第20話 過ち

 死んだものは生き返らない。

 魂は治せないってことか…。


 あれから僕は、生き物を傷つけなくなった。

 それまでの万能感は薄れ、むしろ、この能力で何が出来て、何が出来ないか?

 それを考えるようになっていた。


 自分では、反省したつもりだったのだろう…。

 でも、向かった先、向いたベクトルは間違っている…間違っていた。


生命いのち』の修復は出来ない。

 RPGのように教会に金を払えば棺桶から飛び起きるようなことはない。

 呪文を唱えれば起き上がる…どこかでそんな能力だと思っていた。


『死から復活』から『HP回復』と頭で置き換えただけ。


 僕は、まだこのときに『0』を理解できていない。

『無』の恐怖を知らない。


 むやみに能力を使うことをしなくなっていた。

 これは特別な能力、安売りしてはいけない能力。

 他人に知れれてはいけない能力。


 そんな自分に酔っているだけ…ピカレスクに憧れる少年の偏った正義感。


 それでも、『生命いのち』の重みは同年代より知っていたように思う。


 僕の両親は、ほとんど家に居ない。


 両親と距離のある子供の家庭というのには、極端に別れている様に思う。

 貧富という絶対の深い溝。

 僕の家は貧しかった。

 父親は地元の工場で働いていた。

 仕事が終わると、1度家に戻り、すぐバイトに行く。

 母親もどこかの会社の事務員、夜はスナックでホステスをやっていたようだ。


 後に知ったのだが、父親は風俗嬢の送迎を行うドライバーをやっていたようだ。


 そんなわけで、僕の家には誰もいない。

 夕方から翌朝まで空家みたいなものだ。

 僕が家庭というものに執着がないのは、この頃の家庭環境にあるように思う。


 両親との思い出はほとんどない。

 進学も、就職も、両親に相談どころか報告さえしたことが無い。


 仮に今、存命だとしても、街ですれ違ってもお互い解らないかもしれない。


 高校を卒業するまでは、その家に居たのだが、その後は知らない。

 あるいは、生きていないかもしれない。


 中学校になると、僕は人前で能力を見せることはしなくなっていた。


 この能力の本来の使い方を僕は学んでいた。


 気づいたんだ。


 この能力は治すのではないと…戻すのだと…知ってしまった。


 この能力は非常に優れた特性をもっていた。

『記憶すら残らない』

 これは優れた副産物だった。


 他人に何をしても、行う前に戻せば記憶は残ってないのだ。

 思春期の男子が何をしたかなんて想像に難しくない。


 この『戻す』ということに気づいたのは、小学校卒業間近の頃だった。

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