第14話ビーストハンター 第2話 「東京租界に死す」(3)

 ジョーの前にいた母親がとっさに子供をかばうように抱え込んだ。その胸を一発の銃弾が貫いた。

「アッラー・アクバル~ッ!」

 ゴミ山の上に立ったテロリストが、勝ち誇ったように叫んだ。

 だが次の瞬間、ゴミ山の横から回り込んだボルテがものすごい勢いで男に向かって行った。

 男はボルテの突進を避けようとしてよろっ!と体勢を崩した。その一瞬をジョーは見逃さなかった。

「バシュッ!」ジョーのモーゼル C-96から放たれた弾丸が、瞬時にテロリストの心臓をえぐった。

「グギャ~ッ!」と言う悲鳴とともに、男は血しぶきをほとばしらせながらゴミ山を転がり落ちて動かなくなった。

(油断した…僅かの隙を突かれた。もし、女が子供をかばわなければ俺が撃たれていただろう)

 ジョーは大きく肩で息をついた。倒れた女の傍らでは、赤毛の少女が泣きもせずにただ黙って母親を見下ろしていた。

 しゃがんだジョーは女の首に手を当てて脈を確かめた…しかし、もう脈は打っていなかった。

(どうしたものか?)ジョーは憂鬱な気分になった…柄にもなく胸の痛みを覚えた。

 側にやって来たボルテがじ~っとジョーと少女を見ていた。ボルテもどうしていいのか分からないようだった。

 突然何を思ったのか、ジョーはみなし児になった少女を逞しい腕で抱きあげて幅広い肩の上に乗せた。

 少女はただされるがままに任せて何の抵抗もしなかった。


 達摩ジョーは赤ん坊の頃に父を亡くした。母の再婚相手はならず者で二人に虐待された挙句に捨てられた。

 寒い道端で泣いている所を拾われて孤児院に預けられたが、その孤児院も補助金目当ての名ばかりの施設だった。

 8才の時に孤児院から逃げ出し、街をさまよい歩いてこのはきだめの街・東京租界にたどり着いた。

 そこで子供を使って窃盗を働く組織の親方に拾われ、子供だと思って油断する大人から物を盗んで生きて来た。

 12才の時に、東京租界を拠点とする渡りのイェーガー「達摩玄」の部屋に盗みに入って彼に捕まった。

 玄は日本でも数少ない特級狩猟免許を持つイェーガーだったが、傍若無人な性格と荒さゆえに他のイェーガーから嫌われていた。

 そんな玄に育てられたジョーは、13才の時から彼とともに海外の企業や要人の警護の仕事で世界各地を渡り歩いた。

 海外では、後腐れがなくて腕のいい警備員を金で雇う企業や要人が多かった…言わば用心棒のようなものである。

 だいたいは政情不安定な地域での仕事が多く、企業や要人の私兵として、時には傭兵部隊のメンバーとして働いた。

 そんな所では略奪や殺人、強姦などは日常茶飯事の出来事で、力さえあれば何でも思い通りの事がやれた。

 今も海外で仕事をしたがるイェーガーが多いのは、一山当てて濡れ手に粟のような大金を手にするうま味があるからだ。

 腕のいいイェーガーであるジョーが海外に行きたがらないのは、辟易するほど人間の腐った腹わたを見てきたからだろう。

 ともあれそんな訳で、海外で兵士として鍛え上げられた彼の肉体は鋼のように逞しかった。


 少女を肩に担いだジョーがビークルを止めてあった場所に帰ると、仕事を終えたシュンとヒジリが待っていた。

 シャルクのサムソンとカイザーも、さっそうと引き上げて来たボルテの姿を見るとうれしそうに「ワン、ワン」と吼えた。

 猟犬は猟犬なりに、お互いに無事獲物を仕留め終えた事を喜んでいるのだろう。


~続く~

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