第11話ビーストハンター 第1話 「狩猟免許と言う名の殺人許可証」 (10)

「体売る事もできないし、それに見つかったら再犯は殺処分だろ…ゴミ拾いや掃除婦やりながら細々と食ってるよ」

「そうかぁ…そりゃぁ気の毒なこった。今時は犯罪やったら人生終りだもんな」

「まぁ、女子のブタ小屋の話だから、男子のブタ小屋までは知らないがね」

「う~ん、何かあるんかな~…いや、実はさっき沙羅さんと音羽さんの話をしててな」

「あんたっ!沙羅ちゃんに父親さんの話をしたんかい?幾ら何でもそりゃぁ惨すぎるだろう」

「スマン…つい口が滑っちまってな」

「あたいにとっちゃぁ、あの子は命の恩人だよ…泣かせたりしたら承知しないからね」

「あぁ、そうだったよな…危うくビーストとして始末されるところを沙羅さんに救われたんだってな」

「そうだよ…ダチが支払いを渋る男に暴行されてたから、あたいが棒っ切れで男の頭を殴ったんだ。そしたらそいつ死んじまいやがった。捕まって殺処分されるのを覚悟してたら、通り掛かって見てた沙羅ちゃんが正当防衛の証言をしてくれたのさ」

「それが縁で『男気がある』って沙羅さんに見込まれてイェーガーになったんだよな」

「あぁ、あんないい子はいないよ。あの子に命を助けてもらったお陰で、娼婦稼業から足を洗えたんだからね…あたしゃ、大好きだよ。抱きしめたいくらい好きさ」

「おぃおぃ、ウズメねえさんはそっちのケもあるんかい?お盛んなこった」

「女が女を好きになって何が悪いんだい!男だろうが女だろうが、好きな人は好きなのがあたしの性分さ」

「だよな…けど、音羽さんがビーストとして公安に射殺されたのも、ブタ小屋絡みの事件を捜査してる最中だったしな。何だか妙だ」

「ブタ小屋に首突っ込むのはやめときな。あそこは公安局の管轄だろ…あたいら警備員風情にゃぁ手は出せないよ」

「でも何か匂うんだよな~、ブタ小屋…まぁ、そりゃぁブタ小屋だから元々臭いには決まってるんだが」

「詮索してもどうにもならないよ…余計な事に首突っ込んだらロクな事になりゃぁしないよ」

「あぁ、そうだな…ありがとう。邪魔したな」

「あんたも女っ気が無いから余計な事を考えるんだよ。何ならあたしのダチを紹介してやろうか?」

「よせやい!姉さんの昔の同業者紹介されたら俺までビーストになっちまわぁ」

「それもそうだね…狩人の方が狩られる獲物になってたんじゃぁサマんなんないわよね」

 そう笑ってウズメは部屋を出て行くツクモを見送った。


 ツクモが階下に下りてみると、事務所には沙羅以外の人影はなかった。

「話はすんだの?」沙羅がそう尋ねて来た。

「あぁ…他の奴らはもう帰ったのか?」

「えぇ、報告書は明日みんなが揃ってから書くって」

「まぁ、吉野のヤツも報告書はゆっくりでいいって言ってたしな…そいじゃぁ俺も帰るわ」

「お疲れ様。気を付けて…一人で淋しいからってあんまりお酒飲んじゃだめよ」

「ありがとう…じゃ、お先に」

 父親のいない沙羅はいつもツクモの身体を気遣ってくれる。娘を亡くしたツクモもそんな沙羅を娘のように思っていた。

 音羽警備の事務所を出たツクモは、駐車場から車を出して雨にけむる街を家路に着いた。

 辺りはとっぷりと日も暮れて、ヘッドライトに照らされた町並みがどんよりと濁って浮かんでいた。


第1話「狩猟免許と言う名の殺人許可証」(完)

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