風花 ~舞い散るは きみへの想い~
汐凪 霖 (しおなぎ ながめ)
プロローグ
あれは、いつだっただろう。
運命の日。
たぶん、それは、ぼくの家が建ったとき。その家に引っ越した日だ。
◇ ◆ ◇
ぼくの家の隣は、町内で一番の立派なお屋敷だ。高い鉄柵に囲まれ、大きな門柱が威容を放ち、中を覗こうとする者を圧する。
茶色い屋根に飾り柱、白い壁の大きなお屋敷は、どこかの避暑地のお洒落なホテルのような外観をしている。
庭は広々と、緑が多く、ぼくの家と同じくらいの規模の別棟も建っており、そこからは毎日のように美しい音楽が漏れ聴こえる。
旧折橋邸。
近所の家では、有名なお屋敷だ。
大正時代、昔からの地主が建てたという。素封家で音楽好きだった当主が建てた、音楽堂つきのお屋敷。
その家名は現在では跡絶えてしまったが、お屋敷には、いまでも音楽家の一家が住まっている。
◇ ◆ ◇
ぼくの家が建ったのは、10年ほど前。
ぼくが4歳になる少し前のことだ。
引越しの挨拶にお屋敷を訪れたとき、ぼくは彼女に初めて出逢った。
それが運命の出逢いだと思うようになって、もう、随分経つ。
だけど、彼女にとっては運命ではなかった。
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