第11話 アタック・ザ・キラー飛芽 D(デストロイヤー)パート

 【スガヲノ忍者】

 入谷朝顔が、七歳で小説投稿サイト「カケヨメ」に連載を始めた現代ファンタジーバトル小説。

 当初は聖闘士星矢っぽいノリのバトル展開が多かったが、朝顔の成長に従い異世界や魔法少女やロボットバトルや特撮ヒーローの要素が逐次投入されていき、話の終わる目処が全く立っていない。

 プロの編集者からは「あちこちに話が飛んで、どこが面白いのか分からない」「この手の作品は珍しくないので、自分にしか作れない作品を書いてください」と相手にされないが、カオス系が好きな読書狂にはカルト的人気がある。

 アニメ化の話も出るには出たが、朝顔が「はあ?! UFOTableかIGクラスでないと、アニメ化の許可は出さないからね! 業界に寄生する三流アニメプロデューサーは、帰りなさい!」と交渉相手に塩を撒いて追い払ったので、怖がって関係者は近寄らなくなった。

 入谷朝顔の黒歴史に間違いないのだが、本人が気に入っているので、続編は不定期ながらも書かれている。



 十一話 アタック・ザ・キラー飛芽 D(デストロイヤー)パート



「う〜ん。結構悩ましい」


 呼び出せと言われても、出力したキャラは現実世界で生きて行かなくてはならないのである。

 一人だけ出力するのも動物園のぼっちキリンのように可哀想だし。

 人選に悩む朝顔に、隣のテーブルでバナナパンケーキを食べているダーク・アラシが、催促をかける。


「このバナナパンケーキを食べ終わるまで、あと二分二十秒。それまでに決められなければ、用を済ませたナイフとフォークを、お友達の脳に突き刺す」


 物騒な急かしように、朝顔は激昂しながらも相手の目的に察しを付ける。

 察した上で、朝顔は真っ向から受けて立つ。


「誰と戦いたいの?」


 ダーク・アラシは嬉しそうに肩を震わせて笑いながら、食事の手を一切遅らせずに返答する。


「『スガヲノ忍者』の主人公。SS級忍者、ユーシア・アイオライト。ここにいる怪人たちのみならず、巨大ロボも単独で撃破可能な無双キャラだ。是非とも、手合わせしたいな」


「え〜〜〜?」

 ダーク・アラシのリクエストに、朝顔は赤面して慌てる。

「大昔の作品だよう? 小学一年生の時に書き始めた作品を指定するなんて、どこまで残虐なのよ、このマッドマックス男!」


「初期作品故の、荒々しい活きの良さがある。未だにシリーズが続くのも、頷ける。書籍化やアニメ化の話が来ないのが不思議だ」

 愛読者からの好意的な生感想に、朝顔は現状も忘れて身悶える。自信はあるけれど褒められる事が少ない作品への好評価なので、弱い。

「褒めたって、飛芽にした仕打ちは忘れてやらないからね。姉様に言いつけて、ボトムズに成り果てるまでフルボッコにしてやるから!」

 顔も声も緩んでいるので、全然怖くない啖呵だった。


「あと、一分」

 ダーク・アラシは、バナナパンケーキを食べる手を緩めない。


「おっしゃあああああ!!!! 後悔しろよ〜〜〜〜」

 朝顔は、敵の罠に敢えて乗る道を選ぶ。

「来いや、ユーシア!」

 朝顔は、小説投稿サイト最古参の自作主人公を、家族同然に顔も名前も声も性格も運命も未来も覚えているキャラクターを、飛芽を助けるための祈りを込めて念入りに脳裏に描き起こす。


 中二病プリンターは、朝顔の作家力を認めて、順調に作動する。

 怪人が作者を取り込んで無理矢理やった出力と違い(一話参照)、ピンポイントで人一人分の空間が原子ごとゆらゆらと揺らぐ。

 周囲に影のない光と光のない影が錯綜し、一人の少年忍者の影を結ぼうと交差を為す。

 その影絵が、朝顔の脳裏に六年以上も描いてきた少年忍者の形に成った時。


 中二病プリンターは、朝顔の手の中で心臓のように脈打ち始める。

 懐中時計にも見えた短針と長針の部分に亀裂が入り、二つの口となり開く。

 長針の口が名状しがたい言語で警告文を吐き、短針の口が同時通訳をする。


『スデニ出力済ミノきゃらくたーヲ再出力スル行為ハ、次元管理法ニ基ヅキ、禁止サレテオリマス。未出力ノきゃらくたーヲ選択シテクダサイ』


 朝顔は、警告文を理解しても、納得が出来なかった。


「嘘だ」


『コノ仕様ニくれーむヲ申シ込ムノデアレバ、ぷれあです星団がんだーむすりー商店街ノ責任者マデ、めーるヲ送ッテネ。マア、地球ミタイナ田舎ニハ、宇宙基準ノめーるそふとモ無イケドサ』


 中二病プリンターの二口の中から、哄笑の響きが朝顔に返ってくる。


「嘘だ」


 朝顔は、中二病プリンターを店長の顔に投げつけながら、短くはない十三年未満の記憶を検索する。

 中二病プリンターを手にしたのは、間違いなく今が初めてだ。


「…嘘だ」


 たった一つの嫌な可能性に辿り着き、朝顔は店長の顔を凝視する。

 眼鏡っ娘JC美少女に見詰められても、店長は答えに窮してダーク・アラシに視線で助けを求める。

 ダーク・アラシは、バナナパンケーキを食べ終えて、ナイフとフォークを順当に置く。


「付近を通りかかっただけの人間の思考を拾って、勝手に出力する中二病プリンターもある。オーパーツというよりユーマだな、こいつらは。特に入谷朝顔先生のように作家力の強い思考を、好んで拾う。自覚は無かろうが、五百メートル離れた場所の中二病プリンターを作動させた事もある。

 故に極秘戦隊スクリーマーズの最優先目的は、入谷朝顔先生の周囲五百メートル以内から中二病プリンターを撤去する事。

 作家の卵に、創作を止めろとも言えないしな」


「・・・・・・ユーシアは・・・・・・」


 何時から何処にという疑問よりも、会いに来ないという事実に、朝顔の涙腺が緩む。

 朝顔の知るユーシアというキャラは、小学生に責任を負わせるような少年ではない。

 幼女に重荷を背負わせて泣かせるくらいなら、黙って距離を取る性格だ。朝顔が、そう設定した。


「・・・もう中学生なんだから、恨み言ぐらい聞いてあげるよ・・・」


 ダーク・アラシは、生身の右眼球で、類い稀な作家力を中二病プリンターに認められたノベルワナビーを、憐憫を込めて見詰める。


「スクリーマーズの誰かが、ユーシア・アイオライトの擬態だ。健気にも、境遇への感情を押し殺して、作者を守り続けている。作者を速攻で嬲り殺したオレとは違い、大した親孝行者だ」


 そう言うとダーク・アラシは、バナナパンケーキの代金をコーヒー怪人に払い、席を立つ。


「確認したかった要件は済んだ」


 どうも帰ってしまいそうなので、店長は慌てる。


「あのう、そろそろ、戦隊の巨大ロボと一戦交えますので、ダーク・アラシ先生にも、お力を…」


 何せ民間戦隊が東京都内には溢れている。

 フェーズ3のノベルワナビーが単独で戦いを挑んでも、三分保たずに敗退する羽目になる。

 簀巻きにされて神田川に放流された大泉太平店長を救った(クモ怪人に改造したw)川底帝国は、悪の組織のフランチャイズ契約の条件に、巨大ロボとの戦いでも助力を約束している。

 こういう時に助力を求めて当然。


 ダーク・アラシは、数少ない生身の右眼球で、信じられないアホを見る目で、店長を凝視する。


「この巨大ロボで、本気で戦う気なのか?」

 店長は、心外そうに言い返す。

「戦いますよ。もちろん」

 店長は、巨大雑貨屋店員ロボが戦える事に、全く疑問を持っていない。


 敵側の岸司令と同意見とも知らず、歴戦のサイボーグ型攻撃隊長ダーク・アラシは窘める。


「そのう、こういう半端な戦力で戦うのは、関係者にとって・・・」

「コスパが悪い?」

「悪い。しかも、無意味」

「コンパス・ミサイルとか、リアクティブ消しゴム・シールドとか、結構いけるかと」

 意外と粘る、大泉太平店長。

(こいつ、中二病プリンターに認められて、増長しているな)

 ノベルワナビーの上司たちを持つダーク・アラシは、大泉太平店長の強気を、把握する。

 切り捨てる選択肢も頭によぎるが、フェーズ3を引き起こせるノベルワナビーは貴重なので、これ以上プライドを刺激しないように撤退を促す。


「都内でサラリーマンのふりをしている戦闘員や幹部たちに、避難を呼びかける必要が生じる。迷惑だ」

「そんなあ。もう相手も到着しそうですし」

「君さあ。帝国がノリと勢いで戦っているとでも思っている訳?」

「違うの?」


 殴り倒して回収しようかと考えた時に、メイドロボ店員一号がネットのトレンドを報告する。


「富士山山麓から渋谷に向けて、輸送ユニットの発進が確認されています。SNSでは、極秘戦隊スクリーマーズの飛行空母『バトル・アンコウ』との見方が有力です」

 

 大泉太平店長はスマホで、情報を確認する。


 富士山をバックに、丸っこくて平たい形状ながらも、猛々しい面構えの飛行空母が飛んでいる。

 川底帝国が義理で戦闘機バキュラス(普段は都内の駐車場でハイエースみたいな車体に擬態している)十二機を出撃させるが、途中で暇な民間戦隊の戦闘機に落とされたり対空ライフルで狙撃されたりで、二機しか『バトル・アンコウ』まで近付けなかった。

 二機は装備していたミサイル計十二発を全て発射したが、『バトル・アンコウ』の防御機銃に全て破壊された。

 接近しての機関砲攻撃も有効打を与えられず、『バトル・アンコウ』の機上から弓矢を放つ非常識な人物により、撃墜された。


「・・・東京23区は、アウェーなんですね」

 戦闘機一個中隊が出撃しても足止めすらできない現実に、大泉太平店長は増長から冷める。

「巨大雑貨屋店員ロボが戦っている隙に、入谷朝顔を活用しよう」

 その意見にダーク・アラシは首を横に振りながら、店長の中二病プリンターを特注収納ケースに入れて作動を防ぐ。

「やめておけ。逆に敵を増やされるだけだ。入谷朝顔の作家力は、敵味方双方にヤバ過ぎる」

「最優先で確保しろとか言っておいて、キャラの出力を確認しただけで手放すと?」

 そう言われると関係者として恥ずかしいダーク・アラシだが、いざ入谷朝顔の作家力を目の当たりにすると、デメリットの大きさが持ち帰りを躊躇させる。

 川底帝国本部で、入谷朝顔が自作の軍団を出力しようものなら、ダーク・アラシは失業する。

「本当に手に入れると、持て余すな、この大先生は」

「…なら、早めに始末した方が…」


 大泉太平店長がその発言をした瞬間。


 十三本の黒ナイフで串刺しにされていたレッドスクリーマー・飛芽から、爆発的な闘気が放出される。

「足りなかったかな」

 両手に持った黒い大型ナイフ十本を、ダーク・アラシはライフルの発射速度に匹敵する勢いでレッドスクリーマー・飛芽に投擲する。

 レッドの傷口から、トマトジュースではなく黒い鎌を持った黒骸骨(幽体)の腕が生え、半殺しのままのレッドを守る。

 痛点を無くしたかのように、レッドはナイフが刺さったままゆらりと立ち上がった。

「…僕の書いた設定とは、全然違います。つーか、確実に違います」

 店長の弁解を聴きながら、ダーク・アラシは立ち上がるレッドから距離を取る。


「ヒハハハハハ、レッドの戦闘服を着るのは初めてだな。なんか得した気分」

 彼女は、そう言って、マスクの口元を外して傷口の体液を飲む。

「うわ、本当にトマトジュースだ。ま、これはこれで」

 口調も声も所作も、飛芽とは違って病的な気配が漂う。

「飛芽…誰かに体を貸したの?」

 朝顔が、別人の憑依と断定して声をかける。

「安心しなさい。中身は中年の変態オヤジというオチはないから。憑依した体でセミヌード盆踊りくらいはするけど」

「その口上で、何を安心しろと?」

 ダーク・アラシは、事情を悟って更に距離を取って店長の確保をし易いポジション取りをする。

 撤退の準備を始めながら、ダーク・アラシは確認せずにはいられなかった。


「ほう。死傷者の多い割に鹵獲されないのは、そういう仕込みか」 


 レッドスクリーマー・飛芽の体を経由して、無数の黒骸骨(幽体)の腕で朝顔を保護しながら、新美少女キャラはダーク・アラシとの会話に応じる。


「ヒハハハハ、歴戦の人殺しは話が早いね。

 ブラックスクリーマー、黒鉄能代(くろがね・のしろ)。負けた隊員を、生死に関わらずサルベージする、お茶目でチャームな魔法少女!」


『お前、吸血鬼でも死神でもないんかい?!』


 体の主導権を譲った飛芽が、脳内でツッコミを入れる。


「母方の祖母が吸血鬼で、父方の祖父が死神でした。ちなみにノベルワナビーの設定ではなく、マジモンのレア人間だから。気安くハイブリッド仕込めると思うなよ、種付けおじさん共め。いや、この体ではどの道、ワタシは孕まないけど」


「人を勝手にエロ漫画のキャラ扱いするな!」


 反論しつつも、ダーク・アラシは店長を連れての撤退を決め、コーヒー怪人とパンケーキ怪人、回復したカレー怪人に殿を任せる。

「いや、まだ巨大ロボ戦が」

「いいから、来なさい」

 店長を大八車に乗せて、ダーク・アラシはスナックアマゾンから退店する。

「行ってらっしゃいませ、主人公様」

「お前達も、負けそうになったら逃げろよ〜」

 メイドロボ店員達は、礼儀正しく見送った。


 巨大雑貨屋店員ロボの操縦ユニット部分からダーク・アラシが飛行機能付き大八車を牽いて飛び去るのを確認したゴールドスクリーマーは、その場所を突入口として見定める。

「スクリーマーロボ一号。敵ロボの手前百メートルで対峙して、足止めしろ。その隙に朝顔を救出する」

『他の人質は?』

 教育の成果で、気の回るスクリーマーロボ一号だった。

「ん〜? 余裕が有ったらね」

 ゴールドが雑な指示を出したので、関係各所への電話連絡で激務中の岸司令が口を出す。

「朝顔と飛芽を救出後は、操縦ユニット部分のみを破壊しろ。それ以外の箇所は攻撃するな。中の人質も断固として守れ」

『あのう、ひょっとして、難しいミッションを課せられていませんか?』

「簡単な戦いなら、巨大ロボなんか呼ばないし作らないよ」


 降下前に確認を取るスクリーマーロボ一号の頭上から、ティルがセッカチに貧乏ゆすりをする振動音が聞こえる。

 この御仁に怒られる事より恐ろしい事態など知らないので、スクリーマーロボ一号はバトル・アンコウから降下を開始する。

 バトル・アンコウの前方開口部が大きく開き、内部でしゃがんでいたスクリーマーロボ一号が立ち上がる。

 赤い装甲に身を包んだ武者ロボは、顔を真面目に引き締めて眼下の敵に集中する。

 地上から巨大雑貨屋店員ロボが、コンパス状のミサイルを大量に放って迎撃を開始する。スクリーマーロボ一号は錐揉み回転キックでミサイル群を文字通り蹴散らしながら、百メートル離れた地点の信号機の上に着地する。

 十階建のビルを腰下に見下ろす長躯の武者ロボが、ドヤ顔を抑えながら軽い身のこなしを見せつける。

 信号機が青に変わった時点で、雄々しき武者ロボは名乗りをあげる。


『極秘戦隊スクリーマーズ所属、スクリーマーロボ一号。見参!

 渋谷の平和は、可能な限り、このボクが前向きに善処する!』  

 

 信号機がスクリーマーロボ一号の重さに耐えきれず、青信号のまま道路下に埋没する。

 岸司令の意識が、1・5秒ブラックアウトした。




次回予告

 天の怒りか悪魔の業か?

 渋谷に降り立つスクリーマーロボ一号に、マスコミとネット民が野次飛ばす。

 あいつの頭は大丈か?!

 次回「アタック・ザ・キラー飛芽 E(エクセレント)パート」を、無差別に観よう!

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