第17話 爆風のシマパンダー(4)
十三夜更紗は。
マウンテンテレビ本社の受付嬢・花園羅組からLINEで緊急メッセージを受け取った。
『更紗さん目当ての女怪人二人が、うちの戦隊と揉めていますわ。お話ししたいだけと言っていますが』
十三夜更紗は。
撮影用のハイエースの中で、ゴーヤチャンプルと鳥五目おにぎりの昼食を摂りながら、無表情に返信する。
『今、離脱出来ないから、この電話に出して』
マウンテンテレビ本社の受付嬢・花園羅組は、バビ・ビロンに携帯電話(受付専用)を差し出す。
「恐れ多くも十三夜更紗様は、直答を許すとの仰せです」
ビロン姉妹は、恐れ多いので揃って正座した。
お互いの姿を視認可能な通信状態で、マウンテンテレビのアナウンサー十三夜更紗・ホワイトスクリーマー・悪ふざけで自称シマパンダー二号は、ビロン兄弟…姉妹の前に素っぴんの無表情を現す。
「本番前に昼寝したいので、用件は三分以内で済ませるように」
「ほら、真心が通じた」
バビ・ビロンは、敢闘が全く通用せずに全身打撲と骨折で人間ボロ雑巾と化したマウンテン戦隊グレートファイブの面々に声をかける。
返事が呻き声しかないので、バビ・ビロンは更紗との会話に入る。
「ビロン兄弟の兄…弟だっけ? バビ・ビロンです」
「ビロン兄弟の弟…兄だっけ? ビバ・ビロンです」
十三夜更紗は。
己の無表情に、感謝した。
「うちの民間戦隊を半殺しで済ませてくれたのね。ありがとう。更紗、感激」
十三夜更紗は。
わざわざ口の端を指で上げて、笑顔を作って見せる。
「う〜ん。分かってしまいますよね、この滲み出る優しさが」
バビ・ビロンは、グレートレッドから剥ぎ取ったマスクを、片手で握り潰して粉にする。
「真心の通じるアナウンサーは、大好きですよ」
ビバ・ビロンは、グレートファイブの必殺バズーカを五ミリ刻みで輪切りにしながら、モジモジと照れる。
「シマパンダーの使用済みシマパンを手に入れたいのです。全て。彼女の住所を教えて下さい」
バビ・ビロンは通話を続けながら、天井から短槍で奇襲をかけてきたマウンテン戦隊グレートファイブの六人目、グレートドリアンを棍棒で打ち返して天井にめり込ませる。
「ネットで調べたら一発で出ましたが、簡単過ぎて罠ではないかと。何せ相手は極秘戦隊の端くれ」
ビバ・ビロンは、グレートピンクの戦闘服を下半身だけ剥ぎ取り、シマパンではない事を確認する。
「一人だけ正体がバレバレとか、我々にですら分かる怪しさ大爆発」
バビ・ビロンは、世間様からはシマパンダーに一番詳しいと目される十三夜更紗に、再び正座して首を垂れる。
この件に関してはネットの情報が正しさ100%なのだが、極秘戦隊スクリーマーズの積み上げた秘匿実績が活きた。
初日から正体がバレバレという入谷恐子のアホ過ぎる丸見えプライベートは、手の込んだ煙幕フェイクニュースと見做されている。
「確報が欲しい。ご存知ですか? 途方に暮れた二人のファンに、ご慈悲を。お礼に、何処でも二時間以上、舐めます」
「本当なら更紗さんへの思慕をラブジュースで表したいのですが、勅命が優先なので自重します」
ポンコツで変態でも無双なビロン姉妹の申し出に、その場の全員が固唾を吞む。
十三夜更紗・ホワイトスクリーマーは。
己の無表情に、感謝した。
川底帝国の上級ヴィランを二人も罠に嵌めるチャンスなど、滅多にない。
「更紗の現在地まで、来なさい。今夜は仕事で、シマパンダーに『寝起きドッキリ』を仕掛けます。更紗の仕事を邪魔しないならば、シマパンダーのシマパンを盗む所業は黙認しましょう」
更紗は現在地を教えて通信を切ると、岸モリー司令に応援を求める。
「罠を張るまでの時間を、可能な限り稼いで下さい」
休日でも律儀に応答する岸モリー司令は、携帯電話等の音声応答禁止の喫茶店で店員の白い目に耐えながら、部下に応える。
「足止めに最適の民間戦隊を送る。間に合わない場合は、作戦を中止して姉妹を郊外へ誘導してくれ」
「中止? この機に仕留めないと、更紗の正体が疑われます」
「入谷家と、そのお隣りを犠牲にするつもりはない」
「その二つを犠牲にしてでも、更紗が今の秘密を守るつもりなら、それまでです」
更紗が意地悪を言っても、岸司令は相手にせずに通信を切る。
更紗は。
無表情ながらも。
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