第18話 爆風のシマパンダー(5)

 黒鉄能代を上座に据えての宴会が盛り上がる中、入谷恐子は家の前にマウンテンテレビのハイエースが長時間駐車している事実に眉を顰める。

 記憶に間違いがあって欲しいが、十三夜更紗の撮影班が使っているハイエースである。


(不吉であります)


 入谷恐子は、ブルースクリーマーがシマパンダーとして世間に誤認された責任の八割以上は、更紗の所為だと信じている。

 シマパンダーに責任転嫁情報操作してブルースクリーマーを守っているという岸モリー司令の説明を、あんまり信じていない。

 被害者意識で迷惑がる入谷恐子は、昨日、街中で更紗を討ち損じた失態を思い出す。


(おお、今度こそ、仕留めるチャンスであります)

 

「悪い顔だな、シマパンダー。手札充実?」


 ポーカーで現在勝ち点一位(チョコチップクッキー56枚)の黒鉄能代は、二位(チョコチップクッキー45枚)の入谷恐子に探りを入れる。


「ふっふっふ。ポーカーに駆け引きなど不要であります」


 すんごい頭の悪そうなセリフと共に、入谷恐子は手札を開示する。

 ダイヤの10・J・Q・ジョーカー・ジョーカー


「ロイヤルストレートフラッシュ!!!!!」


 黒鉄能代は、イリヤ母が作ったサムライ・ロックを飲み干してから、手札を開示する。


 ジョーカー・ジョーカー・ジョーカー・ジョーカー・スペードのエース


「スペードのロイヤルストレートフラッシュ」

「ぐごがぁ?!」


 ジョーカーを13枚も入れたトランプでポーカーを遊ぶと、こうなる。 

 能代が、恐子の賭けたチョコチップクッキーを巻き上げ、山脈に上乗せする。


「いやあ、食費浮くわあ」

 普段から口が軽い上に鯨飲が加わり、所持金が少ない上に銀行のカードを富士山の秘密基地に置いたままで貯金を引き出せない事までベラベラと話していた能代は、接待ゲームの形で保存食を恵んでもらっていた。


「基地に戻るまで、恐子の部屋に泊まればいいじゃない」

 イリヤ母は、台所で軽く作ってきたキューバ・リブレを差し出しながら、勝手に話を進める。

 能代は顔をキリッとさせてイリヤ母に確認する。

「たわわを揉んだり枕にして寝ても構わないと?!」

「構わないわよ、勿論」

「大恩人ライフ万歳!!」


 実母が勝手に娘の胸部装甲の扱いを決めているというのに、恐子は窓の外が気になって背を向けていた。

 あまりにノーガードなので、飛芽が声をかける。

「へい、シマパンダー」

「なんでありますか」

「今、お母さんが大事な話をしているぞ」

「自分は、窓の外に天敵を見つけたであります。お母さんの話はいつも手遅れなので、放っておくであります」


 この手遅れな母にして、この手遅れな娘あり。


「窓の外に、シマパンダー二号でもいるのかい?」

「いえ、悪質ジャーナリスト・十三夜更紗のハイエースであります」

「…二人は、別人だったかな?」

「自称二号が戦っている間、あの女は地下街のトイレで踏ん張っていただけでありますよ」


 入谷恐子は、更紗が極秘戦隊のメンバーだと、未だ察していなかった。

 あまりの察しの悪さに、呆れた飛芽の顎がカクンと外れる。

 朝顔に顔を向けて助けを求めるも、朝顔は『放っておいた方が、面白いよ。うけけけけけ』という笑顔で飛芽を制する。                                                                                                                



 飛芽が記憶する限り、極秘戦隊スクリーマーズとしての最後の日は、そのまま呑気にグダグダと過ぎていった。

 台風よりも強力で、地震よりも避けようのない災厄が、入谷家に徒歩で接近している事を伝える岸指令からの緊急メールは、この二秒後に送信された。



「兄さん。あそこにアニメイト渋谷店が…弟だっけ?」

「弟よ。寄り道はするな。更紗様がお待ちである…兄さんだっけ?」

「だがしかし、だがしかし、更紗様への手土産が無いぞ、兄さん。…弟だっけ?」

「ううむ。金のかからぬ手土産が欲しいのう、弟よ。あるいは兄さんだっけ?」

「むむむ?! あそこに野良の自動販売機が生えているよ、兄さん。あれを抜いて持って行こう。ひょっとすると弟だっけ?」


 アニメイト渋谷店前に設置された自動販売機を、バビ・ビロンは鎌で根元から刈り取ろうとする。

 犯罪行為が成されようとする直前に、バビ・ビロンがチョップでビバ・ビロンの手を叩いて制止する。

「更紗様への手土産を、野良で摘んだ自動販売機一台で済まそうなどと、貴様には良心が無いのか、弟よ!? …兄さんだっけ?」

 手の装甲にヒビが入ったので絆創膏を貼りながら、ビバ・ビロンは抗議する。

「初対面の相手に高い手土産は、重いだけです。ここは自動販売機一台をセレクトするのが常識ですよ、兄さん! 常識・イズ・ベスト! …弟だっけ?」


 兄弟…姉妹喧嘩勃発と思いきや、ビロン姉妹はお互いのポンコツな思考回路で妥協案に至る。


「中身だけを持って行こう」

 ビバ・ビロンは、鎌で自動販売機を解体すると、中の商品だけを抱える。

 バビ・ビロンは、自動販売機の残骸をティッシュペーパーのように手で丸めて小さくすると、ゴールドライタンの像にしてアニメイト渋谷店の前に置いた。


 時間稼ぎをするまでもなく、徒歩で十五分の距離を一時間かけて半分も進まない、ビロン姉妹だった。

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