第5話 心中。愛の果てに。
『私、太宰治に憧れているの…彼の死への執着は凄まじいわ…』
そう言いながら僕の首に腕を回す君。
『でも彼は、あれ程死を求めながら死を恐れていたのだと思う…』
表情こそ解らないが、寂しげな口調で君が言う。
『何回も心中を繰り返しては、相手の女性だけが死に魅入られるのに対し、彼だけは死に辿り着かない。それは彼が実際には死を恐れていたからよ。最期には死に魅入られていたけれどね…』
僕は君が一体何を僕に伝えようとしているのかが解らなかった。
しかし次の瞬間…
僕の首に回っていた腕に力が入った。
『ねぇ…一緒に心中しない?』
君が耳元で囁く。
僕はやっと君の言葉を理解した。
『いいよ』
敢えて微笑んで見せた。
君はただ黙って僕を見つめながら手に力を込めた。
苦しさに喘ぐ哀れな僕。
太宰治の話は、きっと君自身の事だったんだね…
死に魅せられながら、死に魅入られない。
君は口で言うのとは反対に、死に対して怯えていた。
『大丈夫、怖くないよ』
また微笑むと、君も少し笑ってますます手に力が入った。
『ねぇ…死んで…』
最後に微笑んだ君は嬉しそうだった…
あぁ…君は死に魅せられて心中しようとした訳ではなかったんだね…
解ってあげられなくてごめん…
さようなら…愛すべき君よ。
end.
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