亡霊は魔王の娘の問いに答える

「お帰りなさいませ。どうでしたか?」

 ベラナベル様が調理場に来られた。昨日までより一人分多い食器を抱えて。


「最初は遠慮しておったが、所詮子供のやせ我慢では、食欲には敵わんようじゃな。他の子らががつがつ食べているのを見てか、匂いに辛抱堪らなくなったか。一口食べてしまえば、もう後戻りはできぬ」

「人の料理を危ない薬のように言わないでください。それで、ベラナベル様もお食べになりましたか? また新入りにやってはいないでしょうね?」

「うむ。相も変わらず美味であった」

「お褒めに与り光栄です。ベラナベル様がご自身の食事をきちんと採られるとは。珍しいこともあるものですね」

「ああ。今のうちに、備えねばならぬからの」


 我の軽口を、ベラナベル様は笑わなかった。いつも通り美しく、気品のある澄ました顔で返事をした。

「備えねばならぬ、とは?」

「時に、バルドスよ」

 ベラナベル様は我の問いには答えなかった。


「『しめいてはい』とはなんじゃ?」


 答えを聞く必要も、無くなったが。


「ベラナベル様、どこでその言葉を?」

「わらわの問いに答えよ」

「ですが」

「バルドス!」


 悲鳴にも似た強声が、我の名を呼ぶ。


「わらわも馬鹿ではない。おおよその予測はついておる。お主だからこそ、話せるのじゃ」


 ベラナベル様の眼に迷いはない。

 既に覚悟は決めた、と、そう述べているようにも聞こえた。


「指名手配とは、国を挙げて、特定の人物を探す事です。発見した者、捕獲した者、あるいは……」

「殺した者、か?」

「……貢献度に応じて、国から賞金が出ます。賞金で、国民を動かしているのです」

「なるほどのう。この首に、それだけの価値が乗っていると」


 ベラナベル様は、ぺたぺたと、わざとらしく首元を叩く。

「どうじゃ、バルドス? 今なら大金持ちになれるぞ」

「冗談でも、お止めください」

「いずれ討たれる身なら、いっそお主の手に掛けられるのも本望じゃ」

「ベラナベル様!!」


 我の気迫に押されてか、ベラナベル様は幼子のように縮み、身震いする。まるで新入りのような反応である。

「く、くく……相変わらず、オーラだけで人を殺せそうじゃな。生きた心地がせんわ。本当に死んだかと思ったぞ」

「我がベラナベル様をお守り致します。何人たりとも、ベラナベル様には一歩も近づけさせませぬ!!」

 その為に、我は再び斧を握ったのだ。ベラナベル様は、死に場所を求め彷徨っていた我に、再び生きる理由を与えてくださった。

 どんな敵が来ようと、我が斧の錆にしてくれる。

 この命に代えても。



「お主なら、そう言うじゃろうと思っていた」

 ベラナベル様の美しい顔が、悲哀に染まる。

 何故だ?

 まるで、我ではベラナベル様を守り切れないとでも言いたげに見える。


「もう一つ、悪い知らせがある」

「これ以上、なにがあるというのです」


 その答えは、すぐに明らかとなった。


「勇者が復活する。二年前、我が父たる魔王ギールと共に倒れた、あの勇者が」

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