第10話ビーストハンター 第1話 「狩猟免許と言う名の殺人許可証」 (9)
「運転手はハンドルを切り損ねて、ジープは崖下に真っ逆さま…びっくりした娘が崖下に下りてみると、人民解放軍の兵隊は全員死んでいたが、犬は傷だらけになりながらも生きていたそうだ」
「大したもんだな~…動物の生命力ってのは」
「少女はルージュを村に連れて帰って手当てしたんだが、事情を知った村長は、中国政府の報復を恐れて少女と犬を村から追い出した」
「そりゃぁ、可哀そうにな~」
「村を追い出された少女と犬は、着の身着のまま国境を越えてインドのダラム・サラに逃げようとしたが、途中で行き倒れてしまったんだ…そこへ、取材で通り掛った日本人のカメラマンが助けてやって孤児院まで連れていったのさ」
「ふ~ん…奇特なヤツもいるんだな~」
「孤児院は子供は預かってくれたが、犬は預かってくれなかった…少女は『一緒じゃなきゃぁイヤだ』と泣いたが、カメラマンは自分が可愛がるからと、ようやく説得して犬を連れて帰ってきたのさ」
「それでルージュちゃんははるばる日本まできた訳か~」
「そのカメラマンってのがあたいの常客でね…連れて帰ったはいいがなつかなくてほとほと手を焼いていたところへ、あたいが娼婦をやめてイェーガーになるって言ったもんだから餞別代りにくれたのさ」
「なるほど…それでお前さんが飼う事になったのか」
「まぁ、本人は厄介払いついでだったんだろうがあたいは得したよ…すぐになついてくれたし、こんな強い牝犬をタダでもらったんだからね~…強さだけならジョーんとこのボルテに引けは取らないよ」
「へぇ~…ビーストの足を喰いちぎったって言うあの狼犬とねぇ」
「でも、男連中にひどい目に遭ったのがよっぽどこたえたんだろうね…今でも男に触られるのを毛嫌いするのさ」
「お前さんとは似た者同士なんだな~」
「ひどい言い方だねぇ…あたしゃぁいい男なら大歓迎だよ…で、聞きたい事って何だい?」
「あぁ、今日死んだビーストが妙な事を言ってたもんでな」
「妙な事って何だい?」
「一度ブタ小屋(刑務所)に入った者は、二度と出られねぇってんだがな」
「ブタ小屋送りになったビーストは、二度とシャバには出て来られないって?…何よそれ」
「それで、お前さんのダチでブタ小屋送りになったヤツが、出て来たかどうか聞きたくてな」
「あぁ、出てきたわよ…額に焼印押されてね。地獄から舞い戻ったって言ってた」
「へぇ~…そんなにひどい所かい?ブタ小屋は」
「大勢で檻ん中入れられて、食事は餌箱にぶちまけた残飯食わされるし、裸にされてホースで水掛けられて身体を洗われたそうだ」
「何だか、ガキの頃に歴史の授業で習ったナチスドイツのユダヤ人強制収容所みてぇだな~」
「売春宿が天国に見えるって言ってたよ…でも、額に焼印押されて傷物になっちまったんでもう娼婦もできやしない」
「ビーストはいくらブタ小屋から出て人権を取り戻したって、烙印が残るからな~…で、どうしたい?」
~続く~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます