第71話 I confessed  ワタシの告白

 奈美はニコリと笑った。

 僕も釣られて微笑んで…軽く頭を下げた。


 奈美は僕に近づいて

「やっぱり…アナタでしたね、そんな気がしてんたんです…」

「スイマセン…本当は、アナタを見守るだけにしようと思ってたんですが…僕は、アナタに……」

「言わないで!」

 奈美が僕の言葉を遮った。

「謝らないでください…」

 奈美は辛そうに微笑んだ…そして僕の手をそっと握った…。

「冷たい…」

 そう言って、僕の手を自分の頬に当てた。

 奈美が目を閉じ、奈美の涙が手に触れたとき

「ごめんね…」

 それは絞り出すような奈美の声だった。

 謝らなければならないのは、僕だ…。

(ごめん…本当に、奈美の人生を僕が変えてしまった…)

 僕の思いは、言葉にならなかった。

 色々な思い出、感情が頭を、心を駆け巡る…。

 僕は奈美を抱きしめることしか出来なかった。


 どのくらいそうしていただろう…。


 奈美は泣き止むと、涙を拭い、ヘヘッと笑いながら僕に紙袋を差し出した。

 見覚えのある紙袋、僕もクスッと笑い、同じ紙袋を奈美に差し出した。

 コロッケが4個…すでに冷め切っているコロッケ。


「奈美…話さなきゃならないことがあるんだ」

「ふぅん…私の記憶のこと?」

「うん…その前に…知っておいてほしいことがある」


 僕は、冷え切ったコロッケに触れ、目を閉じる。

 手がボヤッと光ると、コロッケは、すぐに湯気をたてる。

「……時計のときと同じ……」

「うん…僕は…触れたものの時間を巻き戻すことが出来る…信じられないかもしれないけど」

 奈美は無言で頷いた。

「人にも使えるんだ…生き物に使うとね、若返る…でも…その代償は……」

「記憶なんだね……」

 奈美が、うつむきながら言った。

「あぁ…僕は、この能力で奈美の刻を戻した…」

 しばらく沈黙が続いた。

「ごめん」

 僕が言う前に奈美が

「ありがとう…治してくれたんだね、私を…」

 僕は、涙を堪えて一言だけ

「ごめん…」

「ううん…辛かったね…ユキ…ごめんね…私、覚えていてあげられなくて…」

「謝るのは僕のほうなんだ…」

 言えていなかったと思う。

 僕は、奈美の胸に顔を埋めて泣いた…。

 奈美は、僕の頭を優しく包んでくれた。


 はじめて…他人の温かさを知った気がした。


 肌寒い夜空の下で、僕らは沢山、話をした。

 舞華さんのこと…琴音さんのことも聞いた。


「繋がってたんだね…私たち」

 奈美が優しく笑う。

 許されたような気がした…実際は、そんなことは無いのだろう…。

 だけど、僕の能力は、奈美を救うためだけにあったような、そんな気がする。


「コロッケ…温めて、ユキ」

 僕はクスリと笑った。

「あぁ…」

 温度を取り戻したコロッケを2人で食べた。

「電子レンジみたいな能力だね」

 奈美が食べながら言う。

 僕は、久しぶりに…本当に久しぶりに声を出して笑った。


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