女は桃太郎が好きだと言った。
だから殺した。俺は長になる男なのに、聞かないあの女が悪いのだ。
お前も鬼に殺されていれば。
桃太郎は長の子を斬り、二度と集落に戻る事はなかった。
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