第3話
町入り口の大きな門を抜け入ると、レンガ造りの民家が並び、均等に橙色の明かりが灯る街灯が並ぶ町だ。悪魔が居るとあってか、町の中は陰湿で暗い雰囲気があるが、街灯の橙色が温かさを感じる。それあってか、町の人も町の雰囲気に飲まれず暖かく穏やかな人たちだ。
町に入ってすぐの大きく広がる、噴水のある広場から周りを見渡してエクスはそう感じたが、町の至る所に巡回兵がいる。
その兵士が重苦しい空気を運んでいるのか、町の人は顔を下げ誰とも目を合わせない様にしている人もいくらかいる。
「兵士がいっぱい居るね」
「…そうね。そのせいで町の人も少し暗くなっちゃってね」
愁いを帯びた様な声で言うクリムだが、表情は何処も寂しげな感じは無く相も変わらない無表情だった。
そのちぐはぐな感じに違和感を感じた、エクスは尋ねていた。
「寂しい?」
「うん、寂しい。前の町の方が昼も夜もキラキラと明るかったから」
「だったら、もっと寂しって表情だしていいじゃなの」
レイナが優しく言うと、クリムは首を横に振って少し下を向く。
「私の中にいる悪魔のせいでココロが少し壊れてちゃってね。それで感情の出し方が分からなくなったの」
そんな事を聞いて、エクスは無粋な質問をしてしまったと思い咄嗟に謝罪の言葉が出た。
「ゴメン。イヤな事きいちゃって」
「全然いいよ。それも私の運命だからね」
この想区の主人公である彼女の運命の書に書かれている事は、辛く大変な事が書かれている様だ。だけれど、その事に負けない彼女は強い人だ。
「それにしても、兵士の数が多すぎるんじゃないか。こんなに町に兵士がいて、何かあるのか?」
町を見渡すタオが言うが、兵士の数は普通に考えれば異常と言うほど数が多い。王様やお姫様が何かイベントを催す為の警備なら納得のできる数だが、この町でそのような高貴な身分な者は存在していない。
だからこそ、何もない町で至る所に兵士がいる現状に疑いを持ってしまう。カオステラーが関わっているのではないかと、カオステラーに操られているのではないのかと。
「今は、特別警戒中なの。悪魔の被害が多く出てるから」
「そんな時に、私たちがこの町に来て大丈夫なのかしら。悪魔の被害に巻き込まれたりして、カオステラーどころじゃなくなるのは」
「…どんな悪魔の被害が」
レイナが悪魔の被害と言うのに懸念を抱くと、シェインがどんなことが起きているのかクリムに訊く。
「今起きているのは人が消えて悪魔、ヴィランが現れてるって事が大半ね」
「人が消えて、ヴィランが…」
さっき言った様にうまく感情が表情に出てないが、声はトーンが低く悲しげ言う。何か思う事があるのかエクスは繰り返し小さく呟いた。
「で、大半ということはもう一つ何かあるんだろ」
「そうね。もう一つは、私の運命の書に因るものだから被害が及ぶことはないはず。人が消えている方が、あなた達の探してるカオステラーの仕業だと思う。人が消えるということは書かれていないからね」
人が消えることが彼女の運命の書に書かれていないと言うのは十中八九カオステラーの仕業とエクス達は思う。
ここで見つけたカオステラーの手がかりだけど、まだ誰に憑依しているかはわからない。だがカオステラーは悪魔の仕業と見せかけて、この想区の人たちの運命の書を書き換えているという事だけは分かった。
そんな中エクスはふと質問をしていた。
「クリムは赤が集まったらどうなるの?」
赤が集まれば、クリムの中の悪魔が出ていきクリムのココロが戻って、上手く感情が出せる様になるのかなとエクスは考えていた。
「私は、赤が集まったら教会へ行くの。そこで私を救ってくれる私だけの王子様に出会うの」
思っていたのとは違う答えだったが、何度も出て来るクリムの王子様。きっとその人がクリムが言っている様に救って、ココロも戻るのだろうとエクスは信じた。
エクスも質問の意図を知らないでいるレイナたちは、主役である彼女のこの語の運命がどの様なものなのか聞いているのだと思っていた。
クリムもエクスがそんな事を考えてくれているとも知らず、普通に答え、町の奥に建っている教会を指さし言う。
「だったら、教会の方に行ってみるのがいいわね」
「そこにカオステラーがいる可能性がありそうだな」
「だったら、案内するね」
クリムの案内で教会へと向かおうとすると、兵士が剣を抜き襲い掛かってきた。その中には、鎧を纏った騎士のような見た目のナイトヴィランも混じっていた。
「ちっ、ヴィランどもが出やがったか」
タオが吐き捨てるように言うと、兵士とナイトヴィランが集まってきた。
「この数を相手にするのはヤバいんじゃないか」
「この町のほとんどの兵士とヴィランが集まってきてるみたいです」
「クリム、教会へ行くほかの道はない」
ヴィランの数だけあって戦力的に、このまま進むのはレイナは危険だと考えた。
「あるけど、遠回りになるわ」
「それでもいいわ。この数はさすがにマズいわ」
「だったら道を切り開くね」
そう言うと、クリムは剣を抜き兵士とヴィランの群れの中に向かっていった。その後を、エクス達も栞を手にして追って行った。
ヴィランをいくらか倒し、細い脇道に入るとひときわ大きい鎧のヴィラン――メガヴィランのメガ・ゴーレムが居た。
エクス達は、メガヴィランを退けると兵士や他のヴィランの姿は見えなくなっていた。
脇道で一息つくと、レイナとタオが言う。
「教会にカオステラーがいる可能性が高そうね」
「教会への道にあれだけのヴィランがいるからな。この想区のほとんどの奴が、カオステラーによって書き換えられるんじゃないか」
「タオの言う通り、ほとんどの人が書き換えられている可能性が高いわ。早くしないとこの想区が消滅してしまう」
想区が消えるという言葉でクリムは一瞬だけビクッンと驚いたが、後は平然としていた。
「だったら、早く教会へと行かないとね」
「クリム、大丈夫?」
どこかクリムが無理して平然を保とうとしているように見えたエクスは、優しく声を掛ける。先のヴィランとの戦いも先陣を切り、道を切ら開いてくれた。
「ん?私は、全然大丈夫だよ」
気にし過ぎなのか、クリムは明るい声色で表情一つ変えず相も変わらず平然としている。そんなクリムが進もうと足を踏み出すと、体のバランスを崩し倒れそうになる。
「!―――あっ」
倒れる前にエクスが手を伸ばしクリムの手を取ると、彼女はバランスを取り戻した。気にかけていただけあって、クリムが倒れる前にとっさに手を伸ばし支える事ができた。
「やっぱり、無理してない?」
エクスが聞くと、クリムはどこかいつもと違う無表情でエクスの手を振り払った。その後に何が起きたのか分からないのか、振り払った手を見てボーっとしていた。
「―――。」
「―――。あなたは誰ですか?」
クリムの様子を見てシェインが睨み付ける様に、よく通る声で言う。そのシェインの声でハッとクリムは我に返る。
「ん?私は私だよ。さっきはありがとね。何かに躓いたのかな?」
そう言うと、クリムは先に歩いて行った。
クリムの後姿を見ながらエクスは先程のシェインの言葉がどういうことなのか訊いていた。
「シェイン、さっきのはどういう事?」
「一瞬、別の誰かの気配を感じたです」
「あぁ、確かにあいつじゃない気配が一瞬だけした」
シェインのいう事にタオも頷きながら言う。その二人の言葉にもしかしてと、過る物を感じた。
「それってカオステラー?」
「そうかもしれない。でも、まだ分からないわ。彼女の中に居ると言う悪魔かもしれない。だから、カオステラーが姿を現すまでは彼女に着いて行くしかないわ」
「だからって、気を抜くなよ坊主。悪魔って言うのも性質が悪い者らしいからヴィランと共に襲ってくるかもしれないからな」
エクスはタオに言われたことに「うん」と頷くと、クリムを見失わない様に後を付いて行った。
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