第2話

「君はこんなところで何をしているの?」

エクスは紅い髪の少女に尋ねると彼女は簡潔に答えを返す。

「赤を集めていたの…。それにしてもあなた達見ない顔だけど、どちら様?」

「僕はエクス」

と、エクスが言うと続く様にレイナ達が名前を述べる。

「オレはタオファミリー、大将のタオだ」

「シェインです。どうも」

「私はレイナよ。私たち旅をして来て、まだ此処に着いたばかりでここがどこだか教えてくれる?」

「ええ、構わないわ。私はクリム。よろしくね」

レイナがこの想区の事について訊こうと、クリムに訊くと彼女は快く了承してくれた。

「それにしても着いたばかりでこの霧には困ったでしょう」

「うん。前が全然見えないからね。どっちに行けばいいとか全く分からないし」

「だったら、町まで送りましょうか?」

「助かるぜ。お嬢の案内でこの霧を抜けようとしてたら、余計迷っていたところだから」

「よけいに迷ったのは私のせいじゃなく、ヴィランのせいでしょうが」

レイナは声を上げて、迷ったのはヴィランのせいだと主張をする。そんな、レイナとタオのやり取りが面白いのか彼女は少しだけぎこちなくニコッと笑った。

「この霧の中を進むのは地元の人でも迷って戻れなくなることがあるから」

「そんな中で大丈夫?霧が晴れるのを待った方がよくない」

「大丈夫よ。私は迷わないから、絶対に」

絶対と言う彼女の自信は何処から出て来るのか分からないが、この霧を抜けるには彼女に頼るしか他はないため、彼女の持つランタンの小さな明かりと道案内で霧の中を進む。

霧の森の中を歩きながら彼女はこの想区の事について話してくれた。

「じゃあ、この想区の主人公は君なの」

「そうね…、たぶん私ね。だけど、最近『運命の書』に書かれている事と違う事が起きてるの。」

クリムが言う『運命の書』とは違う出来事と言うのは、カオステラーが関わっている事だとエクス達は思った。

「毎日霧は続くし、森に悪魔まで出る様になって。人の赤を集めれなくなって、代わりに悪魔の赤をと思ったけど…」

「悪魔ってヴィランのこと」

クリムが悪魔と言うのはきっとヴィランのことだろうと思ったエクスのボソっと呟くのを、クリムは聞き逃さなかった。

「ヴィラン?あれはそう言う悪魔なの」

「ヴィランは悪魔とは違う存在よ」

あれは『運命の書』を書き換えられた人達。混沌に導くカオステラーの使徒と、なんて言える訳も無く彼女の言う悪魔とは別の存在とだけ告げる。

「そう、悪魔とは違う存在なのね」

「クリムの言う悪魔ってどんな存在なの?」

ヴィランと悪魔の違いが分かったクリムに、この想区に居る悪魔とは何かをエクスは尋ねていた。

クリムは少し考えると言葉を濁すように悪魔の事について話した。

「悪魔はヴィランの様に黒い化け物のような姿をしているの。それぞれに意思もあるから、大抵はちょっかいを掛けてくる程度なんだけどね。たまに人の中に入り込んで取返しのつかない事をしてしまう悪魔もいるの」

「この想区の厄介者ってところか。もし出てきても退治していいんだろ」

「ええ、構わないわ。私も知らないでヴィランを倒して来ていたからね」

「そう言っている間に、お出ましです」

草木の茂みから先ほども襲って来たブギーヴィランと、獣の姿をしたビーストヴィランが共に飛び出してきた。

シェインとタオがいち早く飛び出してきたヴィラン達に向かって行く。

「では、私も」

クリムの抜刀し、ヴィランへと向かって行った。その後ろを続く様にエクス、レイナも栞を手にしてヴィランを迎え撃つ。



「はー。はー。霧の中戦うのって中々しんどいわ。もう懲り懲りね、早いとこ抜けられないかしら」

レイナは息を切らしていた。

「慣れていないと、敵が何処に居るのか分からないから注意が必要なのよね」

「…気配はもうないから、安全だと思いますよ。姉御」

「それにしても、また霧の中で戦って何処に居るのか、ますます分からなくなってくるぜ」

「クリムは、道分かっているの?」

これでクリムまで道が分からないと言ったら霧の森の中で迷子になる一行だが、クリムは無表情でいつも通りと言ったように平然としている。

「大丈夫だよ。もうすぐ森を抜けられるから」

そう言うと、霧は薄くなり靄となり少し晴れた。その先に見えるのは小さな町とそこへ続く道がある。

クリムのいう事を信じていなかった訳じゃないが、迷うことなく本当に霧の中から出られるとは思っていなかったため、エクスは驚きを隠せないでいた。

「本当に、霧の中から出れた…」

「ね。私の言った通り」

そう言う彼女は何処か誇らしげだが、表情は硬く無表情だった。

レイナだったら、自慢げな表情をしているであろうに。

「町に着いたら、どうするの?」

「ヴィランを倒しに行くの」

「だったら、私にも手伝わさせて」

クリムは強く言う。意志のこもった強い、強い一言。

その真っ直ぐな言葉にエクスは「えっ…」と思い。なにより、

「君をこれ以上巻き込むのは危ないし――」

危険だと、言おうとするとタオが遮って言う。

「坊主、何か思いがあって頼んでるだし覚悟も決まっているみたいだしいいんじゃないか」

「それにこの想区については彼女の方が詳しんだし、カオステラーが居るような場所に心当たりがあるかもしれないわ」

レイナの言う通り、『主役』であるクリムと関係がある誰かにカオステラーが憑依している可能性は高い。

それにタオが言う様に、クリムには強い意志をぶつける様に言いエクス達を見ている。

「ここまで巻き込まれて、って言うのは今更はないの。それに、私の運命に手を出した仕返しをやらないとね」

「仕返し?」

「そう。赤が集まらないと、私を救ってくれる私だけの王子様が来てくれないの。私の中に居る悪魔を追い出して、救ってくれる王子様が来てくれないからね」

王子様と言うクリムは無表情だが、何処か秘めた想いを募らせている様だった。

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