第三部 大迷子編

第14話 爆風のシマパンダー(1)

【シマパン】

 縞柄が入ったパンツ。

 縦シマは男性用、横シマは女性用という区分けがなされている風俗は、地球の大いなるミステリー。

 男性用では、ルパン三世のパンツとして有名。

 女性用は、アニメキャラが着用する事で認知される場合が多い。

 前置きは抜きして、シマパンは、いいぞ。



 十四話 爆風のシマパンダー(1)



 川底帝国の皇帝が、史上稀に見るアホな勅命をロクデモナイ怪人兄弟にメールしたとも知らず、入谷恐子・ブルースクリーマー又はシマパンダー(ああ、面倒くさいな)は日曜日の午前十一時に訪問を受けた。

 例によって、イリヤ母は招き入れて茶を出してから、入谷恐子に訪問を告げる。


「恐子、お客様よ。魚肉ソーセージのプルプルダブルゼータ株式会社さん…いえ、違うわ。ゼータクマル株式会社さんの社畜の皆さん。上げても良かった?」


「魚肉ソーセージのゼータクマル株式会社?!」


 ネットでの『プリーチャー』一気見を中断して、入谷恐子は訪問してきた業者をネット検索して速攻で評判を確認する。

 民間戦隊とタイアップして、キャラ専用の魚肉ソーセージを販売している中小企業である。

 悪いトラブルは上がってはいないが、褒めている事例も上がっていない微妙さ。

「う〜ん。売り上げがイマイチでありますか」

 朝顔への相談を後回しにして、入谷恐子は話を聞きに居間へと降りる。



 居間で待っていた訪問客サラリーマン二人は、対照的な二人だった。

 中間管理職っぽい中肉中背の中年男は入谷恐子を見るや、お茶請けのハッピーターンを一息に飲み干すと、背広をマントのように翻しながら左右に一回ずつ回転し、名刺を差し出した。


「私の名は、スーパー営業マン・山本山翔平やまもとやま・しょうへい

 ゼータクマル株式会社の大幹部です」


 をアクセント強めに発音し、ドヤ顔である。

 民間戦隊とタイアップしたがるだけあって、ノリが変だった。

 もう一人も変だった。

 スケトウダラみたいな魚顔をした老サラリーマンは、正座をしながら両手を畳について眠っている。

 スーパー営業マン・山本山翔平は、ローキックで彼を起こしながら、老サラリーマンの名刺も渡す。


「この寝坊助の名は、大魚生肉たいぎょ・なまにく。元は魚肉ソーセージ怪人です」

「魚肉ソーセージ怪人?!」


 この数ヶ月で様々な怪人と戦って戦って、ひっそり爆笑していた入谷恐子でさえ、魚肉ソーセージの怪人は初めてである。

 入谷恐子の視線を受けて、老サラリーマンはお茶請けのハッピーターンを凝視する。

 老眼から、タダならぬ力が発射されようとしている。


「あのう、居間で挨拶がわりに能力を使うのは、控えて欲しいであります」

「手遅れです」

 スーパー営業マン・山本山翔平は、ドヤ顔で何もしないと宣言する。

 入谷恐子が抜刀しようとしたので、慌てて付け加える。

「お茶菓子を、魚肉ソーセージに変えるだけですので」 


魚魚魚魚魚魚ギョギョギョギョギョギョ、ギョ《魚》ニーーーーーーーク《肉》!!!!」


 飛び出す老眼から出た昭和っぽいビームは、ハッピーターンを瞬時に魚肉ソーセージに変化させた。

 スーパー営業マン・山本山翔平は、それを大業な仕草で取り上げて二つに折ると、己で口にして毒味をしてから、入谷恐子に差し出す。

「紛うことなく、ハッピーターン味の魚肉ソーセージですぞ」

 入谷恐子も賞味し、確認する。

「確かに、ハッピーターン味の魚肉ソーセージでありますな」


 老サラリーマン・大魚生肉は、入谷恐子の反応に満足してから、再び畳に両手をついて眠りに落ちた。


「…あのう、ギョダーイ(電撃戦隊チェンジマンに出てくる、敵ユニット巨大化専用萌えキャラ)の格好で眠りに就くのは、出力元の設定でありますか?」

「そのようです」

「ひょっとして、一日一回しか使えませんか?」

「無理をさせるとあっさり過労死すると、原作小説にも書かれていました。そういう所は元ネタとは変えればいいのに。足りない奴でした」

「こんなにも意味不明な能力なのに、そんなに厳しい設定を施されているでありますか」


 著作権法違反すれすれのコメディチックなキャラに厳しい設定を課すノベルワナビーの所業が、入谷恐子には分からぬ。


「いやいや、物は考えようですぞ。人でも巨大ロボでも、一撃で魚肉ソーセージに変えてしまいます。一日一回限定で、最強ですぞ」

「そんなに凄い力を、営業アピールにだけ使うでありますか」

「もう、ヨボヨボですので。民間戦隊の助っ人は無理ですな。というか、目立つ真似をすると、東映様に怒られそうで」

 スーパー営業マン・山本山翔平は、一発芸の疲労を終えて熟睡した同僚を起こさずに、本題に入ろうとする。

「では、本日の用件を」

「あ、待つであります」


 入谷恐子は、老サラリーマン・大魚生肉に掛け布団をかけて枕を頭の下に差し込んでから、話に戻る。


「イリヤさん。ギョダーイ系萌え?」

「ギョダーイ系が嫌いな女子なんていないであります」

 自分の娘はギョダーイ系が出ると怯えていたとは持ち出さず、スーパー営業マン・山本山翔平は、ようやく本題に入る。

「シマパンダーの魚肉ソーセージをコミケで販売したいので、ご協力頂きたく」


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