第13話 Doubt

 絵を描くことが好きだった。

 劇のときだって、王子様役のときだって、私はダンボールに絵の具を塗って、草やら雲やらお城だって描いたのだ。


 でも…絵画コンクールで賞をもらったことはない。

 単純に上手いだけなら私のほうが上手に描けているという自負はあった。


 しかし、子供らしい躍動感や題材に派手さは無かったように思う。


 私は、人が選ばないような風景を好んだ。


 海岸で写生していたときも、海ではなく、海に落ちているシーグラスを中心に絵を仕上げた。


 私は、海よりも、シーグラスのほうが、太陽で鈍く輝くシーグラスのほうがキレイだと感じた。


 でも…大将に選ばれるのは当然、海の絵であり、夏を感じさせる絵だった。


 結局、何を見て何の絵を描いたか?が重要なのであり、何に見えたのか?は重要ではない。

 海を見て、海を描けば良かったのだ。

 海を見て、シーグラスに夏を込めてはいけないのだ。


 絵でも、音楽でも、結局は受け手がどう思うか?

 書き手と受け手が同レベルでないと、伝わらないものだ……と偉そうに思いながら、現在バイト中の奈美。

 店番に飽きてきたので、昔を思い出しながら考え事をしている。


 なぜに絵を?


 現在、商店街では美術館の割引チケットを配布中だったりする。

 レジ脇に置かれた、チケットをピラピラさせながら、ふと昔を思い出したのだ。


 あの時に、大賞を獲っていれば…私の人生も違うものになっていた…ような気がする。


「イラストレーターとか♪素敵かも」

 そんな妄想・空想に自分を泳がせて遊んでいると、和菓子屋のおばあちゃんが、みたらし団子を持って遊びに来た。


 舞華まいかさんは配達中だったので、奈美が話し相手になっていたのだが、いつのまにやら、おばあちゃんが奈美の聞き役に回っていた。


 良く笑い、身振り手振りで話し続ける奈美に、おばあちゃんも楽しそうだった。


 舞華まいかさんが帰ってくるころには、みたらし団子は無くなっていた。

 おばあちゃんは舞華まいかさんに用事があって来たのだった、奈美に、みたらし団子を持ってきたわけではなかった…全部食べたが。


「これをね…」

 と言って、おばあちゃんがチケットを差し出す。

「あぁ…無料券ね…そうだった貰えるのよね」

「預かっててね~」


 美術館に展示される花を手掛けたのは舞華まいかさんだ。

 フラワーアレンジメントなんかもやっているのだ。

 趣味と、ちょっとの実益を兼ねて。


「そうだ、奈美ちゃんチケット要らない?」

「ふぅん?」

 みたらし団子を食べちゃって、なんとなくバツが悪いので、とりあえず水やりなんかしてみせていた奈美。

 ちょっと口がとんがったまま、返事をしたので口から空気が漏れてしまった。


 美術館には行ってみたいが…行く相手もいない。

 越してきて、バイトもはじめて、顔見知りは出来た…おもに飲食関係だ、商店街の。


「せっかくだから…行ってきます」


 みたらし団子といい、チケットといい、今日は色々貰った日だった。

 アパートで寝転びながら、チケットを眺める……。

「山下清……って誰?達郎的な人かな?」


 絵は好きだが、特に詳しいということはない奈美。

「行けばわかるか」

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