第19話  an error

「風俗嬢……」

 サラッと言われただけに余計、奈美には受け止めきれない言葉だった。

 もっと重い言葉だと思っていた。

 自分の耳で聴くことがあるとは思ってなかった言葉。

 それが…その世界は、今、自分がいる場所の後ろに存在しているのだ。


 1本隔てた後ろの路地は、彼女の住まう世界。


 もっと異質な存在だと思っていた…派手に着飾って…贅沢な生活をしている。

 そんな風に思っていた…見かけても近寄りがたい存在だと…。

 少なくても、自分の生活の範囲に存在していないはずの人達。

 それは、芸能人をTVの中で観て知っているような世界の住人。


 それは、あまりにも明け透けに近寄ってきた。

 スッと傍によってきて、サッと離れていった。


 それは、思っていたよりずっと普通で、むしろ地味でした。

 日陰で、うずくまっているわけでもなし、日向で伸びている花でもない。


 そう…店の前で咲いている名も無い花のようで…でも路地に入れば、店で飾られる花のようで…。


 それは…同じ花なのに、他人の手に触れ、他人の視方で価値が変わる。

 それは…奈美が不自然だと首を傾げていたことであり、奈美が嫌うことでもある。


 でも…奈美は

「アハハハ…ソープ嬢よ…あなたには関係の無い場所…」

 その言葉を聞いた瞬間、一歩下ったのだ…離れたといったほうがいい。

「じゃあね…ありがとう」

 そう言われた。


 たぶん…あの人には解ったのだ。

 自分が、あの人に向けた目の変化に気づいたのだと思う。


 あの一瞬…奈美は、汚いモノを視るような目をしたのだと思った。

 そう思ったわけじゃない…。

 ただ一瞬、花を渡した手がビクッと強張っただけ…。

 それに気づかれただけ…。


「私…最低なことしちゃった…」


 最低なコト…それは思うに、自分の中でとがと思う行為を自分で行う事。

『Guilty』とは、他人から『咎』を責められた『罰』。

 では…自分で自分をとがめた場合は?


 Sinは…償えない…なぜなら傷ついているのは相手だけではないから自分も傷つくことがSinというものだ。


「無かったことにしたい日」


 呟く奈美…自身が無くした日を…時間を…彼女は知らない。

 経験してないことを知るはずがない。


 時間を消し去る。

 それはsin…crime…fault…guilt…。

 総じて『罪』。


 そんな日は誰にでも訪れる。

 奈美の今日は、そんな日だっただけ…それだけのこと…。

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