答え合わせ

「私たちは……一体……なにを、間違ったのでしょう……なぜ、……なぜこのようなことにっ」


 濃厚な鉄の匂いが漂う中で、無駄とわかっていながらも、そこかしこに転がった屍たちに回復魔法をかけ続けていた神官がようやく手を止め、力なくこちらに振り返った。


 三日前、最終決戦を意識した勇者さんの計らいで、王都の酒場で羽を伸ばし、全員で飲めや歌えやの大宴会を楽しんだ。


 二日前、最果ての地を目指して王都を発ち、道中でキャンプをすることになった夜、焚き火を皆で囲み、戦いが終わったあとのそれぞれの夢を語り合った。


 一日前、終わりの洞窟で魔王の分身とその刺客を送り込まれ、苦戦を強いられたが、なんとか退しりぞけることができた。一時は全滅を覚悟したが、それでも勇者さんの導きで勝利を手にし、パーティの絆はより一層強固なものとなった――はずだったのに。


 眼前に広がる、地獄を体現させた絵画のようなこの光景を、誰が予想できたのだろう。


「う――ッ……あ、あたまがッ……」


 途方に暮れていた神官が、そこで突然頭部を抱え苦しみ出した。かと思えば――ワタシも、頭部の内側で何かがじりじりと膨張していくような、そんな激痛を感じて、あえなくその場に膝を折った。


 激しい耳鳴りが続き、視界が回り出す。前触れなく襲ったこの激痛を、ワタシは知っていた、前にも何度か味わったことがある――脳内に燃え広がる熱い痛み、記憶を歪ませ、勝手に書き換えられていくような……この感覚は。


「忘却、魔法――」


 答えが出たところで、ワタシと神官の感覚の全てが弾けた。

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