第10話 アタック・ザ・キラー飛芽 C(キャスター)パート

 【ブラスター】

 戦隊シリーズで使われる銃器は、ほとんどブラスターの呼称で済まされている。雑魚戦闘員は一撃で倒せるが、怪人などには小ダメージや牽制程度にしか効かないのがセオリー。

 五人で一度に攻撃すると、怪人を倒せる必殺技になる設定の場合もある。

 この作品では関係ないけどね。



 十話 アタック・ザ・キラー飛芽 C(キャスター)パート



 朝顔と飛芽の状態は、極秘戦隊本部で常に把握されている。

 付近で待機していたゴールド、ミント、ブルーに連絡が入り、変身して急行する。

 ミントをサイドカーに乗せてバイクを走らせるゴールドが、現状に文句を垂れる。


「店の外壁に敵メカがセミみたいに張り付いているのに、どうして誰も気が付かなかった?」


 ライブ映像では、東急ハンズ渋谷店が変形して巨大雑貨屋店員ロボへと姿を変えていく。不審なメカは心臓部分に収まり、巨大雑貨屋店員ロボは『いらっしゃいませ〜』と通常の営業であるかのように振舞っている。現状では、戦闘向きには見えない。

 周囲の通行人は、東急ハンズ渋谷店の新しい機能なのかと、やや足を止めては写真を撮って通り過ぎる。

 中の人々が人質に取られたとは、まだ認識していない。 


「だって、東急ハンズ渋谷店は、元から変だったから。誰も通報しないわよ」

 ウクレレの用意をしながら、ミントは適当に答える。

 その後ろを、青と白のヨコシマ塗装を施された専用戦闘バイク『ジェット・ヨコシマン』に乗ったシマパンダーが黙々と戦意を高めている。


 ブルースクリーマーとしては無期停職中なので、今日もシマパンダーとして出撃せざるを得ない入谷恐子だった。

 つーか、もう、シマパンダーとしての活動期間の方が、長い(紛らわしいというか面倒臭いので、同僚たちは当初からの呼び名「ブルー」で済ませている)。

 シマパンダー(ブルースクリーマー)の活躍をネットやニュースで見聞きする一般ピープルは其の辺の事情なんぞ知らないので問題はない。

 知っている戦隊・特撮マニアも、馬場正平さんがジャイアント馬場を名乗るようなものだと解釈して流している。

 同業者も、セルフ襲名や魔改名、別キャラに成り済ましての仕事には心当たりがあるので、ツッコミを入れない。

 国際特殊警備会社ブルーストライプが入谷恐子を戦力として余さず使う為の方便に、誰も好んでツッコミを入れようとはしない。

 馬鹿馬鹿しいし。

 入谷恐子本人には、抗議したい気が燻ってはいるが、この方便で給料を貰ってしまっている以上、強くは出られない。

 流されて妥協しているうちに、秋葉原スミレ博士が専用戦闘バイク『ジェット・ヨコシマン』をゲラゲラ笑いながら作ってしまい、ますますシマパンダーとしての設定が現実に上乗せされていく。

 そんなアホな近況が頭から吹き飛ぶ程に、入谷恐子は戦意がMAXを超えて高まっている。


「朝顔に手を出した奴、殺すであります。朝顔に手を出した奴、ぶっ殺すであります。朝顔に手を出した奴、皆殺しであります。朝顔に手を出した奴、瞬時に殺すであります。朝顔に手を出した奴、マジ殺すであります。朝顔に手を出した奴、一族郎党殺すであります。朝顔に手を出した奴、関係者一同殺すであります。朝顔に手を出した奴、裁判抜きで殺すであります。朝顔に手を出した奴、弁護士抜きで殺すであります。朝顔に手を出した奴、痛み止め抜きで殺すであります。朝顔に手を出した奴、懺悔させずに殺すであります。朝顔に手を出した奴、五寸刻みで殺すであります」


 愛妹・朝顔のピンチに、入谷恐子・シマパンダー(ブルースクリーマー)は、怒髪天なう。

 戦闘バイク『ジェット・ヨコシマン』の操縦は、とっくに自動モード。

 シマパンダーは交通の妨げにならないように大太刀(既にシマパン・ブレード状態)を肩に担いで、現地に着き次第、斬りまくる準備に専念している。

 彼女が戦国時代に生まれていたら、ついでに二千人は死んでいただろう。


「あー、フォローが必要だね」

 ミントはサイドカーを切り離し、ブルーのバイクと連結する。

「フェーズ3(巨大メカ、又は巨大化した敵怪人の出現)は初めてでしょ?」

 公道を走行中の危険な荒技に、ブルーの意識がミントに向けられる。

「動くデカブツから人質を救出するから、大太刀は邪魔だよ。私がサポートしてゴールドが中に突入。操縦部を占拠するから、ブルーは外で牽制」

「・・・」

 最前線で斬り込みをかけるつもりしかなかったブルーは、納得できずに返事に詰まる。


 ミントは、ブルーの頬を、マスクの上から尺八でゴツゴツと突つく。


「快く返事をしないと、助けた朝顔ちゃんに長時間ディープキスして、奴隷にしちゃうぞ」



 ミントがブルーの制止に成功したのを待ってから、ゴールドは岸司令に巨大ロボの発進を要請する。

「司令。スクリーマーロボ一号の発進を、お願いします」


『そうかあ? 要るかな? 強そうには見えないが』

 岸司令は、根回しと手回しと事後処理が超面倒臭い巨大ロボの出撃要請に、難色爆発。

 巨大ロボの出撃は、責任者の体重がストレスで三キロは減るとまで云われる激務である。

 岸司令がライブ映像の中で見る巨大雑貨屋店員ロボは、元の立地から一歩も動かずに、営業スマイルを浮かべている。

 今の所、人質は採っていても、破壊活動は始めていない。

 ゴールドは、その辺も承知の上で要請を重ねる。


「接近するにも突入するにも、当方の巨大ロボと対峙している方が、速やかに済ませられます。巨大ロボが対人迎撃に集中したら、俺だって何も出来ませんよ」

『んんんんん〜〜〜〜』

「司令。人質の中には、入谷朝顔も含まれています。対応が遅れると、詰みます」

『ああああ、うん』


 岸司令が怠惰に傾きかける気持ちを跳ね除けようと気力を振り絞っていると、巨大ロボを隠してある富士山の秘密開発基地から、連絡が入る。

 正確には、富士山の樹海から放たれた矢文が、渋谷の地下の基地司令室まで貫通し、岸司令の机上ど真ん中に突き刺さる。

 地理条件も物理法則も作者の信用も全く意に介さないチートな矢文の書き主は、開いて見るまでもなく、極秘戦隊初代レッドスクリーマー、ティルである。


「 すくりーまーろぼ一号ハ、出撃可能。

 教練ハ終エタゾ。

 笑点ノ座布団運ビスラ可能ナ仕上ガリダ。 

 感謝セヨ

        てぃるヨリ  」


 山ほどのツッコミを返したい気持ちを押さえつけ、岸司令は命令を発する。

「スクリーマーロボ一号、発進して」

 過労死を覚悟して投げやりに言ったら、指令室のスタッフ一同が責めるような視線を集めてくるので、岸司令は威厳を持って言い直す。


「スクリーマーロボ一号! 発進!」

 ちゃんとポージングをして命令を下したので、スタッフ一同は満足してくれた。



 朝顔は、スマホで現状を確認した。

 スナックアマゾンが堅固な操縦ユニットと化し、取り憑いた東急ハンズ渋谷店を巨大雑貨屋店員ロボへと変貌させる様を。

 メイドロボ店員一号が巨大ロボ操縦のパントマイムを始めた時は発狂したのかと思ったが、マジで操縦している。

「外からの投稿動画を確認した方が、現状を確認できる。通りすがりの素人の方が、いい絵撮れるね」

 テーブルを挟んで向かい合ったクモ男型怪人店長・大泉太平は、朝顔に可能な限り愛想良くする。眼鏡っ娘JC美少女が相手なので、本気で愛想良くしている。

 さっきまでパンケーキ怪人に抱きすくめられていた上に、横で親友の飛芽が串刺しにされているので、無駄な愛想なのだが。


「中二病プリンターで巨大ロボを呼び出せる作家力が有るのに、プロにはなれなかったのですか? 残念ですね。ていうか、どうしてクモ男に? やられ役願望でも? 都合のいい異世界に転生すればいいのに」


 朝顔の辛辣な口撃(死ね死ね成分105%含有)に、ノベルワナビーは傷付かないように振る舞う。


「中二病プリンターに作家力を認められても、まず編集者が認めてくれないとね。それを待つ気は、もう無いんだ」


 大泉太平は、己の持つ中二病プリンターを朝顔の手元に転がす。


「チャンスをあげよう。それを握って、自作品の中から助っ人を呼ぶといい」


 明らかに罠くさい匂いがプンプンする提案に、朝顔の苛々は増す。


「君の考え出した最も強いキャラと、私の考え出したキャラたちの勝負だ。いい趣向だろう?」

 

 どういう罠だか分からないが、チャンスではあるので朝顔は中二病プリンターを手に取る。

 懐中時計のようなその道具は、ウサギと握手をした時の感触を喚起させた。


「あ、使い方はねえ、キャラの名前・容姿・声を強烈に念じるだけでいいから。音声は、要らない。作者自身の出力なら、すんなり生まれる」

「はあ…」

「出力したキャラクターには、呼び出した者の基本知識が付与されるから、次元ギャップは最低限で済む」

「じゃあ、飛芽が方向音痴なのは…」

「初期設定だ。一人の人間を形成するのに十分な情報量がない場合は、作者ですら忘れていたような初期設定がキャラに付与される。

 あ、一人だけだぞ、呼んでいいのは。軍団とか惑星丸ごととか呼び出そうとすれば、止めるからね」

「ちっ」


 自作品のオールスター軍団(宇宙用重巡洋艦を旗艦とする三十隻の大艦隊&機動兵器八十機&魔人クラスのキャラ二百人)を呼び出すつもりだった朝顔は、露骨に舌打ちする。


「そっちはもう巨大ロボとか呼び出しているくせに、シミッタレていますね」


 本気で残念がる入谷朝顔に、店長は『この小娘は早めに死なせた方が、世のため人のためじゃなかろうか?』とか冷や汗をかきつつ、眼鏡っ娘だから黙認した。



 一方、串刺しにされてスナックアマゾンの床で断末魔のゴキブリのように横たわっているレッドスクリーマー・飛芽は、反撃出来ないかとない知恵を絞っていた。

(うぐううう情けない。ダーク・アラシさえなんとかできれば…)

 飛芽を半殺しにした敵の攻撃隊長は、朝顔と店長の隣のテーブルで、バナナパンケーキを注文してからスマホゲーム(恐らくはFGO)で暇を潰している。

 余裕を見せつつも、飛芽への動きからは一切意識を逸らしていない。

(鬼強の上に油断してくれないとか、勘弁してよ〜)

 まさに泣き言を漏らしながら、飛芽はマスク内でゴールドの指示を文字情報で受け取る。

(巨大ロボを呼んだ? 同時に突入するから、下手に動かずに死んでいろ? なめやがって、あの金ピカツインテールめ〜)

 憤慨しても、チートな戦闘服のお陰で死なずに済んでいるだけの負けトマトである。

(うううううう、死なない以外の機能は、ないのかよう〜?) 

 無力に呻く飛芽の眼前に、新しいウインドウが開く。


 画面には、黒い棺桶が映し出されている。


 その表記を読む前に蓋が開き、入っていた十代後半と見られる黒下着の東洋系美少女が、黒いガーターベルトを履きながら、飛芽と目を合わせる。


『ああ、着替えながらの初対面でゴメンね。緊急の出番で慌てちゃって。寝惚けてはいないから、安心して。ていうか、眠りが浅い体質だから。

 ワタシ』


 飛芽は、その新キャラから一切目も意識も反らせずに固定されてしまった状況に、恐怖を募らせる。

 ゴールドもミントも岸司令も、この新キャラが極秘戦隊の回線に割り込んでいるのに、反応していない。


 そして、謎の黒ガーターベルト美少女が着替えている棺桶の周囲は、飛芽の見た限り、土が汚く腐っている。


 セミロングの灰色髪に赤いカチューシャ、黒いジャケットに黒いショートパンツ。

 灰色の大型アサルトライフルに、黒いドクロ刻印の銃弾を補充するその美少女の瞳は鋼鉄色一色で、飛芽の血塗れの顔をドアップで見ているであろうに、お見舞いの言葉も同情も寄越さない。


(…こいつ、吸血鬼か??…)


 十三本の刃物で串刺しにされてもメゲなかった飛芽の意識が、彼女からの接触で途切れかかる。



次回予告

 岸司令の労働時間を聞いてはいけない。

 作者が困るから。

 黒い新キャラは、敵か味方か?

 そっちの方を気にしよう。

 作者と良い子のみんなとの約束だ。 

 次回「アタック・ザ・キラー飛芽 Dパート」を、みんなで見よう!

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