第13話ビーストハンター 第2話 「東京租界に死す」(2)
彼らが外に出ると、テロリストたちが表通りを二手に分かれて逃げて行くのが見えた。
「わてはネトゲと二人組みを追うわっ…もう一人の方はソルジャーに任せたでっ!」ヒジリが言った。
「あぁ!分かった」ジョーはすぐさま返事を返した。
放たれたカイザーとサムソンが、たちまち一方に逃げた二人組のテロリストを追い掛け始めた。
「ヒュッ!」と言うジョーの口笛よりも早く、獲物を見つけたボルテも反対側に逃げた男を追って駆け出していた。
三日前に起きた地下鉄爆破テロの犯人を追って東京租界にたどり着いたイェーガーは、そこにテロリストのアジトを見つけた。
普通なら警視庁の機動隊の応援を要請するところだが、彼らはそんな回りくどい真似はしない。
騒がれて逃げられる前に、即効奇襲を掛けて殺処分する…それがイェーガーたちの流儀だった。
余計な手間を省いてくれる彼らは、危険ではあるが警察にとってはありがたい存在なのだ。
ただ、その荒っぽさゆえに「民間人に危害を与えてはならない」などの法的縛りは掛けられていた。
雨の降る表通りをひたすら逃げるテロリストは、時折、振り向きざまに追って来るボルテに拳銃を放った。
だが、そんなものが当るはずもない…相手が引き金を引く前にすばっしこいボルテは数メートル先に跳んでいた。
ボルテは並みの猟犬ではない…猟師に母親を殺された狼の子をジョーが引き取って育てた野生の狼犬であった。
逃げ切れないと見たテロリストは、路地の中に入り込んで手当たり次第に置いてあるドラム缶やゴミ箱を転がした。
さすがに追跡を妨害されてボルテの足は鈍った。だが、ジョーの追跡はそう簡単に振り切れるものではない。
東京租界で育った彼にとってここは庭のようなものだ…断然、地の利はジョーにあった。
ジョーとボルテに追われたテロリストは、ほうほうの態で東京租界に面する海辺の空き地に逃げ込んだ。
通称「ジャンク山」と呼ばれるここには、方々に機械や廃材などがうず高く積み上げられたゴミの山がある。
しかし、そこまでテロリストを追詰めたジョーとボルテは、急に男の姿を見失ってしまった。
「くそっ!どこへ行きやがった?」ジョーは辺りを見回して逃げた男を探した。
ボルテは濡れた地面に鼻をこすりつけて、テロリストの足跡の臭いを探っていた。
すると、そこへ近くでゴミの山を漁っていた母親連れらしい女の子が、ボルテに興味を示して近寄ってきた。
一目見て難民だと分かる幼い赤毛の少女で、多分雨の中で母親と一緒にゴミ拾いをしていたのだろう。
少女は恐れもせずにボルテの側に寄って手を差し出した…少女を見上げるボルテの目が急に柔和になった。
牝犬は子供にやさしい。本能からか幼い生命の世話を焼こうとする…ボルテは少女の手をペロペロと舐め始めた。
それを見たジョーは、一瞬ふっと張り詰めていた緊張の糸が解けた。
子供がいないのに気付いてやってきた母親が、子供の手を掴んで連れて行こうとした。
その時だった。突如ゴミ山の上から古タイヤやコンクリートの塊がドドッ!と転がり落ちてきたのだ。
「危ないっ!避けろボルテ!」ジョーが叫んだ。
~続く~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます