第3話 ウルトラマンの制限時間三分は、世間の誤解から生まれた(後編)
【渋谷宇田川町】
渋谷の中心町域。
渋谷センター街、道玄坂、文化村通り、スペイン坂、パルコ、西武百貨店が存在する、渋谷を代表するエリア。
名前の由来となる宇田川は、暗渠化されて地上から見る事は出来ない。
三話 ウルトラマンの制限時間三分は、世間の誤解から生まれた(後編)
スクリーマーズからの報告に、岸モリー司令は引っかかりを覚えた。
巨乳眼鏡秘書の淹れてくれたコーヒー(モンブラン)を飲みながら、戦況を整理する。
中二病プリンターの回収に成功。
怪人を一人捕縛、一人を保護。
負傷者なし。
ただし…
『トマト娘の差し出した中二病プリンターは、自分を呼び出したノベルワナビーから取り上げた物です。この店に間違って陳列されていた品ではありません』
ミントスクリーマーは、店内から二つの中二病プリンターを入手した映像を基地に送る。
「トメイトゥちゃんは、誰かの入れ知恵でスクリーマーズが、その店に寄る事を教えられたのか?」
岸モリー司令は、相手の名前を必ず正しく発音する。
『リーマン風の男に、ここで保護を求めるように勧められたそうです』
「そうか。釣りの餌に使われたか」
岸モリー司令の脳内で、救援を派遣するにはどこの民間戦隊に頼めばいいかの取捨選択が始まる。
『罠に嵌められた可能性が高いです。ゴールドには、店の外で警戒を続けてもらいますが、問題は…』
『店ではなく、地上階に網を張っている場合です』
ゴールドスクリーマーが、最悪の可能性を司令に具申する。
『戦闘が発生した場合、建物内の民間人千人以上を避難させる必要が生じます。守りきれません』
「よし。地上には戻るな」
岸モリー司令は指示を出しながら、携帯電話のメールで三つの民間戦隊に緊急メールを送る。
「三つの戦隊で地上階を包囲し、罠を張った相手が撤退するように仕向ける。スクリーマーズは、地下の店内で待機」
ゴールド『待機しながら迎撃ですね』
ミント『待機しながら買い物して時間潰す』
ブルー『待機しながらシマパンダー撲滅でありますね』
ゴールドが店内にいたら、速攻でブルーに蹴りを入れているなと、岸司令は吹き出しそうになる。
「そんなに嫌かね? シマパンダーの渾名が」
『どこの誰が喜ぶというのでありますか? こんなバカ丸出しな渾名を』
その頃。
岸司令からの応援要請メールを見て出撃した「下帯戦隊フンドシ5」は、専用トラックのコンテナ内でシマパンダーの話題をしていた。
「シマパンダーめ。俺たちに助けを求めるとは。同じジャンルの先輩を立てているのかな?」
赤い戦闘服の上に赤いフンドシを締めているフンドシレッドが、カメラ目線でジョジョ立ちしながら話を都合よく誤解する。
「登場以来、検索件数は我々の三百倍。日本独自の下着をモチーフにした我々の努力は、ポッと出の新人に二週間で大差を付けられた。ヒデキ、泣いちゃう」
青い戦闘服の上に(以下略)フンドシブルーは、嘘泣きしながらニヒルに相槌を打つ。
「おいどんたちと比べてもハレンチな女子でゴワスが、半月で怪人を三人撃破。実力は確かでゴワス」
黄色(以下略)がカレーを食いながら(以下略)おかわりをした。
「あそこのゴールドとミントは別格ですから。シマパンダーの強さは、割り引いた方がいいのでは?」
緑(以下略)黒縁メガネを掃除しながら(以下略)鼻毛を抜いた。
「あの二人がいるのに戦果を挙げているから、凄いのよ。エース級二人に割って入れる技量がなければ、戦果なんて挙げられないわ」
桃色(以下略)メリケンサックを外しながら(以下略)バナナを先端だけ食べて車外へ投げ捨てた。
「むうん。シマパンダー、恐ろしや」
追加戦士のフンドシシルバー(以下略)心臓の発作を隠しながら(以下略)脳軟化が進んでいたので、出撃の理由を聞き直す。
一部のイロモノ戦隊から高評価を受けているとは知らず、シマパンダー、いやブルースクリーマーは、レベルの高いコスプレイヤーが揃っている某古本漫画店で待機の合間に、『誤解を解く為の啓蒙活動 シマパンダーなんて幻想をぶち壊してやるキャンペーン』に精を出す。
「もし、そこの旅のお方。ブルースクリーマーとシマパンダーの違いはご存知でありますか? ガンダムMk-IIとバーザムぐらいの違いがあるでありますよ」
二人の並んだ写真を見せながらの啓蒙活動であった。
ルパン三世のコスプレをした店員は、からかう誘惑に耐えて親切な口調で切り捨てる。
「うんうん、違いは分かるよ。デマが広まった経緯も。でもね、ここまで認知されちまったら、もう本人の君でも手の付けようがないと思うよ」
「ですから、こうして分かり易く解説を」
「人間ってのは、直接見聞きしても、信じたい事だけを都合の良く信じたがる生き物なんだよ。俺、たまに初期型の緑の背広に着替えるけど、ここの客層でも赤でなきゃおかしいって、ツッコミ入れてくるんだぜ?」
「・・・」
「君がブルースクリーマーの初期設定から、ネット民が勝手に盛り込んだシマパンダーの憶測設定に乗り換えても、誰も不思議には思わないさ」
「・・・いや、シマパンを剥き出しにして戦うとか、ありえないでありますよ」
「今、考えたでしょ?」
「ありえないという認識を上書きしただけであります」
「ちなみにルパン三世は縦シマのシマパンだから、脱ぐとツーショットが映えるよ?」
「佞言、断つであります!」
ルパン三世(のコスプレ店員)との会話を打ち切り、ブルースクリーマー・入谷恐子は一旦ミントと合流する&泣きついた。
「本人が否定しているのに、みんなシマパンダーを推すであります! 頭がオカシイであります!」
ミントはブルーの頭をヨシヨシと適当に撫でながら、
「世間様の期待に妥協しちゃえば? 戦闘服の上にシマパンを履けばいいだけだし」
適当に話題を流そうとする。
「いやであります」
「動画の再生回数、上がるよ〜」
「浮薄なる人気などに、興味は無いであります」
「知名度上がると、石油王の目に止まるかもよ?」
「自分は、大太刀で敵をズンバラリンして給料がもらえれば、それでいいであります」
「うん、ベクトルが違うだけなのね」
ミントがブルーの残念度を再確認していると、トマト怪人トメイトゥ(捕虜として慎ましく古本漫画を立ち読み中)が心底感心してブルーを見詰める。
「すごいなあ。この時代にチャンバラ人生を選ぶなんて。潰しが効かないのに」
「お家芸と時代のニーズが一致したであります」
「お家芸って、必殺仕事人?」
「見廻組」
旗本娘は、京都で新撰組と同じ仕事をしたご先祖様を、胸を張って自慢する。
「ああ、なるほど。あれも戦隊みたいなものかあ。バッドエンドだけど」
「時代の需要が尽きただけであります」
「ところで、シマパンでパワーアップするって本当?」
かわいい捕虜にヘッドロックをマジにかけて捻り潰そうとするブルーをミントが引き離すうちに、ゴールドが店の入り口から声をかける。
「周辺で罠を張っていた敵の撤退を確認した。俺たちも帰投する。応援に来てくれた連中に挨拶するから、漫才プロレスを止めろ、シマパンダー」
シマパンダーと呼ばれて、猛るブルーは攻撃の矛先をゴールドに変更する。
「戒名を決めるであります、シスター!」
彗星の如く勢いのあるドロップキックを、ゴールドスクリーマーは片手で受け止めると、燃えないゴミ箱にアホな後輩を頭から叩き込む。
「仕事中だ。遊ぶな」
「ギャフンであります」
「強い…」
トマト怪人トメイトゥは、ゴールドスクリーマーの力を目の当たりにして、ミントの手を握って身を寄せる。一歩間違えば戦っていた相手の力量を見て、怯えている。
「そう…分かるのね。ゴールドのヤバさが」
ミントは、トマトの頬をプニプニしながら緊張を解しにかかる。
「大丈夫よ。萌えキャラには優しいから」
「それ、ミントにだけだよ」
「…そうかも」
意外と鋭い指摘に、ミントは少し詰まる。
エレベーターで地上階に戻ると、紙幣戦隊ピンサツジャーの五人が顔を揃えていた。
「ゴールドスクリーマーに恩を売れたと解釈していいのかな?」
一万円札モチーフのマスクを被ったショウトクレッドが、ゴールドスクリーマーと握手する。
「その解釈で問題ない。感謝する」
握手する両リーダーの横から、手袋だけを外したフクザワブルーも握手を求めてくる。
「たまには生でしようぜ、生で。握手だけでいいからさあ」
ゴールドスクリーマーはフクザワブルーの手を取ると、投げ飛ばして生ゴミ用ゴミ箱へ入れた。
誰も何もコメントしなかった。
好意的な挨拶を済ませると、好意的ではない挨拶を済ませにかかる。
シンプルな色調で統一された五色の五人が、正面玄関ホールで、これ見よがしにしていた貧乏揺すりを中断する。
全身を赤で染め上げた戦闘服の男は、ジト目をモチーフにしたマスクの下から、慇懃無礼に挨拶をする。
「礼は不要だ。来ただけだし。それよりも気になるのは…マトモでない君達に必要だったのかな? マトモな我々の貴重な時間が?」
マトモ戦隊マットウジャーのリーダー・アカマットウの苛立つ声を聞いたその瞬間に、入谷恐子は仕事抜きで斬りたくなった。
「岸さんの判断を疑いたくはないが…マトモでない君達は十分に強い。マトモな我々が来なくても、罠なんて平気で食い破っただろう」
丁寧な声音が含まれると、吐かれる文言が不愉快に聞こえる男だった。
「民間人を巻き込まない為の配慮だって、理解出来ないのか?」
「しているっ」
ゴールドスクリーマーから露骨に見下されて、アカマットウは激昂しかかるが、勝てない相手だと思い直して、声音に笑いを滲ませる。
「理解はしているけれど、近くにいたからって、マトモな我々に声をかけるのは…」
「近くにいなかったら、そりゃあ声をかけないよ。誰も」
ゴールドスクリーマーの言外の含みに、トマト怪人トメイトゥが吹き出しかける。
嗤われる気配だけでも、アカマットウは敏感に反応する。
「二次元からひねり出された下品な有害物質を、また保護したのか? マトモじゃないな」
赤いジト目のマスクに視線を向けられて、トマト怪人はミントの背に隠れる。
視線から逃れようとしても、言葉で平気で人を傷付ける相手だった。
「ここはお前の世界じゃないから、マトモな居場所なんて、ない。元の場所に…アオマットウ、こいつの元の世界でのポジションは?」
控えていたアオマットウが、トマト怪人トメイトゥの登場する投稿小説を速読し、必要な情報を悪意と偏見ミックスで教える。
「有害ポルノキャラ。
敵にも味方にもセクハラされて、読者の性欲を煽る有害ポルノキャラ。
作者が都合よくセクハラ出来る、萌えポルノキャラ。
彼女は、生まれも存在もマトモではない」
「うっわっ、お前、マキシマム・マトモじゃないわ。この世界に居ても、変態の餌食にされて終わりじゃね?」
トマト怪人トメイトゥの目から溢れた涙が床に落ちるより早く、怒れるスクリーマーズは名称通りに絶叫しながら、マトモ戦隊マットウジャーに殴りかかる。
姉様が平日の午後四時前に先に帰宅していたので、入谷朝顔は事情を察した。
渋谷の真ん中で白昼堂々、戦隊同士が大喧嘩をしたという速報は、全てのメディアで扱われている。
「ただいま、姉様」
「おかえりであります」
入谷恐子は居間で、山のように積んだプリンを黙々と食べている。
朝顔と同年代の、真っ赤な客人と一緒に。
赤と白のボーリングシャツに、赤いコクーン・スカート。赤毛のおかっぱ頭の上には、緑の草がチョロチョロとアホ毛のように生えている。
トマト怪人としてのパーツを大部分封印し、一般人として入谷恐子に預けられたトメイトゥだった。
「…どなたでしょうか?」
待っていても二人ともストレス解消にプリンを食べているばかりなので、朝顔は紹介を促す。
眼鏡っ娘JCを間近で直視したトメイトゥは、プリンを摂取する手を緩めて、礼儀正しく朝顔に対する。
「我輩はトマト怪人トメイトゥ。捕虜です。一般市民としての名前は設定されていないので、募集中です」
トメイトゥは、両手で己の顔の筋肉を解しながら、初対面の印象を少しでも好くしようと、笑顔を作る。
この子は萌えキャラの設定なのだと、朝顔は笑い返しながら納得する。
国際特殊警備会社ブルーストライプの司令室で、岸モリー司令は始末書三人分をゴールドスクリーマーから受け取る。
重ねて頭を下げようとするゴールドに、岸司令は厳しく注文を付ける。
「謝るつもりなら、直に顔を見せなさい」
司令室には他に、巨乳眼鏡美人秘書の服部月乃と、ミントスクリーマーの変身を解いた私服の数寄都下樹美しかいない。
それを視認で再確認してから、ゴールドスクリーマーは変身を解く。
ゴールドスクリーマーの体が、中央から真っ二つに開いて、中から二十歳前後の細マッチョ青年が現れる。
金髪碧眼ツインテール美少女の外見そのものが、戦闘服の一部分なのだ。
彼は、正体を隠す為に、ここまで化粧を施している。
輝きの鈍い金髪よりも浮かぬ顔で、ゴールドスクリーマー・金沢利家は頭を下げる。
「この度は、任務中にも拘わらず私闘に及び、誠に申し訳ありません」
「…うん。謝るのは、その点だけでいい。俺だって殴り倒してやりたかったよ。未成年者に言葉の暴力を振るうクズを」
リアルタイムでマトモ戦隊との経緯を視聴していた岸司令は、理解を示しつつ、追い討ちをかける。
「出来れば闇夜に紛れて、こっそりと私刑にして欲しかったなあ。犯人が特定できないように」
関係者一同に謝り倒しつつ、戦隊の活動に支障の出ない範囲で手打ち交渉をまとめて疲れ果てた岸司令は、戦隊のリーダーに愚痴をこぼす。
「まあ、俺はそのつもりだったのですが…」
金沢利家は苦り切った顔で、瞬時にアカマットウを病院送り(全治三ヶ月)にした脳筋後輩を脳内で罵倒しまくる。
「…君にも止められないか、切れたイリヤは」
岸司令は、新人がダークホースというか爆弾に近いものと認識を改める。
「まだ正式決定ではないが、三人とも減俸は確実だ。停職は、最初に手を出したイリヤ一人だけにする。期間は未定だ」
微妙な顔だったが、金沢利家は引き下がる。
マトモ戦隊の他四人を病院送りにしたのはゴールドなのだが、罰を進んで頂戴する程にバカ真面目でもない。
黙っていなかったのは、ミントスクリーマー・数寄都下樹美の方だった。
「トマト娘に護衛を付けなくていいの? 今日罠を張ったリーマン風の男の顔を覚えているから、重要な目撃者ですよ? ひょっとしたら、中二病プリンターをばら撒いている奴らの尻尾を掴めるのに」
詰め寄る樹美に、岸司令はニッコリと応じる。
「ここに置いて保護したら、敵も手を出し辛い。かわいそうだ。渋谷の一般家庭に居候させておけば、敵も手を出し易い。お互いの需要が満たせるじゃないか」
数寄都下樹美は笑顔で納得して手を叩きつつ、ツッコミを入れる。
「イリヤちゃんの家って、一般家庭の範疇に入るの?」
理解ある先輩に一般家庭かどうかを疑われているとも知らず、入谷恐子は父と母と妹と客人と食卓を囲んで和んでいる。
いや正確には、入谷恐子以外は和んでいる。
和んでカレーを食べている。
「ふうん。未使用の中二病プリンターを会社に届けると、賞金二百万円かあ」
トメイトゥから聞いた情報を、イリヤ父はカレーと共に美味しく咀嚼する。
「もう手裏剣製造の会社を辞めて、中二病プリンター専用のハンターになろうかな?」
「もうそれ狙いの民間戦隊で溢れているであります」
長女の指摘に、イリヤ父は耳を貸さなかった。
「手裏剣戦隊シュリケンダーと名乗りたいが、どうだろう?」
「東映様から起訴されるから、やめて、東映様から起訴されるから」
次女からの指摘に、イリヤ父は俯いてカレーに専念する。
「今日のカレー、トマトカレーなんですけど、大丈夫かしら? 共食いにならないかしら? 脳にプリオンとか発生しないかしら?」
一皿目を食べ終えてから、イリヤ母はトメイトゥに尋ねる。
全てが終わった後に気配りをする、天然の人なのだ。
「いえ、逆にパワーアップしますので、心配ご無用」
「吸血鬼と同じ理屈かしら?」
「…そうですね」
悪意のないボケにはツッコミを入れ辛い、居候一日目のトメイトゥだった。
入谷恐子が一人だけ和んでいないのは、トメイトゥを居候させる事についてではないし、停職や減俸についてでもない。
テレビの全国放送でお茶の間にガンガン流されてくる、今日の大喧嘩の映像(提供元は、マトモ戦隊)が、入谷恐子の気分をマイナスに落とし続ける。
病院送りにした連中からの仕返しが、逃れようのない潮流に入谷恐子をドッコイショと叩き落とす。
アカマットウをブン殴る時。
ブルースクリーマーは右手に、握っていた。
シマパンダーのコスプレ店員から没収した、青と白のストライプのシマパンを。
怒りに我を忘れてアカマットウをボコボコにしている間、握ったままだった。
『ご覧ください! シマパンダーの必殺技を! シマパンを穿いたり被ったりするのではなく、拳に巻いてメリケンサックのように使っております』
バラエティ番組内の今時ニュースコーナーで、無表情でも表現豊かなレポーター・十三夜更紗が、勝手な憶測を公式ステータスであるかのように垂れ流す。
『見た目、三倍以上の威力でしょうか。ラスボスの攻撃でも中破で済む戦隊の戦闘服を着ているというのに、アカマットウは全治六ヶ月(本当は三ヶ月)の重傷を負わされました』
マスコミは敵よりタチが悪いと、入谷恐子は魂に刻んだ。
『ネット民は、このパンチを『シマパンチ』と命名し、声を潜めてこっそり教えてくれました。ネーミングセンス、いいですね』
最後の文章だけ、更紗はマジで無表情に流した。
「もう、ザ・マウンテンテレビを見るのは、やめるであります」
入谷恐子は、ザ・マウンテンテレビへの義絶を宣言する。
「なんで? バラエティしか取り柄のないテレビ局は、実の娘より貴重なんだぞ?」
イリヤ父は、長女の憂鬱よりも、バラエティ番組を選んだ。
イリヤ母は、由緒正しい動作でイリヤ父の後頭部をスリッパで叩く。
姉様の憂鬱を察し、朝顔は慰めを試みる。
「停職期間が終わる頃には、ブームも終わっているよ」
「もう、ブームの問題じゃないであります」
入谷恐子は、悲しそうに現実を受け入れる。
「みんなの心に、シマパンダーが根付いてしまったであります。もう、自分にも撲滅できないであります」
入谷恐子は、三杯目のカレーを遠慮なく食べるトメイトゥを見詰める。
彼女とは真逆に、イリヤは現実から空想の産物へと固定されてしまった。
「自分の方が、ただの設定になってしまったであります」
次回予告
入社半月で減俸&停職のイリヤに、シマパン教団シマシマドリルが誘惑の手を伸ばす。
シマパンダーとして教団の女神になれば、時給三万円が貰えるという誘惑に、イリヤは勝てるのか?!
次回、『あ〜ららら女神様』を、みんなで見よう!
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