第21話 recovery

 しばらくは、落ち込んでいた。

 自分が、他人をそういう風に視ているのだと自覚したから…。

 自分はそういう人間じゃないと思っていたから…。


「奈美ちゃん…なんか悩み事?」

 指で乾燥した花びらをグリグリしていた奈美に舞華まいかさんが声を掛けてきた。

「ふぅん…ちょっと…私…嫌な人間だったんです」

「はっ?何があったの?」

「ふぅん…この間………」

 と、風俗嬢に嫌な態度をとってしまったことを話した。

「そうなの…じゃあ…どうしたいの?」

「どうしたい…んだろう…?」

 謝るのは違う気がする…普通に接したいだけ。

 いや、したかっただけ。


「そういう仕事している人だと、なかなか接点ないからね~」

「接点…」

「そう、接点」

「私も…人と接点ない…だから解る気がする…」

「奈美ちゃん、あるじゃない、アタシとか、商店街の人とか」

「病院の先生…看護婦さん」

「そう…ちゃんとあるでしょ」

「ふぅん」


 拙いながらも、少しづつでも、繋がりは出来ているのだ。


 それに…好きになってきている。

 この街が…。


「そういえば、奈美ちゃん、絵は作ってるの?」

「ふぅんん」

 首を横に振る奈美。

「描きたい場所、探してるの」

「そうなんだ」

「難しくて…」

「なにが?」

「う~ん…描きたい場所って…」

「なんで場所なの?」

「なんで…って…なんとなく…住み始めた街だから…かな」

「あのさ…誰かに贈るつもりで作ってみたら?」

「誰か…誰に?」

「それは解らないけど…実際にあげなくてもいいんじゃないかな…ただ、そんな気持ちで、色んなところを視てみたら…なんか描けるんじゃない」


「誰かに…」

 自分のためだと何にも視えない。

 誰かに…その言葉に、ふと、あの青年の顔が過る。

 哀しそうに微笑む、あの白い顔が。


 奈美は…花びらをキャンバスにセメダインで張り付けていく…。

 描き始めた絵は…路地だ。


 あの女性が生きている、あの路地。


 今は…あの路地を形にしたい。


 ことあるごとに、奈美は路地を覗き込むようになった。

 昼夜を問わず、どの時間帯がいいのか…奈美は夕方の路地を描くことにした。


 それは、路地が表情を変える瞬間を感じたから。


 オレンジの光が差し込み…暗い影を落とす路地。

 その瞬間を切り取ってみたかった。


 下手くそでもいい。


 あの女性を想いながら…奈美は黙々と花を張り付けていく。

 いつか…渡せたらいい…いや見てもらうだけでいい。


 それだけで、自分の想いが伝わる様な気がした。

 それは上手く言葉にできない気持ち。

 心は言葉だけでは伝わらないことだってある。

 そう思う。

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