第11話  Memory

 奈美は、小さいころからよく笑う子供だった。

 誰とでもよくしゃべる。


 コンビニに行ってもレジの人に話しかける。

「777円のになります」

「いいことありますかね…ウフフフ」

 とか

「季節限定とか書いてあるから…買っちゃいますよね」

 なんて具合で、よく知らない人に話しかける。


 そういう面では、接客業には向いているといえる。


「うん」

 と発声すると…

「ふぅん」

 と聞こえる、口が少し開いていることが多いようだ。

 上の前歯2本がちょっと大きいのだ。

 どことなくリスのような顔をしている。

 そのせいか、鼻から空気が抜けるような話し方をする。


 バイトも、少し慣れてきた頃、オーナーの舞華まいかさんに笑われたことがある。

 返事が独特なのだ。

 話し好きなのだが…本を読まないせいか、言葉をよく知らない。

 話したいことが多すぎて、よく会話が飛ぶ。

 目に止まったものを口にする。


 感情豊かというか表情豊かだ。

 商店街でも、ちょっと変わった娘で、すぐ溶け込んだようだ。

 不器用ながら、一生懸命に花を世話したり、レジを打ったり、時には簡単なラッピングにもチャレンジしている。

 その独特なカラーセレクトは、よくいえば、個性だ。


 バイトが終わって、商店街で夕食を買って帰る。

 今日は何を食べようか……。

 たまに、余りものを分けてもらえることもある。


 今日は麻婆豆腐を貰った。


 アパートに帰り、レンジで温め直す。

 食べながら、自分のアルバムを眺める。


 舞華まいかさんに言われたことが気になったのだ。

「奈美ちゃんってげっ歯類系の顔だね…言われない?」

「ふぅん…言われる」


 で気になった…。

 いつ頃から言われてたのだろう?

 少なくても中学生の頃には言われていた。

 だから、小学生のころの写真を見ているのだ。


 運動会、文化祭、音楽祭…etc。

 演劇の写真があった。

 子供の頃から背が高かった奈美。

 ステージ映えするから比較的、良い役を貰えるのであるが…この時ばかりは不本意な役を当てられた。

『白雪姫』

 もちろん、『白雪姫』をやりたいのが心情である。

 でも…立候補というのは、抵抗がある……。

 クラスで推薦される子というのは人気の証なわけだが……。


 奈美は白雪姫に選ばれたのだ。

 嬉しかった。

 初めて主役をやらせてもらえるのも嬉しいが、推薦で選ばれたことが嬉しかった。

『リス』だの『うさぎ』だのと男子にからかわれることも多かったので『白雪姫』は本当に嬉しかった。

 勉強→中の下

 スポーツ→中の下

 芸術→上の下

 クラスの主役になるには、少し足りない感じ。

 なぜ、今回は主役なのか?色白だったからだろうか?

 リンゴを美味しそうに食べそうだからかもしれない。


 ところが…王子様役に問題があったのだ……。

 奈美より背が低い。

 並んでみると違和感が凄い。

 奈美は学年の女子でも5本の指に入るくらい背が高かった。

 スポーツが得意であれば、バスケかバレーでスターだったであろう。


 そこで…先生が余計なことを提案したのだ。

「男子と女子の役を入れ替えてみない?」


 この提案、クラスは拍手で受け入れた。

 他のクラスとは違う劇ができると期待が高まったのだ。


 結局、奈美は王子様の役をやることになったのだ。

 その時の写真だ。

 ダンボールの剣をかざし、大声でセリフを叫んでいるところだ。

「どうせ死ぬのならば、愛するアナタの隣で死にたい!」

 奈美は劇のセリフを呟いた。

 セリフは今でもハッキリと覚えている。


「私は死にかけた…愛する人は隣にいた?」

(いたよ…)

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