悪魔に愛された少女

@shian-file

第1話

 あるところに、綺麗な紅い髪を持つ少女が居ました。

 少女の紅い髪は太陽の光で宝石の様にキラキラとして人々を魅了して、また彼女の愛らしい笑顔は人々を引き付け、誰からも愛されていました。

 そして、月の光からはこの町に古くから住む魔の存在が大好きな赤の様に輝き魅了し、黒い魔の者からも愛されていました。

 そのため少女の周りでは不吉な事が多々起こりました。それでも少女は笑顔を絶やさず明るく毎日幸せに暮らしていました。


少女が成長するにつれ、長く伸びた紅い髪はますます綺麗になって人も悪魔も、少女をますます魅了し、愛されました。

悪魔の思う気持ちからなのか、少女の周りの不吉な出来事は過度を増していきました。


 ある日、黒い小さな悪魔の者が少女に構って欲しくて悪戯をしました。

 その悪戯は酷く残酷なものでした。少女の両親を遠い場所へと連れて行ってしまいました。

 少女は泣き、涙が枯れるほど泣きました。

その後少女は小さな悪魔に「かえして」と言いました。

 悪魔は一本の剣と小瓶を一つ少女に渡し、「そこに人が流す赤が溜まる時に」と言い、傷ついた少女の心の中に巣くいました。

 その日から少女の顔から笑顔は無くなり、町は暗く時折霧が立ち込める様になりました。

 人に見つからない様に霧が深く立ち込める日には、少女は剣を手に悪魔のために赤を集めました。

 どれだけ、赤を注いでも溜まらない小瓶の中にひたすらに。

 綺麗な紅い髪が赤に染まる事になろうとも。いずれ救われることを思い、赤く、真っ赤に染まっていくのでした。



―――。


 どれほど歩いただろうか分からなくなるくらい、深い霧の中をエクス達は彷徨っていた。

 想区と想区の間には『沈黙の霧』と呼ばれる霧が発生している。その霧の中をレイナが感じるカオステラーの気配を頼りに進んでいた。

 だがどれだけ歩いても霧は晴れる気配はない。完全に彷徨ってしまったのかと不安が過るなか、タオがしびれを切らしたのかレイナに言う。

 「お嬢。まだ着かねぇのか」

 「もう、想区には着いているわ」

 「じゃあ、この霧は『沈黙の霧』じゃなくて、普通の霧って事」

 「そういうことになりますね」

 エクスは先の見えない霧の中を目を凝らしてみるが、真っ白で何も見えなかった。もしこの視界の悪いなかでヴィランにでも出くわしたら分が悪い。

 「もしここでヴィランに襲われたら、一たまりも無いわね」

 エクスも思っていた事をレイナが言うと、「そうだね…」とエクスは頷いて言う。

 「出来るだけ離れないで、早いとここの霧の中を抜けましょう」

 「霧の中ではぐれると厄介だしな」

 「戦っているうちはぐれる場合も在り得ますから。ヴィランに出くわしても深追いは禁物です」

 戦闘の心得と言わんばかりか、シェインは注意する様に一言アドバイスを言う。

 「で、感じの方向だけどどっち行けばこの霧を抜けれるんだ」

 「そう言えば、どっちに行けばいいんだろう」

 エクス達は、まだ着いたばかりでこの想区の事を知らない。故に霧深い今彼らが何処に居るかも分からないでいた。

 町から少し離れた所なのか、町から遠いところに居るのかすら見当が付かないでいた。

 そんな中、レイナが指を指して自信満々に言う。

 「きっと、こっちです。さあ、行きましょう」

 そうして、レイナは先へ一人で進んで行く。レイナに置いて行かれるわけも行かず、エクス達は一つ大きなため息を落としながら見失わない様に着いて行く。

 方向音痴であるレイナが決めた道を進むのだ。エクス達は何処に行く事になるのやら分からぬまま付いていく事しか出来なかった。

 真っ直ぐに歩いて行く道のりは草木が茂り、掻き分ける様にして前へと進んで行く。草木の茂りようから森の中に入った事は解るが、一面の白い霧に加えて木々にも視界が遮られ、益々視界が悪くなった。

 レイナはどうしようと言う様に、額から頬に冷や汗が一筋流れていく。

 「レイナこの道で本当に大丈夫なの?」

 「だ、大丈夫です。真っ直ぐに進んでいればいずれは…」

 「む……」

 一本の木を見てシェインが顔をしかめた。それに気付いたタオがシェインの横に立ち、シェインが見ている木を同じように見た。

 その木は幹に一本線の切り傷が付けられているだけで、ごく当たり前の普通の木だ。

 「どうしたんだ、シェイン。この木に何かあるのか?」

 「この木の傷。さっきシェイン見ました」

 「…ということは、戻って来たのか。同じ所をぐるぐると歩いているって事か」

 「そんなことないわ。だって真っ直ぐ歩いているのだから」

 レイナは進んできた道に間違えは無いと、自信に満ちて堂々と言う。

 「でもこの霧じゃあ、方向感覚も分からなくなって本当に真っ直ぐ進んでいるのか…」

 「そうだぜ、お嬢。坊主の言う通り俺たちは真っ直ぐ進んでいるつもりでも、真っ直ぐ進んでいないかもしれないんだ。無暗に進むのは辞めた方がいいと思うけどな」

 タオに言われ、解り易くムッとした表情で声を張り上げる。

 「じゃあ、ここでどうするって言うのよ。霧が晴れるまで待つの。リーダーである私が、大丈夫って言ってるんだから」

 「いいや、ファミリーの大将であるオレの言う通りに――」

 いつもの如くと言わんばかりに、レイナとタオがどっちがリーダーかと言い争いを始めた。

 見慣れたこの光景にエクスは何も言わずいると、シェインが臨戦態勢をとる。

 「シェイン?」

 「…何か声が聞こえる」

 「僕たち以外の声?」

 ―――クル!クル!クルルルルアアア

 茂みから黒く頭に炎が灯っている様なブギーヴィランが現れた。

 エクスは『導きの栞』を手にしてヒーローの魂とコネクトすると、言い争っていたレイナたちもヴィランに気づいて、栞を手にしてそれぞれヒーローの魂とコネクトする。



 「……ここどこ?」

 「…さあな」

 ヴィランを退けたエクスの素朴な疑問に、タオは簡潔に答えた。

 ヴィランと戦っているうちにエクス達は、いつの間にか深々と森の奥へと迷い込んでしまっていた。

 幸いな事は、誰ともはぐれないで皆が傍に居ることくらいだ。

 「今、誰かの声が聞こえませんでした?」

 「おいおい、声ってまたヴィランか。勘弁だぜ」

 声が聞こえると耳を澄ますのに対して、さっきの様にヴィランが出て来るんじゃないかとエクスとタオは栞を手にして気を抜けないでいた。

 「この声、さっきシェインが聞いた声です。…近いですね」

 シェインが何処からか聞こえる声が分かったのか「こっちです」と一言言うと、先に走り出した。

 シェインの後を追うと、小さな明かりが見えて来た。

 その明かりに照らされる二つの影が見えた。一つはどうやらヴィランの影のようだ。

 「ヴィランに襲われてる!助けないと」

 エクス達は、もう一人の影の主がヴィランに襲われる前にと急いで飛び出して行った。

 飛び出した先には、綺麗な紅い髪を持つ少女が剣を片手にヴィランと戦っていた。

 「さあ、あなたの赤を私に下さい」

 エクス達が入る隙も無く、彼女はそう言ってヴィランを颯爽と倒した。

 「大丈夫ですか」

 エクスが声をかけその後ろにレイナたちも続くと、紅い髪の彼女はエクス達に剣を向ける。

 いきなり向けられる剣にエクスは驚き、体をビクッとして立ち止まる。

 「今日の赤はあなた達が下さるのかしら?さっきの悪魔は赤をくれなかったから」

 「えっ…。赤って何の事」

 「…でも、あなた達は私の『運命の書』に書かれている人とは違うわね。次に赤を下さると書かれている人と違いますからね」

 彼女はエクス達をまじまじと見つめ、剣を未だに突き付けたまま一人ぼそぼそと言う。

 「あの、剣を下ろしてくれませんか」

「…!ごめんなさい」

彼女は剣を突き立てていた事を忘れていたのか、ハッとして剣を下ろして謝罪を述べ軽く頭を下げる。

「いきなり剣を突き付けるなんて、危ないじゃいか」

「そうだけど、彼女も謝っているのだから許してあげたら。ヴィランに襲われていたのだから、急に飛び出してきた私たちがヴィランの仲間とでも思ったのかもしれないでしょ」

「…いきなりの飛び出しは、敵と間違われてもおかしくは無いですから」

タオの言い分に味方すると思ったが、シェインはレイナの見方をするような言い方をしてジッとエクスを見つめる。

「もしかして、僕が飛び出したのが悪かったの!」


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